赤木博士の休日

製作 越後屋雷蔵


その日、赤木リツコ博士はめずらしく自宅にてテレビを眺めていた。

「ん〜、なんか変わったのやってないのかしらねえ・・・」

手元のリモコンでチャンネルを変える。

ネルフ本部では見られない光景であった。

何故なら、彼女はジーンズをカットして短パンに仕立てたパンツに、ノースリ ーブでネコのイラスト入りのシャツを着て、だらけたミサトのように寝転がって いたからだ。

だらけたリツコはテレビ画面をなにげなく眺めていたが、偶然放送して映画の ワン・シーンに目を止めた。

「ん、カメ。手足を引っ込めて回転しながら飛んでる・・・・・ふむ、ふむ。 」

なにやら考えこんでいる。

「・・・・・エヴァで使えないかしらね・・・・・」



休日であった。

めずらしい休日。

ミサトがあんまり休みを取るもんだから、つい対抗意識を燃やしてしまい勢い で休んだが、いざ、休んでみるとする事がなかった。

テレビを眺めていても、見る物聞く物みんな仕事関連に結びつけてしまう。

「はあ・・・・退屈だわ・・・・」

彼女に唯一真っ向から渡り合える友人は、ネルフにてお仕事。

もっとも、使徒が来ない時どんな仕事をしているか知れたものではないが・・ ・・

天気のいい午前中の日溜まりに、彼女が飼っているネコたちが気持ち良さそう に転がっている。

「・・・ネコはいいねえ・・・自然が産んだ文化の極みだねえ・・・・」

とはいえ、いつまでもネコを眺めながらゴロゴロしてもいられない。

なにもしていないのが辛い性格なのだ。

「この時間に暇持て余していそうな奴ってば・・・・」

オペレータ三人衆は当然お仕事。

マヤなぞはてんてこ舞いであろう。

「あたし以外はみんな仕事よね・・・・なら・・・」

彼女は、使徒が来ない休日に間違いなく暇を持て余す三人組を、思い出した。

電話の受話器を取ってボタンをプッシュする。

「もしもし、ああ、レイ。あたしよ。ちょっと頼まれてくれないかしらね。え え、そう。あたしが頼んだって言っちゃ駄目よ。いい?あのね・・・・・・・」

彼女はどうやら綾波レイに、なにか頼んだらしい。

一通り指示を出して受話器を置いた彼女は、愛すべき同級生にして同僚さなが らのニヤリを炸裂させた。

朱に交われば赤くなるとは、このことか。

おもむろに立ち上がった彼女は、書斎に向かって歩き出す。

書斎には、縦横三段づつのスペースにディスプレイが9台並んでいる。

デスクのキーボード脇には、一際でかいメイン・モニターが鎮座している。

彼女はキーボードを叩き、パスワードを入れると全モニターに電源が入った。

ここのマシンは、本部のマギに極秘回線でもって直結されている。

更にキー操作すると、画面のひとつに自宅を出る綾波レイの姿が映し出された 。

「さてと、レイ。うまくやってよ・・・へへへ。」

果たして、彼女はなにを企んだのだろうか。




こちらは、赤木リツコ博士から電話を受けた後の綾波邸。

主はと言うと、下着も付けない丸裸でクローゼットの前に立っている。

ベッドの上には薄いピンクのフリルがかわいらしい下着が乗っている。

どうやら、出かけるのに服を選んでいるようだ。

クローゼットの中には、5着くらいの服がぶら下がっている。

彼女はようやく濃い紫色のワンピースを手にした。

黒に近い色合いのワンピース。

肌の白さが一層際だつであろう。

服を決めると、彼女はいそいそと着替えを済ませて部屋を出た。

心持ち頬が赤いぞ。なにか呟いている。

「・・・・・碇くんを・・・遊びに誘う・・・・うふ・・・・」

いつもと変わらぬ歩調で歩く綾波レイであった。



その頃、葛城邸では・・・・・

碇シンジは普通のジーンズにブルーのポロ・シャツを着て、洗濯物を干し終わ った所であった。

惣流・アスカ・ラングレーは部屋でなにかやっているらしく、バタバタ音が聞 こえていた。

「アスカ。そろそろ時間じゃないの?洞木さん待たせちゃうよ。」

「うるさいわねえ。今行くわよ・・・・」

惣流さんは、今日はヒカリさんとお出かけの様子だ。

部屋から出てきたアスカは、シンジの前に立ってクルリと一回りして言った。

「どう、シンジ。懐かしいでしょ。」

ふたりが初めて出会った時の、黄色いワンピースだった。

「へえ、久しぶりだね。よく似合ってるよ、やっぱり・・・」

アスカは満面に笑みを浮かべて言う。

「ようやく、そういうセリフがすぐ出るようになったわね。えらい、えらい。 」

ニッコニコである。

「・・・ははは・・・・」

とりあえず、セリフを口にしたシンジであったが、やはりちょっと照れくさか った。

「じゃ、行ってくるわね。」

アスカは時計を見ながら、バタバタ出発する。

「いってらっしゃい。」

シンジは送り出してから、ぽそりと呟く。

「ふう、なんか一人だけの休みって久しぶりだなあ・・・」




パタパタ走るアスカの目に、黒っぽい服を着た女の子が見えた。

(ファーストみたいな雰囲気の娘ねえ。でも、あいつあんな洒落た服着ないだ ろうし・・)

たいして気にもせず、近づいていく。

(やっぱりファーストじゃないの。くっ、くやしいけどあいつ綺麗よねえ。ま っ、あたしだって全然負けてないけどね。)

アスカは声を掛けてみた。

「ファースト。今日はおめかししちゃってどうしたの?」

心持ち頬を、うっすらピンクに染めながら、

「・・・・ちょっと用事が出来て・・・頼まれた事もあるし・・・あなたは、 どこに?」

「あたし?あたしはヒカリとお買い物よ。」

「そう・・・いってらっしゃい・・・」

アスカはちょいと驚いた。

(こいつがいってらっしゃいだって・・・熱でもあるんじゃないの?)

「じゃあ、ちょっと急ぐから・・・・それじゃ・・・」

相変わらずの無愛想ながら、足取りは軽かった。

「ふ〜ん。ま、いっか・・・・」

アスカはヒカリの待つ待ち合わせ場所に急いだ。




「ははあん、アスカをうまくやりすごしたわね、レイ。ふふふ、そんなにシン ジくんとふたりっきりになりたいのかしらねえ。服はおろか下着まで一張羅引っ ぱり出して・・・・まさか勝負かける気?・・・・まあ、それはそれでおもしろ そうね。」

