シンジ・リターン

製作 越後屋雷蔵

テスト・タイプ06


彼、碇シンジは当てもなく彷徨い歩いていた。

なにか、ブツブツ呟いている。

「誰?・・・・誰?・・・・・みんな誰?・・・・・」

夢遊病者のような足取り。

生気のない濁った瞳。

果たして、これが前の世界で破滅をくぐり抜けてきた男の顔であろうか?

本編よりへなちょこになっているのは作者のせいばかりではあるまい。

彼は、綾波レイと惣流・アスカ・ラングレーがネルフのゲートを仲良く通って から、きびすを返して地上に出た。

それから、シンジ自身も覚えてはいないだろう。

ただ、足の動くままフラフラと彷徨っていたのだ。

その間、タイミングの悪い事に保安部の手違いでシンジをロストして、本部は 大騒ぎであった。





「なにいっ・・・シンジくんをロストしただとおっっっ・・・・・」

野獣の血が騒ぐのか、ミサトが吼える。

「どういう事か、説明しなさい。」

氷のような声を相手に突き刺す、魔女リツコ。

死にたくなかったら、早く探せ、とプラカードに文字を書いて相手に見せてい る日向マコト。

「・・・・まさか・・・・まさか・・・・逃げたの?・・・・どうして?・・ ・・・わたしがイヤになったの?・・・・・どうしよう・・・・もう、碇くんの いない生活なんて考えられない・・・・・・」

ガクガク震えて床に座り込むレイ。

「大丈夫よ、きっと帰ってくるわ。しっかりして、あなたがそんなじゃ帰って きてからガッカリするわ。」

己が原因の一端を担っているとも知らず、レイを慰めるアスカ。

「でも、ちょっと大騒ぎしすぎな気がするんですけど・・・・」

何も知らないアスカが言った。

「ああ、アスカは知らなかったのね。シンジくんは今特別なチルドレンだと言 っていいのよ。エヴァに関しては最高レベルの才能を持っているの。今まではア スカ、あなたがトップの座にずっといたけど、今ではシンジくんのレベルには到 底追いつくことは出来ないでしょうね。」

「ええっ・・・でも、頑張って訓練すれば・・・・」

「設定限界値を楽々オーバーするのよ。解析するこっちの身にもなって欲しい んだけどね。まあ、そんな訳でシンジくんでは通常レベルのテストが出来ないの 。かと言ってレイだけでは心許ないしね。だからあなたが呼ばれてきたって事な のよ。」

アスカは眼をパチクリさせながら呟いた。

「・・・そんなに凄い人だなんて・・・・」

うっとり瞳が潤みだし、その美しさに拍車が掛かってきたようだ。

こんな時でも、ミサトの野性の勘が鈍る事はなかったようで、アスカの表情を 鋭く読んだのだった。

人の色恋が大好きなのは、どんな状況でも変わらないらしくアスカをからかい だすミサトであった。

「あんれ〜、アスカ何頬を染めてんの〜。シンちゃん見かけに寄らず凄いから 惚れちゃったのかなあ〜・・・・・ど〜するレイ。アスカが相手じゃあんただっ てうかうかしてられないわよ〜」

ミサトの言葉にビクッとからだを震わせるレイ。

「・・・・そんな・・・惣流さんも?・・・・わたしじゃ敵わない・・・・惣 流さん綺麗だし・・優しいし・・・・スタイルだって凄いし・・・・・」

「何を言うのよ。綾波さんだって途轍もなく綺麗じゃない。肌は白くてすべす べだし、プロポーションだって・・・・・・着痩せするの知ってるわ・・・・わ たしよりずっと長く彼の側にいるし・・・・」

