オール・リターン

製作 越後屋雷蔵

Vol.2


「作戦の変更ってど〜ゆ〜事よっ。」

アスカの怒号が、司令所を震わせていた。

「・・・・納得いきません・・・・・」

レイの冷たい怒りが、司令所を充満する。

「可能性って言ったでしょ。」

平気の平左で答えるリツコ。やはり大物なのか。

「ねえ、リツコ。次の使徒は分裂するやつでしょう。いっぺんにやらないと上 手くないんならユニゾンするしかないんじゃないの?」

恐らくこのままでは、二人の怒りはシンジに向くのではないかと心配した(夕 食の心配ではあったが)ミサトがリツコに問うた。

「ユニゾンはユニゾンなんだけど・・・・問題はレイとアスカよね。前回の時 と違って今回はあまりにもあからさまなシンジくんの取り合いをしてるから、ど っちがシンジくんとユニゾンしてもしこりを残すわ。」

理性的なリツコの発言に、一同静まり返る。

「だから、発想の転換よ。シンジくんを抜いてレイとアスカがユニゾンするの よ。」

「あ、なるほど・・・・」

納得したのは、レイとアスカを除いた全員で、当事者二人は納得するはずもな かった。

「「なんで(なぜ)こいつと(このひとと)・・・」」

睨み合う野獣と化したレイとアスカは、お互いに噛みつかんばかりに殺気を放 っている。

「シンジくん、納得させてみて・・・」

いきなりシンジに振るリツコ。

ちょっと困惑した顔をしたシンジであったが、すぐ表情を戻して言った。

「あ〜、アスカと綾波のユニゾンかあ〜、見てみたいなあ〜、きっと綺麗だろ うなあ〜、二人とも元々綺麗だからぼくはきっと見とれてしまうかもしれないな あ〜、ぼくはやっぱり恐い顔してる二人より、笑った顔の二人が好きだからねえ ・・・・・・」

シンジは二人の顔を見比べながら、

「どうしてもイヤなら仕方ないけど・・・・・そうすると、ぼくは笑顔が素敵 な人を探さなければいけなくなるんだね・・・・・」

卑劣である。

だが、シンジ以外誰にも出来ない芸当であった。

効果てきめん。

「「やる」」

こうして、ユニゾン特訓はレイとアスカで行われることになったのだった。





閑話休題

廊下にて、午後のワン・シーン。

伊吹マヤは書類を挟んだバインダーを、胸に抱えて歩いていた。

廊下の角を曲がったそこには、碇ゲンドウがこちらに向かってやってくる姿が 眼に入る。

ゲンドウとマヤの視線が、絡み合いやがて火花を散らした。

(こ、この人が・・・先輩と・・・こんなむさいのに何で先輩が?事実と分か っていても、先輩が望んだ事でも、やっぱり許せない・・・・)

マヤの怒りの視線が、ゲンドウの眼球を刺し貫く。

(むう・・・伊吹くんはなぜこんなに怒っているのだ?手を出した覚えはない し、給料減らした事実もないが・・・・わからん・・・)

ゲンドウの困惑の視線が、マヤの顔にまとわりつく。

シンジと同じく元々は小心者なのだろう、ゲンドウはなんとかいつもの尊大さ を維持しつつマヤに問いかけた。

「あ〜、い、伊吹くん・・・・何かあったのかね・・・」

「いえ、別に何もありませんが。」

マヤの返事はにべもない。

ついにゲンドウは、シンジと同じくご機嫌を取りに出た。

「な、何か困った事があったら、何でも言いなさい。赤木博士に言っても構わ ないぞ・・・・」

だが、これは完全に逆効果になった。

(うわあ〜、先輩だけじゃ物足りないの?わたしまで毒牙に掛けようとしてる のね。先輩に相談しなくっちゃ・・・・そうだ、この事を先輩が知ったらこのヒ ゲおやじと切れてくれるかもしれない・・・・そうしたら・・・・うふ、うふ、 くくくく・・・・)

「わかりました。何かあったら先輩に言っておくようにします。失礼します。 」

取りつく暇もないお返事を返すと、マヤはあからさまに顔をツーンとそむけて スタスタ去っていく。

拒絶の色がありありと見えるマヤの背中を見送りながら、ゲンドウは思った。

(戻ってきてから、わたしの立場がどんどん無くなっていくな・・・・・レイ はシンジに取られるし、ユイは結局帰ってこないし、もはや赤木くんしかいない のか・・・・)