モニターを見ながらリツコはいつものクールさをかなぐり捨てて、チルドレン たちの行動を楽しんでいる。




葛城邸の前。

綾波レイがなにかモジモジしながら立っている。

やがて、チャイムのボタンをやっと押した。

「は〜い・・・」

中からシンジの返事が聞こえて、ドアが開く。

「い・・い〜かりくん。・・・・あ、遊びましょ・・・・」

一瞬凍り付くシンジ。

「あ、綾波・・・・」

思わずレイの額に手を当てるシンジ。

「・・・なに?・・・・」

「熱は無いみたいだ。綾波、なんか変な物食べなかった?」

「・・・・ど〜ゆ〜意味?・・・・・」

ジト目でシンジを軽く睨むレイ。

「いや・・・は、はははははは・・・・・」

脂汗を流しながら笑うシンジに、レイは更に重ねて言った。

「・・・碇くん、遊びましょ・・・・」

シンジはやっとここに至ってレイの目的に気が付いた。

「遊ぶって、遊び?綾波が?ホント?・・・・すごい・・・」

「・・・なにがすごいの?・・・・」

「いや、いや・・・なんか綾波って遊びに出るなんて感じじゃなかったから・ ・・・」

「・・・イヤなの?・・・・」

「とんでもない。ちょうど一人だったし、する事もみんな終わってるからね。 外に出ようか?天気がいいから気持ちよさそうだね。」

シンジは一旦部屋の中に引っ込んで、財布を持って出てくるとレイに言った。

「いいだろ?綾波。」

「・・・ええ・・・・」

嬉しそうな表情で(微かな変化ではあるが)レイは答えてシンジに付いていっ た。




「おおっ、シンジくんいつになく積極的じゃないの。ホントは部屋に引きずり 込んで、レイを・・・・・ぐふふ・・・いやいや、そうじゃなくてどこ行くのか しら・・・」

リツコはモニターに食いついていたが、テーブルに置かれたコーヒーに手を伸 ばし一口啜った。

モニターの画面が切り替わって、外を歩くシンジとレイが映し出された。

テクテクと並んで歩くシンジとレイ。

シンジはなぜか嬉しそうに微笑んでいる。

レイに至っては頬を赤くして、チラチラシンジの顔を横目で見ている。

「ふふ〜ん。これじゃあ、ただの初々しいアベックじゃないのよ。」

ジッとそんなシンジとレイの状況を見ながら、リツコは叫んだ。

「違うのよおっ・・・そうじゃなくってねえ・・・・もっと何かないのおっ、 あんたらはあっ・・・そうだ、それならアスカを乱入させて・・・・・くくく・ ・・」

キーボードを操作して、怪しいオペレーションを展開するリツコ。





アスカはバッグの中に入れておいた携帯電話が鳴る音を聞いた。

「あら、アスカ。携帯鳴ってるわよ。」

洞木ヒカリがバッグを見てそう言った。

「うん、まさか非常召集じゃないでしょうねえ・・・」

アスカはバッグから携帯を取り出して、パネルを見る。

「ん、電話じゃない。メール?違うわね・・・・こっ、これは・・・・」

電話のパネルに、モノクロながらシンジとレイが仲良く歩いて公園に入ってい く姿が映っていた。

「何?これ。携帯パネルに動画が映るなんて・・・・それは置いておいて、シ ンジとファーストが何で・・・・・」

アスカの表情が一気に鬼神に変わる。

洞木ヒカリは、これまでのアスカとの付き合いでこの状態の変化で事情を察知 した。

(逆らってはいけない・・・・)

「アスカ、行ってきなさい。あたしはいいから・・・・」

「ヒカリ・・・ごめんね、これは譲れないのよお・・・お詫びに一本電話する から・・・」

アスカは携帯を通話状態にしてダイヤルする。

「もしもし・・・ああ、ちょうどよかった。あんた今暇でしょ、すぐ来なさい 。ヒカリが一人で待ってるから・・・・うるさいわねっ、つべこべ言わないです ぐ来るのよっ・・・場所は・・・・だからね。急ぐのよ・・・」