ニヤニヤ不気味な笑いを浮かべながら、ミサトは見ていた。

「まあ、シンちゃんが帰ってきてから、よ〜っく話し合うのね。けけけけけ」

保安部によって、やがて見つかるのを確信しているのだろう。

ミサトはシンジを修羅場に突き落とすのが楽しみでならなかった。





さて、肝心のシンジは、まだ彷徨っている。

ただひたすら、足が動くまま進むシンジに保安部手こずる。

なにせ、シンジ自身すら行き先が分かっている訳ではないのだ。

予測不能状態。

そんなこんなで、丸二日が過ぎる。




「見つかった?」

ミサトは憮然として言った。

保安部の人は、覚悟を決めてミサトも前に出てきていた。

まさしく、首を洗って待っている状態。

だが、意外にもミサトの答えは優しかった。

「ご苦労様。で、彼の具合はどうなの?」

いささかホッとした表情で報告を続ける。

「はい、極度の衰弱が見られます。肉体的にも精神的にも・・・・・。我々が 発見した時は、昆虫の擬態さながらに木の幹にほとんど同化していました。その 時にも意識は無く、木から下ろした後また歩き出そうとしたくらいで・・・・」

「何?それ・・・・」

「一種の夢遊病ではないかと思われます。」

「なんで〜、頭打つような戦闘なんかしてないし・・・・」

「むしろ、ストレスの可能性が強いのではないかと、医師の診断ですが・・・ ・・」

「ストレス?なんかあったのかな?まあ、いいわ。ご苦労様、通常任務に戻っ ていいわ。」

「はい。」

保安部の人は、今度こそ心底ホッとした顔を、必死で隠しながら去っていく。

ミサトは、見送りつつ呟いた。

「シンちゃんも心配だけど、あの二人もねえ・・・・・」

あの二人とは、無論レイとアスカの事である。

レイはシンジが失踪してから、食事も満足に出来ない状態が続き、それを慰め ようとするアスカはレイと一緒になっておいおい泣いていた。

ミサトやリツコが何を言っても、二人で抱き合いながら声を上げて泣く姿は、 どうにも痛ましものがあった。

「三人のチルドレンがここまで衰弱しちゃったらねえ・・・・・これで使徒な んかいらっしゃった日にゃあ、ど〜するよ。」

作戦本部長はとほほだった。






さて、病室。

シンジは捕獲時に投与された睡眠薬がまだ効いているのか、眠ったままである 。

ドアが開き、ミサトが姿を見せた。

「ここよ・・・」

ミサトの後から入ってきたのは、綾波レイと惣流・アスカ・ラングレー。

お互いを支え合いながらシンジの眠るベッドに歩み寄る。

二人とも散々泣いたのであろう眼は真っ赤に充血している。

「・・・・・・」

二人は不安そうにシンジを覗き込んだ後、視線をミサトに移した。

ミサトはその視線を受けて言葉を発する。

「大丈夫、まだ睡眠薬が効いてるだけよ。」

ミサトは一瞬の逡巡の後、思い切って二人に尋ねるのだった。

「なんでも、極度のストレスが高じてこうなったらしいんだけど、何か心当た りはないかしらね。・・・・・言っておくけど、あなたたちが原因なんて答えは 全く想定してないからね。」

ミサトならではの思いやりだろうが、正解はそれだった。

「「・・・・ありません・・・・」」

二人は声を揃えて言う。

二人は同じ男の子のために、泣き、心配し、心を痛めた。

そのためなのか、奇妙な連帯感が出来上がっていたのだ。

ただ、泣いていた訳ではない。

アスカは正直に自分の気持ちを吐露した。

初めて会った時に感じた、心と身体が引き寄せられるような感覚。

ドイツであった初恋のときめきとは違う、でもそれより遙かに強力な引力。

どういう感情なのか自分でも理解出来ないけれど、心と身体がシンジを求めて いる事だけは分かる。

会って、そして彼にレイがいる事を知った時、胸がギリギリ痛んだのを隠さず に話した。

その上で、アスカはレイに言ったのだ。

「わたしの気持ちは碇くんには迷惑かもしれない。でも、わたしは・・・・・ わたしは・・・・・綾波さんがいても、この気持ちをどうすることも出来ないの ・・・・」

レイにしてみれば、アスカの登場から一連の流れからしてシンジに惹かれてい るのは察知していた。

だが、そこまで強力に惹かれていたとは思っていなかった。

「・・・・わたしは、碇くんに近づく女はどんな手段を使っても排除するつも りでいたわ。・・・・でも、何故かあなたにそれは出来なかった・・・・・あな たの想いが本物だからなのかもしれない・・・・・でも、わたしも碇くんを譲る つもりは全然ないし・・・・」