だが、その頼みの赤木リツコもマヤの妄想による讒言で、しばらくゲンドウを 相手にしなかったのであるが、可哀想なゲンドウは知る由もなかったのだった。





「で?どこに住むわけ?」

シンジにああ言われて、やむなくやると言ったものの、やはりあんまり気の進 まぬアスカがミサトに問いかけた。

「あたしはシンジが近くじゃなきゃ絶対イヤだからね。ファーストと一緒は仕 方ないけど、シンジが近くにいるってのが条件よ。」

キョトンとした顔でミサトは言った。

「何言ってるの。そんなの当たり前じゃないのよ。近くなんて生易しい事をこ の不肖葛城ミサトがすると思う訳?は〜情けない・・・・三人一緒の部屋に住ん でもらうに決まってるじゃないの〜。」

この時点で、シンジはミサトのマンションの部屋の隣の部屋に入居し、アスカ はその隣、レイは反対側のミサトの隣の部屋に移動してきていた。

もっとも、食事洗濯などは基本的にシンジがミサトの部屋でするようになって いる。

「あたしもしばらく泊まり込むからねん。」

(アスカとレイの事だから、シンちゃんと一緒じゃなきゃイヤって言うだろう からねえ、あたしの部屋が綺麗な内に移動して、帰ったらまた綺麗なまんまにし ておくのよ。むふふ、いいアイディアね・・・・・)

「それは正解ですね。帰ってきて少しは直るのかと思ったら全然変わってない んだもの、ミサトさん。部屋汚されてぼくが掃除するくらいなら、泊まり込んで もらったほうがいいや。」

容赦ないシンジの言葉。

みんな一様に頷いている。

おまけに、トドメの一言もシンジから出た。

「今回は加持さんの参加はありませんよ。加持さんは本来やるべき仕事一生懸 命にしてますからね。邪魔しちゃ駄目です。」

ゲンドウ譲りのニヤリが炸裂した。

「だ〜か〜ら〜、しばらくイチャイチャするのもお預けです。」

強大な衝撃がミサトを襲った。

「はっっ・・くおっっ・・・な、なんて事なの・・・・前の世界で、あれだけ お世話してあげたのにこの仕打ち・・・・情けというものがないの?なんでここ まで非情になれるのかしら・・・・戻ってきてもこいつらのイチャイチャ見せつ けられるだけなんて・・・・」

すかさずリツコが突っ込みを入れる。

「誰が誰にお世話したって言うの?あんたはお世話になりっぱなしじゃないの よ。まったく勝手な事ぬかすわね・・・・」

「そうよ、どうせこっちに一緒になんて、綺麗なまんまにしておきたいだけな んじゃないの?」

「・・・碇くんにばっかり掃除させてずるい・・・・」

三者三様の突っ込みに、さしものミサトも次のセリフが出なかった。

(やりにくくなったわあ〜、こいつら。リツコの突っ込みだけならともかく、 アスカとレイの息の合ったコンビネーションはなんなの?)