アスカは電話を切ると、ヒカリに謝る。ちなみにどこに電話して誰に来いと言 ったかは、みなさんの想像の通りです。

「埋め合わせは必ずするから・・・・ごめん!!」

そしてダッシュで走り去っていくのであった。

目的地は解っている。

ご丁寧に動画の映し出された下の所に現在位置まで表示されていたのだから。

金髪をなびかせて、赤いオーラを纏って走るアスカの行く手を塞ぐモノはなか った。





「ほ〜ほっほっほっほ、いい感じねえ。アスカってばホントに動かしやすいキ ャラだわねえ・・・、さて、あっちの方はどうなってるかしらん。」

リツコはシンジとレイが行った公園を映しているモニターに目をやった。

「あれま、森の方に移動してるわ。ふふん、レイね・・・・なかなかやる・・ ・」

モニターにはレイが先に立って、森の中に入っていく絵が映っていた。




「・・・碇くん、ここちょっとうるさい・・・・あっちいきましょ・・・・」

「えっ・・・う、うん・・・」

シンジはいつになく人気の無い方に移動するレイに、なにか違和感を感じてい た。

「ねえ、綾波・・・なんか今日変じゃない?」

「・・・いつもと同じよ・・・なぜそんな事言うの?」

「ん〜、なんかちょっと引っかかるんだなあ・・・・あ、でも今日のその、服 、似合ってるよ、うん、かっ、かわいい・・・よ・・・」

心の中でガッツ・ポーズを見せるレイ。

その一言だけでも、今日の作戦は成功だった。レイにしてみれば。

「・・・う、うれしい・・・・・ありがと、碇くん・・・」

「いや・・・そんな・・・ああ、あそこに屋根付きのベンチみたいのがあるよ 。ちょっと休もうか・・・」

「・・・ええ・・・・」

シンジとレイは歩いていく。

レイのシンジとの距離は、文字通り近くなっていた。つまり、レイはシンジに より体を接近させていたのだ。





「シンジくん、あれは四阿って言うのよ・・・・はあ、中学生じゃああれくら いなのかしらねえ・・・おっと、アスカをっと・・・・」

キーボードを操作してアスカの携帯にデータを送る。





ピロリロピロリロピロリロ・・・・・

爆走するアスカの携帯が再び鳴った。

走るスピードはそのままに、携帯を取りパネルを見るアスカ。

予想した通り、四阿に仲良く座るシンジとレイが・・・

そしてその位置を示す表示が下に・・・・

「ぬうううおおおおお・・・・・・」

鬼神の走りにスパートが掛かる。

あっという間に公園に到着したアスカは、まっしぐらに森の中に突入していっ た。




「早い、早い。若いっていいわねえ・・・・男の取り合いなんて・・・・少し やってみたかったかなあ・・・・」

遠い目で呟くリツコ。

男が寄ってこなかったのは、当時からマッドだったためなのだが・・・・あえ て今言及しないでおくことにしよう。

「よし・・・始まるわね・・・」





「ファーストっっっ、何やってんのっ・・・」

アスカは赤い炎を身に纏い、仁王立ちに立っている。

「・・・・ちっ、勘付くのが思ったより早いわね・・・・」

レイは指を鳴らしつつ、舌打ちを打つ。

「なんでアスカがここに?・・・」

「なんだっていいでしょ。あんたを助けに来たんだから感謝しなさいよね。」

「助けに?なにから?」

「その人形女からよっ!!さっさと離れなさいっ!!」

それを聞いたレイはガッシとシンジの腕を抱え込んで、自分の胸を押しつける 。

「・・・・あなたこそどこかに行って。わたしたちのデート邪魔しないで・・ ・・」

「でっ、デートだったの?これ?」