流石のレイも困ったらしい。

「・・・・・じゃあ、こうしましょう。わたしたち二人をいっぺんに愛しても らうの、碇くんに・・・・・」

「二人いっぺんに?愛してもらう?」

アスカの顔が、昔の温度計のように下から上に真っ赤に染まっていく。

「そ、そんな・・・・い、いきなり三人でなんて・・・・・」

レイも遅蒔きながら、その意味に気が付いて頬を紅に染め上げる。

「・・・・い、いや、あの、そういう意味じゃなくって、どちらかを選ぶんじ ゃないの。わたしたち二人を好きになってもらうの・・・・」

「ご、ごめんなさい。はしたない事考えちゃった。恥ずかしい・・・・・でも 、綾波さんはそれでいいの?」

「・・・・ホントは、そんなに良くはないけど、あなたを碇くんから遠ざけて はいけない、そんな気がするの・・・・・」

「・・・ありがとう・・・・」

アスカはレイの胸に顔を埋めて、嗚咽を洩らしながら泣くのであった。

と、そんな事があって、二人はシンジを心配しながら泣きあっていたのだが、 ミサトに改めて心当たりなんて言われても思い当たる事は何もなかった。

「そう・・・・」

ミサトお手上げ。

シンジの目覚めを待つしか無くなった。


しばらくして、シンジの目が覚めた。

「う・・・・んん・・・・・」

「・・・・・碇くん!!・・・・・」

レイが縋り付く。

「ああ、綾波・・・・・おはよ・・・・」

寝ぼけた事を言っているシンジの眼にアスカの姿が映る。

「あ、あす・・・・いや、惣流さん・・・・」

「気、気が付いたのね。」

アスカは頬を染めて、なおかつモジモジしながらシンジを上目遣いで見つめる 。

「う、うん・・・・」

かすかに引きつるシンジの表情を読んだレイは、少しシンジがアスカを怖がっ ているのを見て取った。

すかさず、得意のアーム・ロックを仕掛ける。

「いででででで・・・・・」

「・・・・碇くん。この間、わたしを好きって言ってくれたでしょう・・・・ ・」

「はいっっ。言いました・・・・」

「・・・・・愛してくれるでしょう・・・・・」

「はいっっ・・・」

「・・・・・同じように、惣流さんも愛してあげて・・・・・」

「へ?」

レイの言葉を理解しきれないシンジ。

だが、レイは容赦しなかった。キュッとロックを締め上げる。

「いででででででででで・・・・・・・」

「・・・・・・わたしと惣流さんを、同じに愛してくれるでしょう・・・・・ 」

「はいっっ。もちろんですうう・・・・・」

そんな光景を呆然と見ていたアスカが、恐る恐る声を掛けた。

「あの〜、綾波さん、そんなのでいいの?」

「そ、そうだよ綾波・・・・よくわかんないよお〜」

「・・・・・口答えしないの・・・・」

また締める。

「あだだだだだ・・・・・」

「・・・・・碇くんには、これが一番・・・・・よく分からなくてもいいの・ ・・・わたしたち二人を同じに愛して・・・お願い・・・・」

レイの眼に哀願の色を見たシンジは答える。

「よく分かんないけど、二人まとめて面倒見るよ、うん。」

これは痛いのを逃れる方便では無い。

しかし、シンジも思い切った事を口にしたものだ。

傍らに悪魔の笑いを浮かべた野獣ミサトが立っているのに気が付いていないの が原因だろうが・・・・・

そうして、ロックを外したレイは、

「・・・・よかった・・・ホントによかった・・・・・」

泣きながらシンジの胸に顔を埋めるのだった。

背後からアスカがシンジの首に腕を巻き付け擦り寄ってきた。

「心配したんだから・・・・わたしたち・・・・ちょっと、泣かせてね。今度 は嬉し泣きだから・・・・・」

そうして、二人は嗚咽を洩らし出すのであった。

またしても、へなちょこシンジは流されていった。

(だが、非常に羨ましい状況であると思うのは、作者だけではあるまい。)

