Rei Return Rebirth

その四

製作 越後屋光右衛門雷蔵


 一瞬で自室へと移動を完了したわたしは、早速お迎えのための衣装の準備に取りかかった。復活以前のわたしならば、学校の制服そのままにトコトコ移動を開始していただろう。
 だが、今は。
 そう、今は。
 ひと味もふた味も違っているの。復活してみれば良い具合に成熟した肉体に成長し、なおかつ難点のひとつであった「ファッション」という難関をも突破していてくれていた。
 今のわたし、ありがとう。
 この時ほど、戻ってきて時間がズレていた事を感謝した時は無かったと思う。
「・・・・・さ、着替え」
 早速わたしは碇くん捕獲のための、戦闘服を物色しはじめた。










 一向に決まらない。服はそんなに大量に所持している訳ではないのだが、どうしてもピッタリこないのだ。ピッタリこないと言っても、身体にフィットしないとかではないの。組み合わせれば組み合わせるほど、どこか違和感を感じるのだ。
 果たして、これで碇くんを捕獲できるのか?
 わたしを変な電波女と認識するのではないか?
 そのまま電車に戻って帰ってしまわないか?
 鼻でせせら笑われはしないか?
 恐怖の想像が頭の中をラインダンスで踊りまくる。引っ張り出した衣装を取っ替え引っかえ、小一時間問い詰めたい衝動を抑えながら格闘していた。
 結局、純白のワンピースと麦わら帽子を選択した。ベタな選択と笑わば笑え。切羽詰まれば結局行き着く所はベーシックとなる。ひとつまた賢くなったというものよ。
「・・・・・では、いざ」
 わたしは勢い込んでドアを開けて出陣した。

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 待ち合わせた駅ターミナル。
 行き交う人影も既に疎らな趣だ。指定されていた場所は間違ってはいないはずだが、電車すら少ないのは何故?
「あんた・・・一体この時間まで何やってたの?」
 聞き覚えのある声。それは昔から知っている声のようで、そうでもないような声。わたしが振り向くとそこには、昔から知っているけれど今日知り合ったばかりの、惣流・アスカ・ラングレーの顔があった。
「・・・・・んぁ?」
「間の抜けた声出してまぁ、サード・チルドレン迎えに来たんでしょう?私より先に本部出てるのに、私が先に着いた上待ちぼうけ喰わされるとは思わなかったわよ」
「・・・・・え?」
 どうやら、わたしが考えているより時間の流れはスピーディーだったようだ。しかし、目的を忘れてはいけない。些か慌てて周りを見回した。
「サード・チルドレンならそっちにいるわよ」
 機先を制された。わたしは気を取り直してアスカが指さす、待合室をのぞき込んだ。
「・・・・・・むぅ」
「待ちくたびれて寝ちゃってるわね・・・ま、何で遅くなったかはあんたのカッコ見れば察しは付くけど、時間掛けた割に普通すぎない?」
 服を選ぶので時間が掛かったって、分かるものなの?
「・・・・・」
「まぁ、いいわ。それよりさっさと起こして帰るわよ」
 アスカはそう言うとズカズカ待合室に入り込み、碇くんとおぼしき彼の肩に手を掛けて揺り起こした。
「お待たせ、やっと来たから本部に行くわよ」
「ん・・・んぁ、ああ、おはよ」
 彼は眼を覚まして、ゆっくり立ち上がった。そして、わたしの方に顔を向けて、ニッコリ微笑みながら言ったのだ。
「あぁ、初めまして、碇シンジです。よろしく」
 わたしは、初めて見たのだ。17歳の碇くんの顔を。光り輝く笑顔を。それはもう・・・すてき。
「・・・・・」
 暗転するとは、こういう事を言うのだろう。はっきり分かった、目玉がグリッと上を向く感覚。失神か、それもよかろう。
 つか、もう、わたしにはどうする事も出来ない。
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 結局、迎えに来たのに救急車にお迎えに来てもらう、という顛末を迎えたわたしはネルフ医療機関の個室にて眼を覚ました。
「起きたのね」
 そこにいたのはアスカだった。彼女は手にリンゴを持って器用に皮を剥いていた。皿に食べやすい大きさにカットしたリンゴを盛りつけて、一つを囓りながら皿をわたしに突き出した。
「食べたら?」
 わたしは皿から一つ摘んで口に運んだ。甘酸っぱい。不快感のある甘酸っぱさではなく、爽やかなおいしさを感じさせる味だった。
 シャクシャクと食べ終わったアスカが、わたしに向き直って眼をジッと見据える。
「あんた、バカぁ?」
「・・・・・いきなり、それは、ひどい、と思う」
 アスカはグッと腕を組んで立ち上がった。何か言う時に上から見下ろさないと気が済まないのは変わってないみたいだ。
「どういう経緯で、あんたがサード・チルドレンに惚れたのかは知らないけどね、挨拶ぐらいで失神するなんて、どう考えたって普通じゃないわ」
「・・・・・」
 それはわたしも予想外だったわ。なんかこう、深い色の瞳からわたしを絡め取るオーラが発射されたように、わたしの身体は動かなくなったの。実際そんなモノが発射された訳じゃないんだけど、そういう感覚だった。でも、決してイヤな感じじゃなかった。
「顔赤くして妄想に耽ってるとこ悪いんだけどね、あんたたちは初対面でしょ。一目惚れってやつなの?」
 アスカはマジマジとわたしの顔を見つめながら問い詰める。
 思えば確かに、初対面だ。初対面ではないはずなのだが。
「・・・・・むぅ」
 飛んできた時間が思っていたより変動していた為に、ただのやり直しではなく全く新しい人生を開始している事に気が付かなかったのは、そう迂闊だったわ。
「まったく、もう・・・あんたはどっか抜けすぎよ、それについては追々話を聞かせてもらうとして、動けるようならサード・チルドレンにお詫びしてきなさい。もの凄く心配してたんだから。ま、あの状態から失神なんかされたら、心配しない方がおかしいけどね」
「・・・・・心配?」
「普通心配するでしょう?挨拶してる最中に白目剥いて後ろに棒立ち状態で倒れるんだもん。彼、慌ててあんたを抱き留めたのよ」
「・・・・・抱き、抱き」
「抱き抱きじゃなくて、抱き留めたの。あのままだったら後頭部強打は確実だったわよ。慌ててた割に優しく抱き・・って、ちょっとちょっと」
 わたしはベッドに座ったまま、失神していた・・・・・白目を剥いて。


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