「で、でもさあ、みんなで戻ってきてまたユニゾン特訓するなんてなんだかね え・・・・・シンちゃんベースなら楽なのに・・・・・」

「まあねえ・・・でも、それじゃ出撃出来ないって・・・・MAGIのシュミレー ションでもアスカとレイが必ず激闘に突入するって予測が出てるしね。」

「仕方ないですね・・・」

シンジが会話の終わりを告げる。

「で?いつから?」

「今日からよ。」





ネルフ本部の一角にある部屋。

そこは、チルドレンたちがユニゾン特訓のために居住するための空間。

一般住居としては、かなり変わった作りであろう。

内部は二部屋に分かれており、狭い部屋にシンジが配され広い部屋にはアスカ とレイが居住することになっていた。

シンジの部屋は、普通である。

二人の美少女の部屋は、部屋のレイアウトした人間が何か勘違いしたかの様な 装飾が施されていた。

一言で、有り体に申せば、ラブホテル。

それも、センスの無い安ホテル。

もちろん、ネルフの施設内であるからして、置いてある品物は上質である。

が、センスは何度も言うが、皆無であった。

どでかい緋色のベッド・カバーが掛かったベッド。

ダブル・ベッドの倍くらいの面積がある。

枕元には、訳の解らないスイッチ類が並ぶコンソール。

ご丁寧にも、天井は鏡張りにしてある。

鏡台は二人掛けの巨大なモノが備えられ、これまた巨大な鏡が部屋の中を映し ている。

絨毯は毛足の長い、ベッド・カバーと同じ色のモノが敷き詰められている。

「「「・・・・・・・」」」

そこはかとなく漂う、怪しげな雰囲気に言葉も無く立ち尽くす三人のチルドレ ン。

「むふふふふ、ど〜お、綺麗なおねいさんのセッティングは?」

ユラリと背後から姿を現す、怪人葛城ミサト。

「今のセリフについてはコメントを差し控えますが・・・・セッティングは、 悪趣味ですね。」

シンジは言う。その言を受けてレイが続けた。

「・・・・・これなら、わたしの昔の部屋の方が、まだマシ・・・・・・」

アスカに至っては言葉もなかった。

ミサトは抗議の声を上げるが、あんまり説得力はなかった。

「あによ〜、今までで一番豪華なホテルの内装を真似したのよ〜・・・」

チルドレンは思う。

(((今までろくなホテル行かなかったんだな・・・・)))

「でも、今更文句言ったって遅いわよん。時間がないのはご承知でしょ。」

確信犯の怪人ミサトは、やはりこういう場面では付き物のニヤリを炸裂させる のだった。

「けけけけけ、アスカにレイさあ、こんなシチュエーションだからって危ない 関係になんないようにねん。うひひひひひ・・・・・」

「ミサトさん・・・還ってきてから怪人ぶりに磨きが掛かっちゃいましたねえ ・・・・」

「もう、なんとでも言って。あたしには加持がいるしい、これからは本能のま ま突っ走るのよ〜ん・・・・・」

危険な薄笑いを浮かべるミサトに、チルドレンは思う。

(((しっかり訓練しよ・・・・・)))






その頃、司令所では・・・・・

伊吹マヤと赤木リツコがなにやら親しげに寄り添いながら話をしていた。

というより、マヤが微妙に体を擦り寄せている様子であった。

もっとも、話の内容は至ってまともなので一安心だが。

「先輩。わたし思ったんですけど、今回のオペレーション、何もユニゾンしな くてもいいんじゃないですか?要するに使徒のコアを分裂する前に、同時に破壊 すればいい訳でしょ。」

「ああ、そうね。記憶がこの使徒はユニゾンって覚えてるからどうしてもなの かしら。」

「何か新兵器はないですか、先輩。」

ギラリとリツコの眼が光る。

「うふ、マヤったらかわいいわねえ、新兵器なんて嬉しい事言っちゃって、く っくっく。」

「やっぱり、あるんですね先輩。」

「あるわよ。でもあんまり新兵器ばっかりじゃ、マッドな科学者みたいに見ら れちゃうからね。」

(もう手遅れですう・・・・先輩。)

決して口に出してはいけないセリフを、心の中で呟くマヤ。

「MAGIの試算で、殲滅の成功率が100パーセントじゃないから、スペアでユ ニゾンさせるのよ。それにレイとアスカを張り合わせるのって、結構面白いでし ょ。」

「はあ・・・・・そうですかあ・・・・・」

「マヤも何か新兵器のプランでもあるの?」

「は、はい。ちょっと考えてみたんですけど・・・・・・」

「聞かせてもらうわ・・・・・」

ゴニョゴニョゴニョ

危険な師弟であった。





その夜。

レイはアスカと一緒に風呂に入る事になった。

無論、怪人ミサトの言によれば、ユニゾンの一環という事ではある。

バス・ルームも、ご多分に漏れず趣味が悪かった。

これでは、妖しい気分どころか暗澹たる気持ちにしかならない。

レイは先に手早く体を洗い、頭にタオルを乗せて湯船に浸かる。

縁に顎を乗せて、ボケーッとお湯の感覚を楽しんでいた。

そこへ、アスカが扉を開けて入ってきた。

「あらま〜ここも趣味悪いのね〜・・・・」

バス・ルームを見回しながら、一文句。

タオルを片手に軽く下げた格好だ。

レイは驚愕の表情でアスカの体を見つめていた。

「・・・・・卑劣・・・・・」

「な、なにが?」

レイは口を尖らせ言う。

「・・・・・いつの間にそんなに大きくしたの、胸。そのウエストの細さは卑 怯だわ。おまけにお尻のふくよかさはなんなの?元が綺麗な上に、まだ綺麗にな るなんて、卑劣よ・・・・・・・」

