プロレスなチルドレン

プロト・タイプ01

製作 越後屋雷蔵


僕が学校から帰ってきて、ドアを開けた瞬間に耳に飛び込んできたのは、

「・・・いのき・・ボン・バ・イエ・・・いのき・・ボン・バ・イエ・・・・ ・」

なんだか聞き覚えのある、魂を爆発的に燃焼させるあの旋律・・・・

(こっ、これは・・イノキ・ザ・グレーテスト・・・アントニオ・猪木のテー マ・・・)

リビングに入ると綾波が食い入るように画面を見つめていた。

「あ、綾波・・・」

声を掛けるとビクッと床から3センチほど飛び上がる。かわいいよね、綾波っ て・・・

目を見開いてこっちを見てる。口がカクカクして言葉が出ないみたいだ。

視線を移して画面を見ると、

「名勝負100選 アントニオ・猪木 対 タイガー・ジェット・シン」

綾波がこういうビデオを見る事自体驚きだったけど、見てる内容にはもっと驚 いた。

ちょっと、マニアック。

普通なら対ビル・ロビンソンや対ドリー・ファンク・ジュニアなんか見るもん だけど、なんでタイガー・ジェット・シンなのか。

「ねえ、綾波。プロレス好きなの?」

顔を真っ赤にしてコクコク頷く。

「やっぱり、アントニオ・猪木が好きなの・・・」

僕は猪木信者なのだ、隠れだけど。

綾波は赤い瞳をキラッと光らせ、顔を横に振っちゃった。

「猪木はもう用済み・・・プロレスラーはタイガー・ジェット・シンよ。あ、 ブルーザー・ブロディもいいわ。」

僕はもう顔面蒼白になってしまいました。

「う、裏切ったな。猪木信者の僕を裏切ったんだ!!」

僕の勝手な思いこみだったんだけど、綾波少しハッとした顔で僕に謝ってきた んです。

「・・・ごめんなさい、碇くん。わたし碇くんが猪木ファンだって知らなかっ たの・・・」

「はあ、はあ、いいんだよ。僕こそごめんよ、興奮しちゃって・・・」

「・・・怒らせて、首ちょんぱにされても困るから・・・わたしは碇くんと一 緒に居たいし・・・」

「僕が綾波を首ちょんぱにする筈が無いじゃないか。いいんだ、二人でプロレ スを語りあおうね。」

そうこうしてるうちに、アスカが帰ってきた。

「なにやってんの、あんたたち。」

テレビ画面に映るは、プロレス画像。

「えー、猪木とシンじゃないのお。リングスにしなさいよ、リングス。ヴォル ク・ハンよ、ヴォルク・ハン。」

綾波は少し驚いたようで、目を見開いて言いました。

「・・弐号機パイロット・・なかなかやるわ・・」

「ふふん、通はヴォルク・ハンの関節マジックに痺れるもんなのよ。」

「・・アンドレイ・コピイロフはどうなの、ニコライ・ズーエフは?」

「くっ、ファースト・・あんたもなかなかどうして・・侮れないわね・・」

僕は喧嘩になると困るので、割って入りました。

「アスカはリングスがいいの?パンクラスは?」

ふふんと顔を上げてアスカは言いました。

「カール・ゴッチから連なる系譜は、色々あるけどやはりリングスよ。パンク ラスはバーリ・トゥードに近くなってて好きじゃないのよ。やっぱりドイツ人な らカール・ゴッチよ。」

「猪木のゴッチの弟子だよ。」

「前田日明の挑戦は受けなかったわよ。」

「藤波は前田と真っ向勝負したじゃないか。ああ、あの名勝負が目に浮かぶ・ ・・」

綾波が静かに言ったんです。

「タイガー・ジェット・シンの本気のレスリングを知らないのね。」

「なんですってえ。」

「シンのインド・レスリングの神髄は、この猪木戦の序盤にあるのよ。シンを 侮ってはいけないわ。」

「むむ、確かにこの試合の序盤は、意外な位にレスリングの試合になってたな あ。」

「碇くんは分かってくれるから・・好き・・」

「どさくさに紛れて何言ってんのよ。なにはともあれ、あたしはヴォルク・ハ ンよ。」

「僕はやっぱりアントニオ・猪木だね。」

「わたしはシン。タイガー・ジェット・シン。と、碇シン・・・」

パコン

アスカが綾波の頭をスリッパで叩いちゃった。

「いいかげんにしなさい・・」

「う〜、う〜、あなたはこのシンは嫌いなの?わたしは一番好き。」

なんだか雲行きが怪しくなってきたなあ。

「あ、あたしだってこのシンが一番に決まってんじゃない。」

僕はそ〜っとその場を離れようとしたんです。

そしたら・・・

アスカが僕の腕を取って、アーム・ロックに・・・

綾波は倒れた僕の足首を、ヒール・ホールドに決めちゃって・・・

「シンジい、どこいくのお〜。あたしがあんたが一番って言ってるんだから、 あんたもあたしが一番好きなのよねえ〜」

アーム・ロックを締め上げるアスカ。痛い・・・

「・・碇くん。わたしが先にシンが好きって言ったから、わたしが一番でしょ う・・」

踵をきちんと決める綾波。技の切れがシャープすぎる・・

さすがに辛くなった僕は言ったんです。

「離してくれない人は・・嫌い・・」

効果てきめん・・

スパッと離してくれました。

「まあ、それはそれとして、フィニッシュ・ホールドについてなんか言いたい 事は無い?」

「そうね、ドイツ人としてはやっぱりジャーマン・スープレックスは必需品だ し・・クロス・ヒール・ホールドも捨てがたい・・むずかしいわね。」

「綾波は?」

「・・サーベル・・」

「あれも技なの?」

「・・・5カウント以内なら反則じゃないの・・」

「凶器使えば何だって反則よ・・」

「・・碇くんは?・・」

「やはり、卍固めは必然だね。猪木は卍、藤波は飛龍原爆、坂口は原爆落とし 、長州ならリキ・ラリアット、馬場さんなら十六文、馳はノーザン・ライトでし ょう。」

「・・やっぱり、フィニッシュ・ホールドは大事なのね・・・」

「そりゃそうさ、これがあるとないとではアピール度が違うよ。」

「・・エヴァにも何かフィニッシュ・ホールドがあればいいのに・・・」

「エヴァクラスになると、ロケット・パンチとか目からビームなんか出ると格 好いいよね。いっつもプログ・ナイフとか銃ばっかりなんだもの。」

「手を組み合わせると、スペシュウム光線なんかでると楽よねえ。使徒はいろ んな武器があるのにエヴァは少ないわよね。」

「・・無い物ねだりばかりじゃ仕方ないわ。エヴァでジャーマン決められない かしら・・」

「接近戦になるから、武器を装備した使徒相手じゃ難しいかもね。」

「なんとか組み付ければ、なんとかなりそうじゃない。フロント・スープレッ クスからパワー・ボムなんかいけそうよ。」

「今度やってみようか?」

「・・いいかもしれない・・楽しみ・・うふ・・」

「そうと決まれば、早く使徒が来ないかなあ。浴びせ蹴りなんかも意表を付い て効くかもよ。楽しみだね。」

「あ〜、早く試したいわねえ〜。」

三人のチルドレンたちの戦闘意欲は高まる一方であった。




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