アスカ・リターン

製作 越後屋雷蔵

プロダクション・モデル02


病院を退院したアスカは、その足でレイのマンションに行った。

初めて行くレイのマンション。

凄い所だと聞いてはいたが、果たしてどういう意味で凄いのか興味津々であっ た。

そして・・・

レイのマンションの前に立つアスカ。

額に縦線が無数に入っている。

「こんなとこに住んでんの、あの娘・・・」

ますます、年頃の女の子としての教育の必要性を感じるアスカであった。

レイの部屋の前。

「ここかあ。」

郵便受けには、ダイレクト・メールの束が入りきれずに積み上げられている。

インターホンのボタンを押すが、鳴っている様子もない。

ドアノブに手を掛けて、引く。

ギギイ〜

出来の悪いホラー映画の様な音を立てて、ドアが開いていった。

「呆れて物も言えないわ。これが14歳の女の子が住む部屋なの?」

靴も脱がずにドスドス上がり込んでいくアスカ。

「レイ。レイ、居るんでしょ。どこ?返事しなさい。」

キョロキョロ辺りを見まわす。

玄関に負けず劣らずの部屋の中。

眉間に皺を寄せて、首を振る。

(こういう奴なんだって、わかっていてもねえ。)

「・・・なに・・・」

部屋の状況に気を取られていたアスカの背後から声が掛かる。

以前のシンジと同じ状況。

だが、アスカとシンジは違う。

ジトッとした視線をレイに投げかける。

丸裸にバスタオルを頭からかぶった格好。

スリッパをペタペタ音を立てながら、近づいてくるレイ。

「・・・なに・・・」

「なに、じゃないでしょ。いっくら自分の部屋だからって鍵も掛けないで、裸 でペタペタ出てくる奴がどこにいんのよ。」

きょとんとした顔でアスカを見つめるレイ。

「まあ、いいわ。着替えて荷物をまとめるのよ。」

「・・なぜ?・・」

「少しの間だけど、あたしたちと一緒に住む事になったのよ。ミサトの家にね 。」

不思議そうな顔をしていたレイは、ハッとして気が付いた。

「・・・碇くんと・・一緒?・・」

ちょっと恥ずかしそうに、アスカに訊ねる。

「当然。だからあ、今みたいに裸でノコノコお風呂から出てきたら、シンジに 嫌われちゃうわよ。裸を見せるってのは、二人っきりの時の夜が普通なのよ。」

「・・・二人っきりの夜・・・その時なら、なにしてもいいの?・・・」

いきなり積極的なセリフに、アスカはいささか面食らったが、

「相手の合意が絶対条件だけどね。相手がその気なら何でもオッケーよ。」

「・・・何でもオッケー・・・」

頬を赤らめながらも、瞳がキラキラ輝きだしている。

ポーッとした表情ながら、荷物をまとめるスピードは早くなっていた。

「レイ、うれしいでしょ。」

アスカは優しそうな笑みを浮かべながら、レイに訊ねる。

「・・なんだか、胸がドキドキして・・体が軽くなったみたい・・」

「浮かれてるって言うのは、そう言う事よ。」

「・・浮かれてるの?わたし・・」

「そうよお、シンジと一緒に暮らすだけで、そんなに浮かれちゃうのよ。それ だけあんたはシンジと一緒にいたいと思っていたのよ。」

真剣な表情になったアスカは、ずいっと顔をレイの顔に近づけ、

「それが好きって事なのよ。理解しなさい。」

こくこく

うなずくレイ。

「さて、荷物もまとまったみたいだし、行くかあ。」

「・・ええ・・」

ん?

