Rei Riturn Rebirth

その伍

製作 越後屋光右衛門雷蔵


「え〜、それってぼくのせいなの?」
 碇シンジは驚きの表情を浮かべながら、目の前の美女に向かって言った。少々呆れた顔つきになっている。
「あなたと会う前はそんな感じじゃなかったもの。どう見たってあなたに原因があるとしか思えないわ」
 惣流・アスカ・ラングレーは張りきった胸をなお一層張って、目の前の青年に向かって言い切る。彼は若干眼の遣り場に困ったのか、怪しげに視線を泳がせて いる。
「ほら、その眼は後ろ暗い疚しい気持ちがあるからじゃないの?私の目は節穴じゃないんだから」
 ズイッと一歩前ににじり寄る彼女に、彼は慌てる。
「いやいやいやいや、そ〜れは違う、断じて違う、疚しい気持ちなんて、そんなにはないよ、たぶん。少なくともあの娘にはね」
 誰にはあるのだ?その疚しい気持ちは?と突っ込まれそうな気がしたのか、間髪入れず言葉を繋ぐ。
「だって、初めて会うんだよ。初対面で寝ぼけていたのに、そんな事ある訳ないじゃないか。そうは思わないかい?」
「そうかしら?あの娘の美貌は半端じゃないわ。たとえ寝ぼけていたって一発で欲情させる力量は持っている。同性である私が言うんだから間違いないわ。さ あ、白状なさい。その答え次第では……」
「一発で眠気が吹き飛んだのは事実です、はい。間違いありません、認めます。ですが、聞いてくださいよ。あの娘の綺麗さを見てすぐ欲情するなんて、逆にあ んまり無いんじゃないかなぁ、その、あまりの可憐さと言いますか、あまりの透明感溢れる美貌と言いますか、とにかく一瞬欲望をかき消すような、魂を抜かれ るような感覚になる。分かりますか?」
 彼の胸ぐらを掴んで顔を近づける彼女に、必死で抗弁するのだった。彼女は掴んだ胸ぐらを離すと溜め息を吐きながら呟くのであった。
「まあ、そうね。それは分かるわ、ただ、それを分かってないのはあの娘だけかも」
 広いラウンジに置かれた趣味の良いテーブルセットに腰を下ろした碇シンジに食って掛かる惣流・アスカ・ラングレーという構図であった。碇シンジは、第三 新東京市に到着してすぐにここニューサードグランドホテルに落ち着いた。このホテルはこの都市では一流に数えられる高級ホテルだ。流石に秘密結社ネルフ総 司令碇ゲンドウの子息を宿泊させるに相応しい風格を有している。もっとも、当の碇シンジは落ち着かない様子ではあったが。
 今、彼は昨夜自分を迎えに来てくれた綾波レイという女の子の現状について、話を聞いていたのである。話を聞くと言うよりも、まくし立てられるという方が 正解であった。
 駅のホームで御対面となったはいいが、白目を剥いてぶっ倒れたあの娘を心配し、抱きかかえて送り届けた。そこまでは普通の対処で何ら問題なぞ有ろうはず がない。目の前の彼女の話では、眼を覚ましてその経緯を聞いたとたんに、またしても白目バッタンを再現してのけたらしい。まあ、いくら何でもおかしいと思 うのも当然だが、自分にその責があると思われてもまた困ってしまう、と彼は思う。
「それにしても……綺麗な娘だよね……」
 ボソッと呟く彼に彼女も同意する。
「まあね」
「で?ぼくはどうしたらいいのかな?そんな状況ではお見舞いに行く事だって出来やしないし、また顔を合わせる時だって困るよね」
「むぅ、最終的にはあの娘自身の問題な訳なのね」
「始めっからじゃないのかな?」
「うるさいわねぇ、あなたが何かしたって訳じゃないにしろ、あなたが原因であの娘がああなるのは事実なんだから、文句言うのは許さないわよ」
「え〜、結局ぼくが悪者な訳?」
 彼は悪党に認定された。碇の姓を持つ者の宿命なのか、それは誰も知らない。
……………………………………………………
 そんなこんなで、アスカがシンジを問い詰めているその頃、白目のお姫様は夢の中であった。
 なんと、このお姫様。夢を見るのは初めてだそうで、どんな夢を見ているのかといえば………悪夢であった。
 「ほぉ〜ら、ぼくをつかまえてごらぁ〜ん」
 シンジとレイは砂浜を走って追いかけっこをしている。時折シンジは立ち止まり足下の水をレイにかけたりしてじゃれあっていた。
(……はぁ、はぁ)
 結構懸命に追いかけてはいるのだが、なかなかシンジをその手に触れる事が出来ないでいる。そうして追いかけっこを続けているうち、ふとシンジが立ち止ま る。
(……やっと、はぁ、やっと)
 ようやく抱きつけると思ったレイは、渾身の力を振り絞りシンジに向かって突進していった。
 と、そのとたん。
「どぅりゃあぁぁぁ」
 レイの身体は宙を舞い、ドボンと赤い水面へと落下していった。
「……な、何?何が起こったの?」
 水面から顔を起こしたレイの目の前には、赤いプラグスーツを纏ったアスカとシンジが寄り添い肩を抱き合っている姿があった。
「ふはははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「……ひぃぃ」
 と、自分の悲鳴で目が覚めた。
「……こ、これが。これが、あの噂に高い…夢なの?」
 レイの顔は涙と冷や汗で濡れ光っている。カタカタと歯は鳴って細かく震えていた。
「……お、怖ろしい。夢があんなに怖ろしいものだったなんて」
 ギュッと自分の肩を掴んで落ち着こうとするレイであった。夢を見るのが初めてとあって、自分が見たのが悪夢と呼ばれる類のものだとは、気が付かないのは 致し方有るまい。
 ようやく落ち着いたのか、レイは周りを見回した。シンとした静寂の中、エアコンの音だけが微かに聞こえる。
「……」
 もう一度寝てしまおうかとも考えたが、悪夢を御覧になった後だけに気が進まないでいる。
「……何かして、気を紛らわすのがいいかも」
 彼女は呟き、トコトコと病室を抜け出していった。

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