バカシンジは(あえて、言わせてもらおう)思った。

(もしかして、とってもおいしい環境?なのかな・・・・なんで、こうなって んのか分かんないけど・・・・・)

顔がにやけている。

自分で書いておきながら、ぶっ殺したい衝動を押さえきれない作者であった。





そして、帰ってきた葛城邸。

シンジがいる、レイがいる、ミサトもいる、アスカもいた。

アスカも?・・・・

誤解なきよう記載しておく。

アスカは同居している訳ではない。

そこまで、きゃつに良い思いをさせるほど作者は人間が出来てはいないのだ。

だが、話の進行上ベタベタさせなければならぬため、アスカのお部屋は葛城邸 の隣になったのだ。

同居と同じだとお叱りを受けそうだが、このアスカはひと味違うのだ。

見ていろ、シンジめ・・・・・

「・・・・・碇くん、大丈夫?・・・・・・」

レイは病院でアーム・ロックを極めた事なぞどこ吹く風か、ベッドの上に身体 を起こしたシンジに果物なんぞを与えている。

悔しいことに、レイの手で口まで持ってきてもらっていた。

「ここまでしてくれなくてもいいのに・・・・」

そう言いながらも、やっぱり嬉しそうなシンジであった。

「碇くう〜ん、お食事ができたわよ〜・・・」

甘ったるい声で、アスカがお盆に食事を乗せて入ってきた。

「あ、良い匂いだね・・・・・どこで作ってもらったの?この辺りでこの香り を出す店あったかなあ・・・・」

シンジは首を捻る。

「は、恥ずかしいけど・・・わたしが作ったの・・・・・食べてみて・・・・ 」

シンジ固まる。

まさか、アスカが料理なんて・・・・・

(逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ・・・・・あ、そうだ。 以前のアスカは棚上げしておこう。考えてみれば、綾波だってこんなに攻撃的じ ゃなかったもんなあ。そうしよ、そうしよ。)

レイと入れ替わって、食事をシンジの口まで運ぶアスカ。

「そんなに上手じゃないんだけど・・・・下手の横好きって言うのよね・・・ ・うふふ。」

潤んだ瞳がキラキラ輝いて、凄まじいかわいさを炸裂させている。

バカシンジは思う。

(帰ってきて、よかった・・・・・)