なんか忘れてるような・・

「レイ!あんた服着なさい!」




食事の終わった夜。

ここは葛城邸。

「ねえ、シンジ。人間と他の生物の共存って可能だと思う?」

「えっ、どういうこと?」

「つまり、人間と人間以外の生物が一緒に暮らせるかってことよ。わかりやす く言うと、人間と犬、人間と猫、人間と虎、人間とゴジラ、人間と・・使徒。」

なかなか意味深な問いかけであったが、シンジは答える。

「犬猫なら可能だと思うけど、虎やゴジラ、使徒となると厳しいものがあるね 。」

「じゃあ、人間の形をしたゴジラや人の形をした使徒ならどう?もちろん人間 と全く同じ生活形態よ。」

「それなら大丈夫なんじゃない、形や生活形態が人と同じなら人間って言って もいいと思うよ。」

アスカはキッチンで身を固くして聞いているレイに気づいていた。

「そうだよねえ。そうよねえ。」

シンジの肩をバンバン叩きながら、うんうん頷くアスカだった。

「アスカ、ホントは使徒なんでしょ。」

「あ〜ら、わかっちゃった?いつ、あんたを頭から食べようかって考えてたの よ。」

クスクス悪戯っぽく笑うと、

「お風呂見てきてよ、シンジ。」

「うん、そろそろ良い頃だね。」

「レイ、後かたづけ終わったら一緒に入ろうよ。」

「・・ええ・・」

シンジが羨ましそうに一言。

「いいなあ・・」

「バカにはまだ早すぎるわ。見てくるの、ほらほら・・・」

シンジは浴室に消える。




浴室に二つの影。

アスカとレイが入っている。

「ねえ、レイ。」

「・・なに・・」

「あたしはね、あんたが人間でなくてもあんたが好きよ。」

レイの表情は強張り、アスカの眼をじっと見据えた。

「・・どうして・・それを・・」

アスカはまるで意に介さず、言葉を続けた。

「どうでもいいわ。シンジだって綾波レイが好きなの。今の綾波レイがね。」

「・・い、今の?・・」

「そう、今のね。今のあんたの代わりはいないのよ。スペアはスペアであって あんたじゃないわ。」

「・・あなた、何を知ってるの・・」

「あたしは何でも知ってるわ。あんたが死んではいけない事やあんたが司令の 人形でいてはいけない事・・・代わりの体がいくつあってもあんたはあんたなの よ。」

「・・でも、わたしは司令の計画のために存在を許されている・・」

「違うわね。種類はどうあれ生まれてきたのは、己自身のためよ。他の人間の ためだけなんかじゃない。断じてない。」

「・・でも・・」

アスカはレイのほっぺたを、思いっきり抓り上げる。

「痛い?」

「・・いひゃひ・・」

「司令が痛いって思えって言った訳じゃないでしょう。あんたの体や意志はあ んたの物なのよ。」

「・・いひゃひ、はにゃひひぇ・・」

アスカは指を離すと、そこだけ赤くなった頬をさすりながらレイが言う。

「・・痛かった・・」

「悪かったわねえ、でもあたしが言いたい事は解ったでしょ。自分の生きたい ように生きる事が大事なのよ。そう、シンジのために生きるのよ。」

「・・確定事実?・・」

「当然よっ!!」

クスクス笑い合う二人だった。

不思議な事に、レイはアスカが自分の秘密を何故知っているのか、疑問を持た なかった。

(・・なぜだろう。この人といると心が穏やかになる。落ち着ける。秘密を知 られていてもおかしくないような気分・・・碇くんと一緒にいる時と同じみたい ・・)

奇妙なアプローチではあるが、アスカはレイの心に入っていたのだった。

それは、アスカがレイの中でシンジと同じく信頼の置ける人物として認識され た証でもあった。



そして、数日後。

問題の使徒が登場した。

いまだ初号機は凍結中で、シンジは待機。

アスカは入院の影響を考えられて、零号機のバック・アップに廻された。

「零号機、発進。迎撃位置。」

アナウンスが流れる。

「零号機、位置に配置完了しました。」

「弐号機の発進準備は?」

「あと2、3分かかります。」

「急がせて。先手を取られたんじゃ仕方がないわ。」

ミサトの心配は的中した。

山の上空を、ゆっくり回転している使徒は突然回転を止め、収束する。

「使徒のパターンが青からオレンジに周期的に変化しています。」

「なにいっ。」

「magiは回答不能。」

「データ不足ですね。」

「あの形は固定形態じゃあないって事は確かだわね。」

ミサトは零号機に指示を飛ばした。

「レイ、使徒が行動を起こしたら、すぐに攻撃を開始して。」

「・・はい・・」



無線を聞いていたアスカは、焦っていた。

(まだなの、あれに融合される前に出たいのに・・)

「準備はまだなのっ」

アスカはたまりかねて怒鳴った。

「もうちょい・・」



「・・来る・・・」

収束していた使徒は、地面すれすれに零号機めがけて飛来した。

ライフルを連射するが、使徒にはなんのダメージを与えることが出来なかった 。

一時使徒は動きを止めたが、鎌首をもたげて再び零号機に迫ってきた。

「まずいっ、レイ、よけてっ。」

ミサトは叫ぶが、使徒の動きは予想を越えて早く、零号機の胸部に突き刺さっ た。

引き抜こうとする零号機の手からも浸食する。

「くっ・・弐号機の準備はまだなのっ。」

「完了しました。」

「アスカっ、急いでっ。エヴァ弐号機リフト・オフ!!」

弐号機が地上に射出され、アスカは一目散に零号機に向かった。

(待ってなさい。今行くから・・)

