あ なたに・・・
製作 越後屋光右衛門雷蔵


「し、しまった・・・」
ネルフ発令所の下。戦略自衛隊の侵攻に、危うくサード・チルドレン碇シンジを消去されそうになった所を救助した葛城ミサト。その非凡なる戦闘員の本領を 発揮して敵を殲滅後、無気力なシンジに喝を入れる。
ぐずる碇シンジの手をズルズル引きながら、エヴァンゲリオンが格納されているケージへと向かっていた。
・・・が。徐々にその足の速度は遅くなり始め、やがて冒頭のセリフとともに止まった。
「・・・どうしたんです?」
生気の無い、魚の死者といった趣の視線をミサトに投げやるシンジ。
引きずられるまま無気力状態のシンジにして、この変貌は解せなかったらしい。あれだけ偉そうな御託を並べた挙げ句の豹変だ、おかしいと思うのは当然だっ たろう。己の首をひっつかむ腕がプルプル震えていた。考えたくはなかったが、思い当たるそれらしい要因を一言、言ってみる。
「あの・・・まさか・・・迷った?」
「・・・・・どうしよう。」
肉付きの良い、それでいて決して太くなく美しいラインを持つ白い脚が小刻みに振動していた。そのまま視線を上に上げ、形のいい丸いお尻を過ぎて後頭部へ と視線は至る。ゆっくり振り向いたミサトの眼に涙が滲んでいた。先ほど自分に喝を入れた人物と同じとは思えないほど、彼女は弱々しく肩を落として情けない 面表を晒すのであった。





ぐずっていた。
シンジではない。方向音痴と言われれば身も蓋もないミサトである。己自身、相当情けなかったのであろう、キリッとしていれば凛々しい魅力を爛々と放つそ の眼は、滂沱と流れる涙に溢れウルウル潤んでいる。震える肩をシンジに抱きかかえられながらトボトボ歩を進める。
「・・・仕方ありませんよ。」
シンジはそう言いながらもあきれ顔。当然だ。だが、それでも妙齢の美女、楚々と泣き崩れるの図を間近にして彼の心に些かながらの動きが出た。初めて見る 姉と慕った女性の弱々しい姿。それはシンジの、多少なりとも持っていて、なおかつ少々ではあるものの残っている男の魂を点火するに充分なものであった。そ して、意識はしていなくとも、彼女を一人の女性としての認識を魂に刻み込んだ事もまた事実。
「ううっ・・・ひっく、ひっく・・・」
「もう泣かないでくださいよ。」
「・・・ごめんね、シンちゃん。こんな大事な時に・・・わたし、もう死んでしまいたいわ。」
「何を言ってるんですか?やる事をやって、それから死ぬならまだしも、ミサトさんはまだやりたい事一杯ある筈でしょう。」
「そうね、ありがと、シンちゃん。やっぱり男の子なのね、頼りになるわ。」
よくよく考えれば、この非常時に道に迷う方が相当情けない話で、リツコが今ここに居たら「すぐ死ね」くらい言われそうである。が、そこは性根の優しいシ ンジの事、初めて必要とされた喜びに内心打ち震えていた。
「さ、取りあえずケージに急ぎましょう。」
と、ミサトの肩を優しく抱きながらエヴァンゲリオン初号機が待つケージへと急ぐのであった。