「はい、あ〜んして・・・・」

食べやすい大きさにした食べ物をシンジに食べさせるアスカ。

その表情は幸福そのものだった。

その横では、レイがジッとアスカの行動を見ていた。

が、その視線は冷たいものではなく、アスカの動作を研究しているといった視 線だった。

まさに、レイは研究していたのだ。

自分には無いアスカの可憐なかわいさを、我が物とするためにアスカの一挙手 一投足を、その網膜に焼き付けようと懸命なレイであった。

もっとも、アスカも方でもレイの不器用ながら、その行動に溢れんばかりの愛 情を感じ取り、自分も愛情のオーラを纏いたいと観察しているのであった。

作中最強の美少女二人に囲まれて、まったくシンジだけグッドな環境。

もうそろそろ不幸が襲ってきてもいい頃合いなのだが・・・・・

「あんれまあ、シンちゃん。顔が溶けてるわよ。」

ミサトが悪魔の微笑みを浮かべて、状況を見ていた。

「罰なんだけどさあ、今日から始めるからねん・・・・・アスカはどうする? 」

と、言い出すミサト。

訳が分からないアスカ。

「罰って?・・・・」

「ちょっち、不手際があってね。シンちゃんとレイはしばらく一緒の部屋で暮 らす事になってるのん。アスカも一緒でも構わないわよ。」

何でもない顔で言い切るミサト。

「そ、そんな・・・・男の人と一緒になんて・・・わたし・・・そんな、恥ず かしい・・・・」

手に持ったスプーンを落として、真っ赤になった顔を俯かせて部屋を走り出る アスカ。

「かわいいわねえ〜、アスカったらば〜・・・・けけけけけ。」

鬼も裸足で逃げだしそうな、邪悪な笑いを浮かべるミサト。

しばらくして、アスカが襖の陰からピョコンと顔を出した。

「レ、レイちゃん・・・・ちょっと・・・・」

気づいたレイがパタパタ駆け寄った。

「・・・・・なに?・・・・・」

耳元でアスカが囁く。

「あのね・・・・し、しちゃイヤよ・・・・お願いね。せめて、キスくらいに しておいてね・・・・・」

レイは微笑みながら言ったのだった。

「・・・・・大丈夫。そんなことしないから・・・・二人一緒がいいから・・ ・・・」

赤い顔した二人は頷きあう。

が、作者は思った。

二人一緒は無理だろうがよ・・・・シンジは一人なんだから・・・・・




その晩は、美少女二人の囲まれて緊張したのもあって、シンジはレイに何する 事も無く眠りに落ちた。

反面、レイの方が寝付けなかった。

アスカとあんな会話をしたものだから、余計に意識してしまっているのだ。

シンジが寝返りを打てば、

(・・・・き、来た・・・駄目よ、まだ早いわ・・・・・ん、来ない・・・・ )

なんぞと、期待やら不安やらごちゃ混ぜで、なかなか寝付けない。

その気になれば、どんな位置からでも関節を極められるエキスパートだが、そ んな気は毛頭無いらしい。

(・・・・・仕方がないか・・・・せめて、優しく抱きしめてキスの一つもし てくれればいいのに・・・・・)

ちょっと不満なレイであった。



翌朝。

シンジは心地よい朝の光に目が覚める。

寝たまま、一つ伸びをするとムックリ起きあがる。

傍らのレイの眼をやるシンジ。

おおっとお〜、動揺が見られないぞ。

レイを見る視線は優しさに溢れ、ジッとレイの寝顔に注がれていた。

落ち着いた雰囲気、いつものシンジではなかった。

ようやく、逆行物定番のしっかり者シンジになったのか?

ゆっくり、近づくシンジ。

が、徐々に表情は崩れていき、ついにはそっと抱きつきながら、

「綾波・・・・がわいいい〜〜〜〜〜」

と、頬ずりするのであった。

人間そう簡単には変われないという事である。

「・・・・んんっ・・・・・」

レイのかわいらしい呻きに、シンジはハッと我に返る。

そ〜っと、抱きついていた腕を離して、ゆっくりベッドを降りる。

「そ〜っと、そ〜っと、起こさないように・・・・・」

シンジは朝食の準備のために、音を立てずにキッチンに移動する。

その間も、シンジの視線はレイのかわいい寝顔から離れる事はなかった。





キッチンに移動すると、そこには誰かが朝食の準備を始めていた。

「そ、惣流さん・・・・・」

果たして、それは惣流・アスカ・ラングレーその人であった。

「あ、お、おはよう、ございます。よく眠れました?」

自分の気持ちをシンジが知っているという状況に、まだ慣れていないのか彼女 はシンジと視線を合わそうとしない。

両手の指を玩びながら、視線をあっちこっちに泳がせるアスカ。

「お、おはよ。どうしたの?こんなに早くから・・・・・」

「は、はい・・・・朝ご飯を・・・作ろうかって・・・・ひ、一人で一人分作 るよりは四人分作った方が、おいしいから・・・・・」

「あ、そう、そうだね・・・・・じゃ、ぼくもやるよ。意外とミサトさん、み そ汁の味にはうるさいんだ。どんな不味いモノでも食べるくせに、みそ汁だけは 的確にあれが足りないだのあれが多すぎるだのって言うんだよ。」