「アスカ、フィールド全開して、パレット・ガンを・・・・って、アスカなに すんのよっ」

弐号機はパレット・ガンを持たずに、使徒に飛び掛かろうとしていた。




その頃、レイは自分を浸食している使徒と、なにやら会話を交わしていた。

「・・あなたは使徒?・・」

「わたしとひとつにならない?」

「・・いや。わたしは碇くんとひとつになるの・・」

「でも、遅いわ。」

「・・・」

「わたしの心を分けてあげる。痛いでしょ。心が・・」

「・・痛い?・・いいえ、違う・・寂しい・・そう、寂しいのね・・」

「それは、あなたの心。」

「・・でも、それだけじゃない。心を暖かくしてくれるものが二つ。・・」

「悲しみに満ちたあなた自身の心よ。そして、それを溶かしてくれる大事なも の。」

LCLを漂い、膝の上に落ちる液体。

気が付くレイ。

「・・これが、涙?泣いているのは、わたし?・・」




飛び掛かろうとする弐号機に、使徒は後方部を飛ばす。

「・・弐号機パイロット?・・」

すれすれでかわす弐号機。

「・・弐号機パイロットとも、一緒になりたいの?・・」

連続で攻撃する使徒を、よけるだけで精一杯の弐号機。

「くっ、近づけない・・」

苦戦する弐号機を見て、

「・・駄目・・」

レイはある決意を固めた。



「フィールド反転。零号機のエネルギーが逆流。」

「使徒と一体化を望むの?何故。レイ・・」

「レイ、機体は捨てて逃げるのよ。」

「・・だめ、フィールドが消えてしまう。だから、だめ・・」



零号機と使徒を中心に展開されるATフィールド。

(まずい。自爆レバー引きやがった。)

弐号機はフィールドを全開して、自分のフィールドで包み込ませた。

右手部分を中和させ、内部に手を突っ込む。

「レイ。聞こえてるんでしょ。プラグを射出すんのよっ。」

「・・だめ。ありがとう、うれしかった・・」

「駄目じゃないっ。零号機と使徒はあたしが包んでるから、大丈夫。今、あん たが三人目になっちゃいけないのよっ。」

「・・・・・」

「シンジが死んでもいいのっ!!」

「・・碇くん・・・」

レイは一瞬の間を置いて、プラグ射出レバーを引いた。

射出されたプラグを、弐号機の手が掴む。

弐号機は両手でプラグを大事そうに抱えて、うずくまった。



大爆発。

一瞬にして第三新東京市を蒸発させる程の・・・

その中で、弐号機は丸くなったまま動かなかった。




「これで、16の使徒を倒した。」

「残る使徒は、あとひとつ。」

「約束の時は近い。」



使徒に浸食され、体にダメージが残るレイは入院していた。

アスカは軽い手当てを受けただけで、入院は免れていたのだ。

アスカはシンジとともにレイを見舞い、レイの心を落ち着かせていた。

「綾波、大丈夫?大事な時に出撃できなくってごめんよ。」

「・・・ううん、いいの。凍結中なんだから・・仕方ないわ・・・」

シンジはレイの手を握りながら、話している。

「いちゃいちゃすんのは、退院してからにしない?」

言いながら、にやりと笑うアスカだった。

(ふむ、ふむ。だいぶいい感じになってきたわね、こいつら。あとはシンジの 気持ちを引き締めないとね。レイの正体を知ってシンジは離れていったんだから ・・・)

「シンジ、愛しいレイちゃんと引き離すのは悪いと思うのだがあ、ちょっと喉 が乾いちゃったのよお。ジュースでも買ってきてくんない?」

「えっ、ああ、いいよ。ちょっと待っててね。」

レイがそれ程の怪我でない事がわかって、機嫌が非常によろしいシンジは気軽 に席を立った。が、アスカの行動に少しおかしいものを感じていたシンジはドア にへばりついて聞き耳を立てる。