戦略自衛隊の侵攻に築かれた死屍累々を掻き分けながら進んでいくシンジとミサト。シンジは片手で南無阿弥陀仏と唱えながら、ミサトの肩を抱いちゃってい たりする。
ようやく到着したケージには。
硬化ベークライトに埋もれ固まる初号機。既にベークライトは固まって外側からは、人間の手ではどうしようもないくらいの硬度にまでなっている。
シンジはそれを見て絶望感に打ちひしがれ、膝から力が抜けていきガックリ座り込みそうになる、が。
「もうダメよぉ。」
と、ミサトが先んじてペッタリと座り込んで頭を抱え、シクシクと泣き出した。気勢を先んじられた形になったシンジは顔をミサトに向け呆然と見るのであっ た。
(なんか、流れとしてはぼくのセリフのような気がするんだけどな・・・・・)
などと思いながらも、シクシクと弱々しく項垂れるミサトをそのままにしておけるはずもなく、微かにでも芽生え始めた男気をチロチロ発揮させ彼女を励まし たりする。
「ミサトさん、泣かないでくださいよ」
シンジはキッと初号機を見回す。と、上手い具合にエントリー・プラグの辺りはベークライトに固まってはいないのが確認出来た。
「ほら、大丈夫ですよ。プラグ周りは無事そうですよ」
シンジはそう言いながら、ミサトの肩に手を置きながら片方の手で初号機を指さすのだった。ミサトは涙に濡れた顔をゆっくり上げシンジの指さす方を見る が、すぐに顔を伏せてまた泣き出した。
「ダメよぅ、あんな高い所シンちゃんが登っていけるはずないわ。もうダメよぅ・・・」
ガバッと。
ミサトはシンジにいきなり抱きついた。グリグリと自分の豊満この上ない胸を押しつけながら、弱気としか言い様のないセリフをまた吐き散らす。
「シンちゃん、ダメならダメで・・・一緒に死んでぇ」
シンジの眼がキュッと据わった。グッとミサトの肩を掴んで引き離すと、涙に濡れた顔をひっつかみ軽く開かれた唇を目標に、突撃していった。
驚愕に見開かれるミサトの眼。激しく瞬きしながらシンジのキスを受け入れ始め、やがてゆっくり眼を閉じる。ギュッと抱きしめ合う二人。誤解を恐れず言う ならば、タコのようにグニャグニャになるミサトの肢体。
やがて身体を離すと、シンジは言った。
「さっき、ミサトさんだって言ったじゃないですか。やる事やって、それから死ねって。おかしいですよ、道に迷ったくらいでそんな軟弱になるなんて。まあ、 おかしいけどこんなミサトさんのまま死なせたくはないですから・・・」
シンジは発令所に続く、ルートを示しながら指示をかます。
「あのルートを真っ直ぐ行って、右側に直通エレベータがあるはずです。それで急いで・・・」
そう言ってシンジは初号機目がけて走り出す。そしてシンジは振り返ることはなかったのだった。
ミサトは初号機の陰に消えたシンジを見送ると、そっと唇に指を這わせながら呟いた。
「・・・うん、分かった。帰ってくるのよ、帰ってきたら続きをしましょう・・・・・」
グッと涙に濡れた顔を拭うと、シンジに示されたルート目がけてダッシュしていった。





シンジが乗り込んだ初号機は、S2機関を強引に搭載したシンジ専用のスペシャル・バージョンとも言える進化を遂げていた。言うまでもなく、コアには母親 ユイの魂が宿りほぼ無限の活動時間を誇る、いわば最終兵器。シンジが暴走なんぞをしてしまったら悪魔の化身となりうる危なっかしい代物である。
今までのシンジならば暴走も充分可能性があったが、ほんの数分前にシンジの心に芽生えた男の魂が、ミサトのお間抜けによって引き出された男の本能(男の エロ心と言ってはいけない)が、その可能性をかなり軽減させていたのであった。
起動するやいなや、悪魔のような黒く輝く羽根を生やし、ベークライトに固められたボディをものともせず飛び上がる。嵐まで巻き起こしながら外へと出てみ れば、そこには赤い弐号機が数体の白い量産機と戦闘を繰り広げている真っ最中だった。
その中の一体の量産機が、手にした槍のようなものを弐号機に投げようとしていた所、初号機のダークでブラックなオーラを感じたのかギクッとしたように振 り返る。
一瞬流れる白々とした間。ブチッと初号機から何か引きちぎられたような音が聞こえる。
複数対一体。訳の解らない奴対怒らなければかわいいアスカの弐号機。これだけあれば、今の男気に目覚めつつあるシンジの魂に火が付くのも当然であったろ う。
「アスカになにをするかぁぁぁっっ」
理不尽。きっとそう言いたかったと思う。どっちがいじめてたかわかんねぇのかよ、と心中思っていたに違いなかった筈。
初号機は何と顎部拘束具を引きちぎり、ゴジラやガメラに匹敵するほど激しい火炎をその口から吐き出したのだった。火炎の激しさは凄まじく、火炎放射線上 にいた4体の量産機は一瞬にして蒲焼きとなり、無惨な屍を晒すに至る。
「し、新兵器?」
アスカは登場の異様さにも増して、いきなりの強烈攻撃を間近で拝見。改めて初号機のアブノーマルさを思い知らされた。使徒をかっ喰らうのもウゲって感じ であったが、これもまたいささかの遜色もない。
プシュ〜と、途切れた電力供給。S2機関は非搭載の弐号機は初号機の異様さに見とれる間に案山子と化してぶっ倒れた。
「くっ。しょうがないわねぇ」
一瞬、レバーを動かして何とかしようと足掻いてみたが、そこは元々聡明な美少女。すぐにプラグの予備バッテリーを入れて外だけは眺められるようにする。
「シンジに負けるとかぢゃないわね、もう。非常識もこれに極まったってもんよ、これは」