シンジはエプロンをしながら歩いてくる。

「へえ、そうなの。でも、よかった。わたし、おみそ汁はちょっと自信無かっ たから・・・・教えてくれる?」

上目遣いにようやくシンジと眼を合わせるアスカに、シンジは彷徨う時に感じ たショックとは違う衝撃を受けていた。

(アスカって・・・・凄まじくかわいいいいいいいいい・・・・・・)

彼は、流されるのもいいかもしんないと、マジで考えていた。

「じ、じゃ、始めようか・・・・」

そうして、二人の朝食作りが始まった。

粗方出来上がった頃、眼をつむったままのミサトがフラフラ部屋から出てきた 。

どうも、動作が危なげである。

不思議な事に、テーブルにぶつかると椅子を引いてちゃっかり腰を下ろしてし まう。

起きているのかと言えば、寝ている。

シンジとアスカは顔を見合わせて、首を傾げ合っている。

「寝てるよね・・・・・」

「起きてはいないみたい・・・・・」

本編系のアスカならば、この程度はなんでもなかろうが、ここのアスカは違う ぞ。

怖がって化け物でも見るような眼でミサトを見ている。

どさくさに紛れてシンジの腕を抱えて、しっかり自分の胸を押しつけるあたり は油断がならないが・・・・

「試しに、みそ汁の匂いを嗅がせてみようか・・・・・」

シンジはそう言いながら、お椀にみそ汁をよそってミサトの前に置いた。

ミサトの鼻がピクピク動く。

ゆっくり眼が開き、一言。

「いつもの香りじゃない・・・・」

「さ〜てと、ぼく並べちゃうから、アスカ・・・いや、惣流さんは綾波起こし てきてくれるかな?」

構っていられないといった風情で、シンジは出来上がった朝食を並べ出す。

「あ、はい。」

アスカは名残惜しそうに、腕を離してシンジの部屋に駆けていった。



シンジの部屋に入って、アスカはレイを起こそうとする。

ふと見れば、レイの表情はハッピーと顔にマジックで書いてある如く、幸福そ のものの顔であった。

アスカの眉の片方がピクリと動く。

「あれだけお願いしたんだから・・・・・」

呟いて、レイの身体に掛かっているタオルケットを、そ〜っとめくる。

(ひいいいいいいいいい・・・・・・)

レイの腰には、なにも無かった。・・・・・かのように見えた。

声にならない悲鳴を上げたアスカだったが、よくよく見れば薄いピンク色の紐 がくっついている。

(?????)

レイの身体を仰向けに直せば、パンティはちゃんと穿いている。

(でっ、でも・・・・際どすぎるんじゃ・・・・ちっちゃいし、すけすけ・・ ・・)

「う、んんっ・・・・」

レイが寝返りを打って、俯せになる。

(ひっ、ひっ、ひいいいいも・・・・ひも、ひも・・・・・)