根本的に人がいいシンジだが、妙な所で勘がいいのだ。

「レイ。これからあんたにとっては辛い仕事が待ってるわ。」

「・・・辛い仕事?・・・」

「ええ、今リツコがゼーレに召還されてるはずよ、あんたの代わりにね。」

「・・・・・・」

「そして、多分あんたのスペアを破壊すると思うのよ、シンジの目の前で。」

レイの眼に恐怖の影が浮かぶ。

「シンジに知られたくない気持ちはわかるけど、いずれはわかる事よ。出来れ ばリツコに暴露されるんじゃなくって、あんたからシンジに話した方がいいんだ けど・・・」

「・・・あそこまでは、わたしひとりでは行けない・・・司令か赤木博士が一 緒でないと・・・・」

「そう・・かあ・・・できれば、あんた自身の手で、先に破壊しておいたほう がいいかと思ったのに・・・・」

「・・・でも、どうして赤木博士がボディを破壊しなくっちゃいけないの・・ ・」

「う〜ん、あんたに言っても分かんないかもしれないけど、要するにリツコは 司令を愛しているんだわね。あんたがシンジに感じてる気持ちっていえばわかり やすいかな。それが、あんたの代わりにゼーレに差し出された訳。自分よりあん たを選んだって思う訳なのよ。嫉妬よ、嫉妬。司令の計画に必要なあんた本体を 壊す訳にはいかないから、代わりのボディを壊すつもりなんじゃないかな。」

「・・・どうして碇くんに、それを見せるの?・・・・」

「それは多分司令への恨みだと思うの。司令は愛してるから復讐する事が出来 ないし、そしたら息子が好きな女の子の正体をばらして鬱憤を晴らそうって思っ たんじゃないのかしらね。」

レイは今まで見た事の無いような情けない顔で、アスカの腕に縋り付いていた 。

「・・・惣流さん、碇くんはわたしを嫌うわ。こんな人間じゃない女の子、誰 も好きでいてなんてくれない・・・どうしよう・・」

アスカはレイの肩を掴んで、

「信じるのよ、シンジの事を。まあ、シンジのバカがあんたの気持ちを裏切っ て、あんたが死にたくなったらあたしも一緒に死んであげるわよ。」

レイはアスカの胸に顔を埋めて、泣き出した。

(綾波が、人間じゃない?どこが?人間以外のなんだっていうの?でも・・・ あんな顔する綾波初めて見た。僕に知られて離れられるのが、そんなに恐いの? )

シンジは走ってジュースを買い、大急ぎで病室に戻ってきた。

(綾波は綾波だよ。綾波でいてくれるなら・・・いいや。僕を好きでいてくれ るなら・・)

シンジはドアを開く。

「お待たせ。あれ、アスカ綾波を泣かせたの?眼が真っ赤だよ、綾波。」

「いっ?」

「・・・わたしの眼は・・元々赤いの・・・」

「「「くっくっくっくっ・・・ははははははは・・・」」」

三人の笑い声が病室に響きわたった。





その夜、シンジはリツコからの電話で呼び出された。

アスカは何も言わず、寝たままだった。

これは、シンジの気持ち次第。

アスカは祈るような気持ちのまま、眠りに落ちていくのだった。



その日、シンジは帰ってこなかった。

(さすがにショックだろうな。もっと手段はなかったのかしら。失敗したかな 。)

アスカは身支度を整えて、レイのいる病院に向かう準備を始めた。

その頃、シンジは零号機の爆発で新たに出来た湖のほとりを歩いていた。

さすがに聞いていたとはいえ、目の当たりにした綾波の形をしたものが崩れて いく様子はシンジに、かなりのショックを与えていた。

ふと気づくと、聞こえてくるのは第九。

「歌はいいね」

始まった。

「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じない か?碇シンジくん。」

「僕を知ってるって事は、ネルフ関係だね。」

「そう、僕はカヲル。渚カヲル。君と同じ仕組まれた子供。フィフス・チルド レンさ。」

「フィフス?変だね、機体も無いのに。パイロット過多なんじゃないかな。あ の・・渚くん?」

「カヲルでいいよ。碇くん。」

「僕もシンジで構わないから・・・」

上空からヘリコプターの音が盛大に響いてきた。

「やれやれ、無粋なお出迎えだね。じゃあ、シンジくん。また。」

カヲルは謎の微笑みを浮かべたまま、ヘリとは逆の方に歩いていった。

「・・・変な奴・・・」

シンジは誰ともなく呟くと、思い出したように走り出した。

「あっと、いけない。綾波の所にいかなくっちゃ・・・」




アスカはいささか重い足取りで、レイの入院している病院に向かっていた。

やはり気に掛かるのは、シンジの事だった。

帰ってこなかった所を見ると、またもや逃げたのかもしれないと思ってしまう アスカだった。

(でも、こればっかりはなあ。あたしがああしろこうしろって言っても仕方無 いことだしなあ。シンジがヘロヘロになってる所に、あのナルシス野郎が来たり すると困るなあ。)

