リツコが唐突に喋りだした。今までミサトと掛け合い漫才をしていた所だったので、ミサトは面食らってしまっていた。
「なによ、いきなり・・・・・」
「ん〜、なんかこう新兵器の開発もちょっとつまんなくなっちゃったのよね・・・・・」
「あら、あんたがそんな事言うなんて。世界制覇は諦めたの?」
「いいえ、兵器による世界制覇なんてあんまり意味無い気がしてね。」
リツコは放心したような表情でため息をひとつつくのであった。
「え〜っと、次の使徒は・・・・・忘れた・・・・・どんなのだっけ?」
「まあ、いちいち使徒が来る度新兵器リストからプラン引っぱり出して作るのが面倒になったのよね。こう、どんな使徒でも通用する万能兵器ないかしらねえ・・・・・・」
「万能兵器ねえ・・・・・・あ。あるじゃん。」
ミサトは呆けた顔でポンと手を打った。
「いや〜平和ボケしてたのかしらねえ、あるある。ほら、あれあれ。槍よ、槍。」
リツコも呆けた顔で思い出す。
「あ、槍ね。そういえばすっかり忘れてたわ。確かにあれは万能兵器だわね。あれ使わない手はないわ。」
ロンギヌスの槍。
確かに対使徒戦に於いて究極の万能兵器である。
「オリジナルを使うのはもったいないから、ヨーロッパからカヲルくんにコピー送ってもらいましょう。しかし、そうなるとリツコ、あんたする事なくなっちゃうんじゃないの?」
「失礼ね、当面はMAGIを超える次世代コンピュータの開発に着手するわよ。子供は親を超える事に意義があっていいんだから。それに次世代コンピュータが完成して、なおかつMAGIを擁する事が出来れば、世界制覇なんてちょろいちょろい・・・・・よし、そうしよう。じゃ、ミサト。後よろしくね。」
言うだけ言ってリツコは己の研究室に戻って行った。
ミサトはリツコを見送りながら呟く。
「ま、いいんだけどね。それにしても、次の使徒はなんだったけ・・・・・・・」
そして、忘れられた使徒。
鍋蜘蛛くんが現れた。
「ああ、これだったかあ〜」
お気楽なミサトである。それもそのはず、全員やり直しであるから前回あった人為的な停電事件は起こらないだろうし、チルドレンたちも既に待機中。槍のコピーも配備完了していたのだから。
これで苦戦するなんて考えもよらぬ事。
ミサトのお気楽に拍車が掛かるのも無理からぬ事である。
「誰が出るう〜〜〜」
三人並んで立っているチルドレンどもに声を掛けるミサト。
そのチルドレンどもはと言えば、シンジを中心に両脇をピッタリ美少女二人が固めていた。
いいかげん慣れた部分もあるので、からかうのも馬鹿馬鹿しいと思っているミサトであるが、鬱陶しい事この上ない。
「しかし、アスカもさあ、あんな事があったのによくまあ嫌わずにくっついてるわねえ〜」
ミサトが言うあの事とは、修学旅行中浴場での顔面発射事件の事だ。
シンジは何とも言えぬ奇妙な顔付きでため息を付き、レイはいささか憮然とした面もちでいる。
「ふん、あの程度であたしの気持ちが変わるなんて事はないのよ。ま、シンジも顔面発射なんてあたしにしたのが初めてでしょうからね、いわゆる初物って奴う〜〜〜、そう考えれば意外と気分いいもんよお〜〜〜〜〜」
「ぶっとんでるわねえ・・・・・」
「ミサトに言われたくないけどね。」
「レイはシンちゃんの初物は何か戴いちゃったの?」
「・・・・・わたしは・・・・・まだ胸揉まれただけ・・・・・・」
「ああ、補完前のあれね・・・・・じゃあ、シンちゃんの正真正銘の初物はまだ誰も・・・・・・・」
ミサトの顔に淫靡で不気味な微笑みが浮かぶ。
「シンちゃん、初めては経験のある女の方が・・・・・・」
言いかけた所でアスカの罵声が響いた。
「何考えてんのよ、司令と加持さんに報告するわよ。」
レイに至っては携帯のボタンを押し始めている。
「冗談、冗談、そんな目くじら立てなくてもさあ・・・・・・だ、大体シンちゃんがさっさとやっちゃわないからいけないのよん。」
シンジは疲れた顔で言い返す。
「その話題、やめましょうよ。不毛ですよ・・・・・・・いいんです、ぼくはこのままで・・・」
「あ〜あ、違う意味で閉じこもっちゃった。はいはい、当面目先の鍋蜘蛛くんを何とかしましょ。」
ミサトは手を叩きながら指示を出す。