薄いピンクの紐は、レイの白いお尻に同化したように見えて、まるで何も穿い ていないかのようであった。

それは、ハイレグ通り越して紐に布きれがくっついた代物だった。

薄ピンクの紐パン。

アスカはガクガクレイを揺さぶって起こす。

「レイちゃん、レイちゃん、どしたの?これ。これはちょっとずるいんじゃ・ ・・・」

ようやく目覚めたレイは、アスカの剣幕にキョトンとするばかり。

「・・・・・これ?これは・・・葛城さんが、男の人と一緒に寝る時はこ〜ゆ 〜のを穿かないといけないって・・・・・袋ごとくれたの・・・・・」

「葛城さんが?」

「・・・・・ええ、これであなたは幸せになれるって言って・・・・・」

アスカはしばし考える。

「普通なら、これは勝負パンツって言ってね。確かに幸せになるための一歩か もしれない・・・・でも、わたしたちには早すぎると思うの。わたしはこんなの よ。」

アスカはスカートを捲り上げて、レイにパンツを披露する。

「・・・・・全然違う・・・・・」

白と薄いクリーム・イエローのストライプ。

かわいいが、発育盛りの身体はかわいさも幼い色気に変えてしまうから不思議 なものだ。

ガタタッッッ・・・・・

入り口で音がして、アスカはスカートを捲り上げたまんま振り向いた。

そう、そこにはシンジが片方の鼻の穴から、鼻血を垂らしながら片膝付いてい る姿があった。

「きいいいやああああああああ〜〜〜〜〜」

アスカの絶叫は音から超音波に変わり、窓のサッシをも揺るがす。

「あ〜〜〜ん・・・・見られた〜〜〜〜、お嫁に行けな〜〜〜〜い・・・・・ あ〜ん、あ〜ん、あ〜ん・・・・・」

ベッドにひれ伏してサメザメ泣くアスカ。

だが、間抜けな事に勢い余ってお尻側のスカートも捲れているのに気が付かな い。

シンジの鼻血が止まる要素なんぞ、どこにも無かった。

レイは泣き出したアスカを慰めようと、ベッドを降りて膝を付いてアスカの肩 に手をやる。

「・・・・・へ、平気よ。アスカ・・・・碇くんがわたしたちをお嫁に貰って くれるから・・・・・」

とんでもない事を言ってるレイだが、シンジの方はそれ以上にとんでもない事 になっていた。

アスカのお尻と、レイのお尻がこっちを向いて二つ並んでいるのだ。

よりによって、レイが穿いているのはミサトの勝負パンツ、紐パン。

もう片方の鼻の穴から、新たな鼻血が吹き出るのは至極当然であろう。

「逃げちゃ・・・駄目だろやっぱり・・・・・」

よろりら〜よろりら〜・・・

悶死寸前のシンジの背後に立つ影。

「まったく、おこちゃまなんだから・・・・ほれ、シンちゃんはあっちで死ん でなさい。後はあたしが誤魔化すから・・・・・」

ミサトがリビングを指さす。

「ぼ、ぼくは・・・食事呼びにきただけ・・・なのに・・・・」

何とかリビングのたどり着いたシンジであったが、所詮へなちょこ。

どっしゃあっっっっっ・・・・・

車田正美調で崩れ落ちるシンジ。

「・・・せ、性格の・・・改善を・・・・要求す・・・る・・・・」

ポテ

シンジ逝く。

作者は貴様を忘れたい・・・・・





「まあ、まあ、まあ・・・・パンツ見られたくらいでえ〜、大袈裟だぞ〜・・ ・」

ミサトは猫なで声でアスカを慰めている。

「碇くんに・・・・ひっく・・・・見られた・・・・」

「そんな事言ったらレイはど〜すんのよ〜」

キョトンとするレイ。

それを聞いてアスカはミサトに詰め寄った。

「そもそも、レイちゃんにこんなパンツ穿かせる葛城さんがいけないんですよ っっっ」

「いや、だってさ〜初夜なのよ〜初夜・・・・ここ一発ビッシと決めなくっち ゃさ〜」

「初夜じゃありません。」

アスカの眼が据わる。

日頃、かわいくて優しいもんだから怒ると迫力が違う。

「はい、はい・・・・あ、そ〜だ、アスカにもあげようかあ〜。レイにあげた のと似たようなやつ・・・・・」

ピクッ・・・・

アスカの片眉が上がる。

「わ、わたしは・・・・そんな・・・・・」

モジモジしながら知らん顔するアスカ。

「は〜ん、いらないならレイにもう一枚あげよかな・・・・・今度のはね〜薄 い紫で〜布の所に刺繍があるのよね〜・・・・レイにあげたのはシンプル・イズ ・ベスト。飾りのないのが男の欲情に火を付けるってやつだけど、これはね・・ ・・くっくっく、言うなれば貴婦人の誘惑ってとこかな・・・・・」

訳の分からない形容に騙されたのか、アスカの表情はだんだん引き込まれてい くのであった。

「ホントにいらないの〜アスカ〜〜〜」

意地が悪いミサトである。

アスカは少しずつ近づいていき、

「・・・・く、ください・・・・」

ミサトの軍門に下るのであった。




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