誰が見たってデートなのだが、散歩がてらにレイと一緒に過ごすのは楽しいか なあ、なんてお気楽なことを考えていたシンジは、やっぱり驚いた。

「誰がど〜見たってデートじゃないのよっ。あたしがヒカリとお出かけなのを 良いことに、あんたって奴はあ・・・・・」

アスカはシンジの首を締め上げる。締め上げる。締め上げる。

「やめてっっ・・・・」

レイが割って入って、シンジの頭を抱え込む、自分の胸の谷間に・・・・

顔がだらけるシンジ。無理もない・・・

「きい〜・・そんなに胸がいいんならあたしの胸にしなさいっっ。そんな貧乳 じゃつまんないでしょっっっ」

シンジの頭を奪い返すアスカ。

強力にアスカの胸に押しつけられるシンジの顔。ちょっと苦しそう・・・・

「・・・・貧乳とは失礼ね。いつか碇くんに揉まれた時を境にめざましく大き くなっているのよ、わたしの胸は・・・・・」

再び強奪して、確かに豊かになったその胸の谷間に顔を埋めるレイ。

ニヤリと笑って、アスカの胸をむんずと鷲掴みにする。

「・・・・あなた、C位ね。収まりが良くなってきた所かしら・・・・」

「ちっっ、この歳でCはいい方でしょ。あんただってC位じゃなのっ。」

「・・・そう、わたしもC。でも、最近苦しいの。ブラ外すと跡が残るし・・ ・・・」

「だから・・・」

「なによ・・・」

「・・・・」

「・・・・・」

口げんかは延々と続いた。





「不毛な言い争いしてるわねえ。あんまり意味無い気がするけどねえ。」

リツコはタバコをくわえて火を付ける。

その時、モニターの一つが切り替わってある男の顔が映し出された。

「赤木くん・・・・」

低音の落ち着いたその声。

「げ、冬月副司令・・・・・」

「これはやっぱり君の仕業かね。碇の奴がなにやらニヤニヤしながらなにか見 てるから、なにかと思えば・・・・・」

「司令も、見てたんですか?」

「おお、相好崩してな。」

「・・・問題ない・・・」

「問題大有りだ。来い、碇。今日という今日は徹底的に根性叩き直してくれる ・・・・そうそう、赤木くんも続けるのも構わないが明日きちんと報告してもら うぞ。碇の奴となにやらあった噂もあるからな・・・・」

言うこと言ってモニターは、普通の画面に変わった。

「まずいわ〜。副司令に知られちゃったら続けるなんて出来ないしなあ〜。仕 方ない、ミサトを使ってどうにかしましょう。」

リツコは再びキーボードを叩くと、ため息ひとつついて、

「昼寝でもしようかしら・・・・・」

呟きながら書斎を出ていった。






ネルフ本部女子トイレ。

葛城ミサトの携帯電話がコールを鳴らす。

「なによ〜、すぐになんか止まんないわよお・・・・」

電話に文句を言いつつ、パネルを見る。

[XX地区XX公園にて、チルドレン間にトラブル発生。葛城三佐は至急現場 に急行されたし]

「な、なんかあったのお〜・・こんな時に・・・」

ようやく済んだミサトは、パンティを上げながら個室を急いで飛び出していっ た。

「・・・なんか走りづらいわね・・・・」

ストッキングを上げていないミサトであった。





「あ〜あ、明日は副司令のお説教かあ。仕方ないわねえ、身から出た錆とはい え・・・・まあいいや、明日になれば何とかなるでしょ。寝よ、寝よ・・・・・ 」

リツコは気楽な表情で夢の中へと旅だって行くのだった。





ご意見・ご感想はこちらまで・・・ prost0@mizar.freemail.ne.jp inserted by FC2 system