「鬱憤晴らしに三人で行ってきなさい。あ、一撃で終われるんだからイジメにならない程度にね。さあ、行った行った・・・・・・」
てな具合に送り出された三人は、けちょんけちょんに鍋蜘蛛くんをかわいがってあげたのであった。
主に零号機と弐号機がその任に当たったのは言うまでもない。
「電気が点いてるね。」
「・・・・・明るいわ・・・・・・」
「前と違って情緒がないわよね・・・・・・」
一応お約束かと思い、シンジたちは丘の上で都市の明かりを眺めている。
「星も綺麗だけど、下が明るいとなんか今ひとつだなあ・・・・・」
「・・・・・・でも、わたしはこれでもいい・・・・・・・」
「仕方ないもんね。我慢してあげるわよ。」
レイとアスカは二人でシンジの腕を抱え込み、なおかつ脚まで絡ませて密着してしまっている。
「お二方、あなた方はそれでよろしゅうございましょうが、ぼくの気持ちは一体どうなるのでせう。」
硬直しだすシンジは言う。
「いいじゃないの。あたしたちにくっつかれて迷惑だっての?」
「そ、そんな事ないけどさ・・・・・・」
「大体、あたしはいいって言っても、そっちの白いのが黙っちゃいないわよ。」
「・・・・・・そう、黙っちゃいないの・・・・・・」
「正直に言った方がいいんじゃないの?気持ちいいんでしょ?」
「・・・・・・はっきりどちらかに決められない碇くんがいけないの。自業自得。さあ、気持ちいいって言えば楽になれるわ・・・・・さあ、さあ・・・・・・・・」
「・・・・・気持ちいいです、はい・・・・・・・あっ、手そんなとこに挟み込んじゃダメだよ、ふたりともお〜」
「ふっふっふ・・・・」
「・・・・・ふっふっふ・・・・・」
シンジを苛む可憐な小悪魔と化したレイとアスカは、事もあろうにシンジの手を自分の股間に挟み込んでしまったのである。
「さあ、どうする?シンジ〜〜〜」
「・・・・・ちょっと動かせば、わたしも碇くんも気持ちよくなるわ・・・・・」
シンジの額には、蝦蟇の油の如くたら〜りたら〜りと汗が流れる。彼の葛藤は想像して余りあるが同情は全く出来ない。
「ねえ。もう許してくんない?なんでもするからさ・・・・・」
「なんでもする?じゃ、シンジから見て手のひらを外側に向けるの。指を軽く曲げるの忘れないでよ。」
「・・・・・・そしたら、ジッとしてていいわ。後はわたしたちが勝手に動くから・・・・・・」
しばらくして三人の姿は本部廊下にあった。
「シンジ。どうした?赤い顔して・・・・・」
バッタリゲンドウと行き会う三人。ゲンドウはシンジの赤くなった顔を見逃さずそう言った。
「ぬ、ぬわんでもないよ・・・・・」
「レイ。どうした?」
言語の怪しくなっているシンジでは埒があかないと見て取ったゲンドウは、質問の矛先をレイに変える。人の顔色を窺うのはシンジ以上の才を発揮するゲンドウ、レイの無表情な口元が上を向いているのも見逃さない。
「その様子では、いい事があったようだなレイ。惣流くんも・・・・・・」
アスカはもはや誰が見ても上機嫌なのが分かる顔をしていた。ニコニコである。
「むふふふふふ・・・・・・」
「・・・・・・・むふふふふふふ・・・・・・・・」
笑う二人。
シンジの赤い顔の瞳に、なにか訴えかけるような色が見えたような気がしたゲンドウは、
「久しぶりにシンジと話がしたい。すまんが二人は先に風呂でも行っててくれんか?」
と促す。
「そうしましょうかあ・・・・くくく・・・・ふほほほ・・・・・」
「・・・・・はい、そうします・・・・・むふふ・・・・・」
美しいが、それだけに不気味な二人はとてとて去っていった。
「で?」
簡潔なゲンドウの問いにシンジは言いにくそうに答える。渋々といった感じで。
「ふ、ふたりが・・・・迫るんだ・・・・・」
「そうか、大変だな。その歳で二人いっぺんにとは・・・若さ故成せるワザだな。」
「なに言ってんだよ。」
「だが、程々にしておけよ。もしもの時、傷つくのは女の子の方だ。きちんと「転ばぬ先の杖」を用意しておかねばならん。」
「父さん、非常にミサトさん的勘違いをしちゃいないかな?」
「勘違いとは失敬だな。おまえの歳でそういう交際を認める父親なんぞそうそう居ないものだ。どちらかに決めろなぞと野暮は言わん。だが、ふたりとも幸せにしなければならんのだ、それはおまえの使命なのだぞ。」