ギロリと。
初号機が残った量産機を、赤く光る丸い瞳でガンくれた。そもそもゼーレ特製ダミー・プラグで稼働しており、動きは散漫と言っても差し支えないほどの動き しか出来ないでいる。
その彼らが。
ゆっくりと、慌てふためいている様子がよく見えていた。
どうするよ、おれに聞くな、しょうがねえなぁ、と聞こえてきそうな仕草で、顔を寄せ合う量産機。とりあえず、槍でも投げとくかと話が決まったみたいで。
が、ヒョイと振り向けば初号機が、マグマのようにドロドロと粘着質に燃えさかる火炎を湛えた大口を開けて待っていた。










「・・・・・あれ?」
シンジにやる気を植え付けた、葛城ミサト。懸命に発令所を目指して走りに走った。しかし、曲がり角を曲がるたんびに怪しい光景が眼に付くようになってい る。
一旦立ち止まり、脳裏に浮かぶ漢字四文字を払い除けるように頭をブンブン振ったりした。
「大丈夫、大丈夫・・・・・たぶん」
気を取り直して再起動。ダッシュの足にも力がこもる。そして、再び曲がり角。
ボヨ〜ンと。
何かに激突した感触が、服もはち切れそうな胸に感じたのだった。
「な、何?」
見れば薄暗い廊下の壁際に、何故か髪を濡らしたままの綾波レイが、大の字になって伸びている姿が眼に飛び込んできたのだった。
「れ、レイっ。あんたなんでこんな所にっ」
ガクガクと、蒼銀の頭を揺すれども返事なく。紅い瞳があるはずの位置は白かった。
「仕方ないわよね・・・おおっ」
レイを図らずも粉砕したミサトは、彼女を肩に担ぎ上げると前方にエレベータがまだ稼働しているのを発見。すぐさま行動を開始した。
乗り込み、発令所の階のボタンを押す。現在位置は施設エレベータ最下層。だが、いつの間にかさらに下層へのボタンが表示されていた。その下へはレベルが 上位の職員しか下がれないエリアがあるはず。
「レイ・・・どこに行くつもりだったの?」
想いにふけるミサトは、他人がいたらば己自身がそれを言われるセリフを呟くのであった。





「・・・・・遅いな・・・・・」
セントラル・ドグマはLCLの湛えられた岸辺。碇ゲンドウが佇んでいる。十字架に張り付けられた物体をジッと眺めながら、何かがやってくるのを待ってい るようだった。
しかし、ネルフ最強を誇る方向音痴のおかげで、待ち人来たらずと相成ったを知る由もなかった。










「どうなったのっ?」
ようやく発令所へと辿り着いた葛城ミサトが見たものは。
戦略自衛隊の面々も既に撤退を終えた湖面を映すメイン・パネルだった。そこには、初号機が大見得切って仁王立ちしている姿が映し出されているのであっ た。
キョロキョロと見回せば、呆然とパネルに見入っている面々。初号機のデタラメさに正気を失っているだけなのだが、ミサトはレイを抱えて上がって来たばか り。まさか、初号機がゴジラやガメラもどきになって敵を粉砕したなどと思うよしもない。
いまだに白目を剥いて失神を続けるレイを、傍らの椅子に座らせて忠実なる部下、日向マコトに再度尋ねる。
「いったい、ど〜なってんのよっ」
「初号機が・・・か、怪獣に・・・なりました」