レイにはああ言った手前、自分もレイから逃げる訳にもいかず、自然と足取り も遅くなってしまうのであった。

たっぷり時間を掛けて、ようやくレイの病室にたどり着いた。

そして、ドアを開けたアスカが見たものは・・・

しっかり抱きしめ合うシンジとレイの姿だった。

シンジの胸で肩を振るわせながら泣くレイ。

穏やかで優しそうな表情でレイを包み込むシンジ。

自分の予想とは、いささか異なる展開にアスカの口は開いたままだった。

「・・・・・」

「ん?なに、どうしたのアスカ?」

シンジとレイを指さすアスカ。

「え?なんだよ、今更。」

不思議そうに聞くシンジ。

「あ、あんた、昨日リツコに・・・」

「ああ、呼ばれたよ。」

事も無げに言うシンジ。

「じゃあ、あ、あれは・・・」

「うん、見てきたよ。綾波にも言ったけど、いいじゃない。あんなのどーでも 。ここに綾波がいてくれるんだよ。それでいいじゃないか。僕は人間じゃなくて も綾波でいてくれたらそれでいいんだ。」

かくかく首を縦に振って、頷くアスカ。

「いやあ、驚いた。あたしはあんたがヘロヘロになってんのかと思ったわよ。 」

アスカはレイに視線を向ける。

「・・・碇くんが・・・わたしを守ってくれるって・・・」

嬉しそうな半べそをかきながらレイは言う。

「うん、うん。だから言ったでしょ。信じる者は救われるのよ。よかったわね 、レイ。」

思い出したようにシンジはアスカに言った。

「そう言えば、そこの湖のほとりで変なのに会ったよ。フィフスだってさ。渚 カヲルくんっていうんだ。」

「って、会ったの?」

「うん。第九の鼻歌歌ってた。乗る機体も無いのに五番目のチルドレンなんて 変だよね。新しい機体が来る前に、パイロットの訓練でもするのかな。」

アスカは考える。

(シンジにフィフスを殺させてはいけない。あの時シンジはヘロヘロで、あた しはドロドロだった。おまけにレイに対する恐怖がシンジにはあったはず。でも 、今は違う。あたしたちには強い絆があんのよね。今回はシンジの心には入り込 めないわ。)

「まあ、ネルフがそいつをどうするのか知らないけど、様子を見ましょう。」




そうして様子を見ているうちに、カヲルはレイとシンジに接触を繰り返す。

その前に行われた各種テストに於いて、飛び抜けた成績を残したカヲルであっ た。

(なんだか、予想していたのとは感じが違うな。チルドレンには強い結束が見 られる。リリスは不安定だ、使徒としての純粋さが欠けているようだし。依代と なるべきシンジくんの精神に揺るぎが見られない。)

考え込んでいた顔をフッと上げて、

(あの惣流さんには、大きな何かを感じるね。好きってことかな・・・)

だが、表情をキッと引き締め、

(でも、僕は僕のするべき事をしなくてはいけない・・・)

その表情には、幾分かの暗い影が落ちているのであった。




「ケージ内にATフィールドの発生を確認。パターン青。使徒です。」

司令所を驚愕の空気が満ちあふれる。

「モニター急いで・・」

「あ、あれは・・」

「カヲルくんが・・・」

シンジは驚きの色を隠しきれない。もちろん、シンジだけでなく司令所にいる みんながそうであったが。

だが、驚愕の事実はそれだけではなかった。

「初号機起動しました。使徒を追って下降中。」

珍しくゲンドウは慌てた様子で叫んだ。

「エヴァ弐号機で追撃。急げ、使徒をターミナル・ドグマへ行かせてはならん 。」

「アスカっ、エントリー急いでっ!」

ミサトが叫ぶ。

「もう完了してるわよ。とっとと出してよっ。」

既に発進準備が出来ている弐号機からアスカの怒号が響きわたった。

(あたしはあいつを殺せるの?この手で・・・)





続いちゃったよ、困ったな

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