「そ、そりゃそうだけど・・・・・・」
「それともなにか?おまえはもうあのふたりに飽きたとでも言うのか?飽きたからあのふたりを幸せには出来ないとでも言うつもりなのか?」
「そんな事はないっ!!ぼくは綾波とアスカを幸せにしたいっ、してみせるっ!!」
「ならば、して見せるがいい。男なら自分の発言に責任を持て。」
「うん。責任でもなんでも持つ!」
「よし、そこまでの気持ちがあるのならば、もう二人いっぺんが辛いなぞ泣き言は言うまい。きちんと身も心も幸せにしてやれ。いいかシンジ、女の子の身体はある意味では非常に強靭でタフだが、扱いは極めて繊細に且つ優しくの心遣いが必要なのだ。若さに任せて激しすぎる行為はなるべく押さえろ。」
完全に、二の句が告げないシンジの肩を叩きながら、
「ま、おまえの方が持たんかもしれんがな・・・・・・がんばれ。」
と言って去っていくゲンドウであった。
(戻ってきても・・・・・人の話を聞かないオヤジだ・・・・・・・)
シンジは、深く深〜くため息をつくのであった。
大浴場、女湯。
レイとアスカが仲良く肩を並べて大きい浴槽に浸かっている。
緩んだその表情はお湯の心地よさだけではなさそうである。
「ねえ、レイ。あんたどうだった?」
「・・・・・・どうって?・・・・・・」
「むひひひひ・・・・・・シンジにさ・・・・・・さっきの・・・・・・・」
美少女には不釣り合いな、不気味な笑いを洩らしつつアスカは言った。
「・・・・・・うふ、うふ、うふ。ああゆ〜やり方で退路を絶つのはいいかもしれない・・・・・碇くんには悪いけど、気持ちよかった・・・・・・・アスカは?・・・・・・・」
「あたしも気持ちよかったわよ〜、それもあるけどなんか幸せな感じになったなあ・・・・・・あんたもそんな気分にならなかった?」
「・・・・・ええ、幸せって感じ、やっと分かった気がする・・・・・・・もっと、幸せな感じを感じたい・・・・・・」
アスカはパッと顔を輝かせて、一瞬の後よく言えばミサトばりの悪く言えばゲンドウばりのニヤリを浮かべる。
「レイ、後でシンジの部屋に二人で忍び込もう。」
「・・・・・・忍び込まなくても碇くんの部屋には入れる・・・・・・・」
「そうじゃなくって・・・・・こっそり忍び込んでさ、裸でシンジに抱きついて眠るのよ。あいつきっと朝絶叫するわよ。」
「・・・・・・幸せになれるの?・・・・・・」
「裸で抱きついてりゃもうあなた・・・・・ひひひ。もしかすると観念してイタしてくれるかもしれないしい〜」
「・・・・・・今夜決行しましょう・・・・・・・」
「二人同時に、が原則よ。」
「・・・・・わかってるわ・・・・・・」
がっしりと固い握手を交わした美少女二人は、さらに緩む表情を押さえる事が出来なかったのであった。
いつの間にやら奇妙な友情が成立しているふたりだった。
深夜、シンジは戦闘の疲れというよりも、イジメによる疲労によりグッスリ眠りに落ちていた。
部屋に戻り、二人にまたくっつかれるかと構えていたが、あっさり二人は自室へ帰りシンジを拍子抜けさせたのだった。
ホッとした気の緩みと疲れの相乗効果で、ある感覚を残し深い眠りに落ちているシンジである。
ある感覚とは・・・・・・プラグ・スーツの上からとはいえ、初めて触れた秘密の花園。
それも心から大事に思っている大好きな少女二人の花園である。
忘れられるはずもない。ピクリとも花園に触れた手は動かせなかったが、手のひらに感じる暖かく柔らかなその感触は、手に焼き付いている。
流石にレイもアスカも腰を動かすような真似はしなかったものの、シンジにしてみれば同じ事。
手のひらだけは、火傷でもしたようにジンジンしているのだった。
音も無くスラリと開くシンジの部屋の襖。
ガッチャマンのような白い影が二つ忍び込んできた。
言わずもがなのレイとアスカであった。白いマントのようなものをスッポリかぶって頭だけ出した格好である。
チラリとアイ・コンタクトを取り合い、ゆっくりマントを取り去る。
眩いばかりの裸体が月の明かりに照らされて、超絶妙なウエーブを描く。
レイがアスカの耳元に口を寄せて囁く。