「リツコはどこに消えたのよ?」
MAGIのハッキングは赤木リツコの活躍で阻止されていた。だが、ミサトがようやく発令所に戻った時には、彼女の姿は消えていたのであった。
「マヤちゃん、初号機に火を吹く機能あったの?それとも、新たに取り付けたの?」
当面の疑問は、リツコの片腕ともペットとも言われている伊吹マヤに向けられる事になるは必然。
「いえ、わたしは全然聞いていませんし、取り付けたなんて覚えもないですよ・・・」
「ぢゃ、リツコね。あいつは昔っからこんな悪戯する時があったからなぁ・・・・・まさか、また拘束されたなんて言うんじゃないでしょうね」
マヤの言葉を聞いたか聞かずか、ミサトは一瞬の思考を巡らせ行動を決定しようとする。
悪戯ってレベルの問題ぢゃないよな・・という職員の心の呟きを知ってか知らずか。
「とりあえず、保安部に連絡。拘束してるなら即時解き放ちここに連れて来るように。拘束してないなら速攻で探して持ってこいって怒鳴りつけてやって」
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
その頃。
ピチャピチャと、赤い砂浜を模した地下空洞にゲンドウが足を水に浸けたまま、所在なげに座り込んでいる。
「どうしました?」
カチャリと撃鉄を起こす音と共に、赤木リツコの声がした。
「・・・・・うむ。シナリオは些細な事で、脆くも崩れ去るものだとな・・・思っていたのだ」
振り返りもせずに、ゲンドウは背後にて拳銃を向けているであろうリツコに言う。
「どういう事です?まだ何も始まってはいないじゃありませんか?」
「・・・・・いや。もはや、計画は崩れ去った。わたしの計画はおろか、ゼーレの愚かしい計画もな。・・・・・赤木くん、君には済まなかったな」
「そんなっ、そんな言葉を聞きにここまで来たわけじゃないわっ!!」
ゲンドウの意外な言葉に、リツコは今まで溜まって燻っていた想いをまき散らす。
「では、どうしたいのだ?・・・・・わたしは構わないぞ。君の右指が少し力を入れれば、もう完全に野望は潰える。むしろ、その方がいいのかもしれんがな」
リツコにも分かっていた。ゲンドウの右手にアダムが埋め込まれている事が。アダムは日々成長し、いずれはゲンドウを身体を食い潰すだろう。極めて限定的 な融合だった。それも、己が企てた補完計画のため。そのために息子を利用し回りの人間をも最大限に利用しつくしてきたのだ。乾坤一擲、一生一度の大博打に ゲンドウは敗れた。このまま生き続けるにはアダムの存在はあまりにも危険すぎた。失敗の後始末をしないほど、ゲンドウは愚かではなかった。
「・・・・・さあ、わたしを撃ってくれ。それがわたしと君の共通した、残された望みのはずだ」
響き渡る銃声。連続するそれはありったけの銃弾を発射した音に聞こえた。
「わたしには・・・これで充分ですわ」
リツコは拳銃を放り投げると、きびすを返して立ち去った。
残されたゲンドウは、アダムを仕込んだ腕の肘の辺りに銃弾を集中的に打ち込まれ、無惨にも肘から下は引きちぎれて落ちていた。
少し顔を顰めたゲンドウは、足下に落ちた己の手を見やり小さく呟くのだった。
「・・・・・不器用だな、君も・・・わたしも・・・」










轟く雷鳴、炸裂する稲妻、巻き上がる竜巻といったようなミサトの怒号を、『へ、へ、へ』と受け流した赤木リツコ博士。何時の間にやら発令所へちゃっかり と戻ってきている。流石に長い付き合いでミサトの怒号を受け流すなどお手の物らしい。
「で?怪獣とは、どういう事なのかしらね?」
「それをこっちが聞いているのよっ!!」
収まりそうにないミサトを怒号に、脇から恐る恐るマヤが小声で報告する。
「えっと、あの・・初号機が、ですね、口をカパッと開きましてですね、それで、ドガーっと強力な火炎を・・・・・」
「火炎?そんな訳ないでしょ。古の映画ぢゃあるまいし。」
ミサトがガルルと唸りながら、記録映像をスクリーンに映し出した。
「・・・・・あら」
「あら、ぢゃないでしょうがぁっ」
「だって、ホントにわたし知らないわよ。こんな機能考えてもみなかったもの」
発令所の視線はリツコ一点に集まっている。完璧に疑っている視線が集中しているのがマッドの掟なのか。
(これは・・・・なんか誤魔化さないと、ほんとにわたしの悪戯にされてしまいそう・・・そう、こういう時はレイみたいに訳のわからない事を口走ればいいか もしれないわ)
視線は虚空を彷徨いつつも、
「え〜・・・か、彼女が・・目覚めたの・・かしら?」
「あんたは、永久に目覚める気がないのかしらね?」
神速とも言えるスピードでミサトは拳銃の銃口を、リツコの口に捻り込む。見開かれた瞳は血走り、失礼ながら鬼女と言って差し支えない形相を呈している。
「目覚めても、寝ててもいいからとっとと初号機止めなさいよ」
「ええっ!!初号機まだ動いているの?」
「だから焦ってんじゃないのっ」
あたふたと、リツコはキーボードにかじり付き指を動かすのであった。