(・・・・・いっそのこと、碇くんも裸にしてしまいましょう・・・・・・)
(あら、積極的じゃないの、あんた。)
(・・・・・恥ずかしいから。碇くんも裸なら我慢できそう・・・・・・)
(まあ、そうね。よし・・・・)
二人は熟睡するシンジを手際よく裸にひんむいてしまった。
そして、おもむろにシンジの両側に身体を滑りこませる。
(むひひひ・・・・・き、気持ちいい〜・・・・・)
(・・・・・頭がクラクラしそう・・・・・)
文字通り、シンジとのスキンシップを堪能している二人だったが、レイがふと呟く。
(・・・・・さわってもいいかしら・・・・・・)
(なによ。)
(・・・・・アスカは旅行のお風呂場でたっぷり触った。今回はわたしの番・・・・・・・)
(ず、ずるいわよ。あれは事故なんだから。ふ、二人一緒にね。)
(・・・・・仕方がないわ・・・・・そういえば、夜プラグ・スーツの上から触ってもらった時、幸せな気持ちになったけど・・・・・直に触ってもらったら、もっと幸せになれるかな?・・・・・)
(ナイス。あたしたちばっかり握っていたんじゃ不公平よね。よしよし、シンジの手をさっきみたいに挟んであげよう。)
(・・・・・そうしましょう・・・・・)
二人はシンジの手をそっと取り、自分の花園へと導いていく。顔が真っ赤になっているのはご愛敬。
(はあ・・・・・)
(・・・・・ふう〜・・・・・・)
幸福そのものって感じのため息が二人の口から、密かに洩れる。
(・・・・・では、いよいよ・・・・・・)
(一緒によ。せ〜の・・・・・)
フニャッ・・・・・
(・・・・・柔らかい・・・・・・)
(普通はこういうもんなんでしょ。あんまりいじりすぎるとシンジ起きるわ。)
(・・・・・お風呂場では上を向いていた・・・・・・そう、今は欲情していないのね・・・・・)
(あんまりやりすぎると、シンジだって怒るからさ。幸せな気分で寝ましょ。)
(・・・・・そうね・・・・・)
頭の中を桃色にして、二人はシンジの横で気持ちよく、これ以上ないというくらい気持ちよく眠るのであった。
翌朝。
珍しく、かなりの空腹のために眼が覚めた葛城ミサトは、シンジの部屋の扉を開いた。
「シンちゃ〜ん、起きてないの〜、お腹減ったよ〜、なんか食べたいよ〜、シンちゃ〜ん・・・・・」
シンジの寝室の襖を開けたミサトは、ハッと眼を見張った。ニヤリと不気味な笑みを堪えつつ毛布の端に手を掛けた。
(なんだあ〜シンちゃんったらば、やってる事ちゃんとやってるんじゃないの〜。しかしまあ二人一緒たあ若さなのかしらねえ・・・・・・ひひひ、まそんな事出来る子じゃないけどね。どうせこの二人が勝手に潜り込んできたってとこでしょ・・・・・・)
シンジを知るミサトはそう高をくくって、バッと毛布を剥ぎ取るのだった。
が、
「が・・・・・・」
ミサトが見たのは、レイとアスカの花園に手を突っ込み、己のモノを二人に握らせる外道の姿であった。(ミサトは二人の少女がここまで迫るとは、到底考えつかない。自ずとシンジがさせていると勘違いするのも無理ない話である。)
「こ、こんのぼおずうっっっっっっっっ・・・・」
ガッとシンジの首に手を掛けてグイグイ締め上げるミサト。
「いっくらこの二人がべたぼれだからって、弄ぶたあ許せないわよっ。」
「ぐえ・・・・・ぐえ・・・・・ぐええっっっ・・・・・・」
シンジが気が付いたのを見計らってミサトは首から手を離す。仁王立ちになってギラリと睨み付ける。
「ひ、ひどいや。いくらお腹空いたからって首締める事ないでしょう。」
「ちんちん大っきくして寝ぼけてんじゃないわよっ。」
「しょうがないでしょ、朝なんだから・・・・・・」
「お***こから手え離さんか〜いっっっ。」
「へ?」
ゆっくり身を起こすシンジ。必然的に挟まった手も動く。
「ああん・・・・・・」
「・・・・・・あふうっっんん〜ん・・・・・・・・」
「#っ・・$$っっ&〜〜&**%%%%%っっっっっっっ」
意味不明の絶叫が、二人の美少女が画策した通りの展開で、シンジの口から発せられたのだった。
この後の流れについては、あまりにシンジが無惨なので読者さまで想像していただきたい。
それでもシンジは生きていた、と付け加えて・・・・・・・・・