(・・・・・ここは?・・・・・)
彼女は夢幻の谷間を彷徨っているような感覚を覚えていた。本能に突き動かされたように、夜ふと眼を覚ましその刻が到来した事を悟る。何も考えなかった。 何も想わなかった。
ただ、
(・・・・・行く・・・・・)
と感じた。
記憶の断片を繋ぎ合わせれば、確かにそこへ向かっていたはずだった。瞬きの一瞬に、おそらく仮初めの身体に衝撃が襲った。前から柔らかな一撃が、そして 後方から硬い平べったい一撃が。どうやら最初の一撃でトランポリンのように弾みが付いたのだろう、後方からの一撃のショックは半端なものではなかった。
(・・・・・はやい・・・・・まだ、なにも行われていないのに)
それが、気を失う直前の記憶だった。
そして、今。眼を覚ませば見慣れた発令所。ガヤガヤと騒がしい。騒がしいのは今に始まった事ではないが、様子がちょっとおかしいように感じる。
ゆっくり起きあがってその深紅の瞳に映ったモノは・・・
「・・・・・蒲焼き」
スクリーンには量産型エヴァ12体見事に、良い焼け具合に仕上がっていた。戦闘の後である、凄惨と言っても差し支えない場面であるが、その焼け具合は笑 うしかない程うまそうだった。
「うまい事言うのはだあれ?」
ミサトが振り向いて言う。
「あら、レイ。起きたの?」
フラリとよろめきながら立ち上がったレイは、スクリーンを凝視して言葉も無い。
「・・・・・」
「終わったわ」
ミサトの声に覆い被さるように、リツコの声が繋がる。
「下らない闘いも、ついでにこの第三新東京市もね」
「まぁ、いいぢゃない。ウナゲリオンも殲滅していい感じってさ」
「あなたのお気楽な頭を分けて欲しいわ。この地域に残っているのは最早ネルフ以外なんにも無いのよ。初号機止めるのに迎撃装備フル活動の上全滅だし、交通 手段も分断されて食料供給の目処も無い。備蓄が尽きたらど〜すんのよ」
ミサトの瞳がギラリと輝く。本気かどうかわからぬがとんでもない事を叫びだした。
「それこそ、あんたの望む野望の足がかりぢゃないのよぉ。世界制覇の野望が近づいているんぢゃないのぉ?」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってよ、あんた何言ってるか判って・・・」
慌てふためくリツコに、周囲の鋭く冷たい視線が降り注ぐ。彼らの視線は語っていた、そう、「ああ、こいつならやりかねねぇな」と。
あまりの雰囲気の悪さに、流石に居づらくなったリツコは背中を丸めキーボードを向かう。白々しいセリフをこぼしながら。
「・・・あぁ、シンジくん回収しなくっちゃねぇ・・・ほほほ」














どうにかこうにか、終了した。
拳銃弾で腕をちぎり落とされた総司令碇ゲンドウは当然、即入院。赤木リツコはゲンドウと共に三人目の綾波レイも検査のため強制入院させた。
葛城ミサトは、惣流・アスカ・ラングレーを精神汚染の検査のため、一日病院に放り込む。身体は全く問題ないのだが、正気に戻ったとはいえ、それの真贋は 素人では判定しにくいからだ。
それらを除くネルフ全職員は、後始末のためたっぷり残業代を稼ぐはめに陥る。技術部は大変である。リリスは未だターミナル・ドグマに残ったままである し、いずれ処理せねばならないのであるが、主任がゲンドウとレイにかかりっきりで作業指示は、全て伊吹マヤが担当せざるを得なかった。
そして、殊勲者たる碇シンジは激戦の疲れを癒すために、葛城ミサトと共に帰宅する途中であった。
廊下を二人は歩きながら、そっと手を絡ませたりしちゃっている。
「帰りましょうか、ぼくたちの家に」
多少妖艶な微笑みを浮かべながら、ミサトが言う。
「帰ったら・・・・つ・づ・き・・・タップリ教えてあげる」
濡れた唇をペロリと舐める仕草が、非常に艶めかしい。
「・・・」
シンジは赤くなりながらも、コクリと頷いた。

















「ミサトさん、ここどこですかねぇ」
「・・・・ぐすっ」
「なんか、変な仮面かぶったのが磔になってるんですけど」
「・・・・ぐすっ」
「ほら、下のほうなんか人間の足生えてますよ」
「・・・・ぐすっ」


お便りは、どうぞ echigoya_m_raizo@yahoo.co.jp

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