呆れ顔でアスカは言い返した。

「何、寝ぼけた事言ってんの。確かに還ってきてから成長著しいわよ。ええ、 そうですとも。ずいぶん女らしい体になりました。でもねえ、あんただってかな りの反則じゃなの、その発育の良さは・・・・・・立ってみ。」

アスカに言われて、立ち上がるレイ。

「こっち来て。」

二人並んで、なぜかある浴室用の姿見の前に立った。

「あんたの方が腰回りが細いわね。胸なんか同じくらいじゃないの。」

「・・・・あれま・・・・・」

「あれまじゃないわよ、ホント・・・・・」

「・・・・・でも、胸の重量感はあなたの方があるわ・・・・・」

レイはアスカの胸を両手で持ち上げる。

ボヨンボヨン

「遊ぶなっっっ・・・」

アスカも負けずに、レイのを持ち上げる。

フワンフワン

「・・・んっっっ・・・・・」

レイはちょっと顔をしかめる。

(げっ、なんなのこの柔らかさ、それでいてこの存在感、このなめらかさ、指 に吸い付いてくるみたい・・・・おまけに、ちょっと揉んだだけでこの感じやす さ・・・・・)

ちょっとした危機感に捕らわれるアスカ。

(こんな調子でシンジに迫られたら、あいつの事だからつい魔が差して・・・ なんて事になりかねない・・・・・まずい・・・・)

レイはレイで、同じような事を思っているのであった。

(・・・・・この艶、瑞々しい張り、重すぎない適度な重量感、ちょっと触っ ただけで硬くなる乳首・・・・・この人がいつもの調子で迫ったら・・・・碇く んは到底逃げる事など出来ないだろう・・・・・まずい・・・・・)

性格は正反対ながら、思考は同じ方向を向いている二人は、以後おとなしく湯 船に浸かるのであった。





翌日から、レイとアスカのユニゾン特訓が始まった。

起床。シンジに叩き起こされる。

洗顔、歯磨き。シンジの監視のもと、同じ動作と同じ動き。

着替え。両名ともシンジの監視を強く希望するが、シンジは食事の支度のため 退席。

朝食。同じメニュー(肉の場合はレイのみ豆腐加工品)を同じように食べる。

登校。シンジ監視のもと、行く予定だったが中止。

訓練。音楽に合わせてダンス。発案者の加持とミサトが人目も憚らずイチャイ チャするのではかどらず。

シャワー。同じブースに入って、同じ洗い方をする。ここでもシンジの同席を 両名強く希望するが、シンジそそくさと退席。

休憩。カーペット敷きの休憩室に横になる。同じ向き、同じ格好。

こんな具合で、訓練は続いた。




そして・・・・・

「使徒さんがいらっしゃいましたあっっっっっ」

オペレータ、日向マコトが声高らかに宣言する。

「前回と同様に地点に、前回と同様の時刻に襲来予定。」

「オッケー。エヴァンゲリオン零号機、弐号機準備はいい?」

ミサトはビール片手に指揮を取る。

「ミサトさん・・・いくら父さんや副司令がいないからって、作戦指揮中にビ ールはまずいんじゃないんですか・?」

シンジは一応注意してみる。

「ああ、これ?これビールじゃないのよ。リツコ特製あたし専用マイクなの。 」

そう答えるミサトの手の缶をジッと見るシンジ。

「ホントだ・・・・」

(でも、これでビール飲んでても分からないな・・・・・)

正面モニターにアスカが映し出された。

「あたしたちを出撃させといて、ミサトはビール?いい気なもんねえ・・・・ 」

「なに言ってるのよお〜、特製マイクだってば・・・シンちゃんも確認したわ よ〜」

「ホント〜?シンジ・・・」

「うん。今、確認したよ。間違いなくマイクだよ。・・・・・今はね。」

ピーンときたのかアスカは呟く。

「は〜ん・・・・今はね・・・なるほど・・・・・」

「もう、いいから出撃よっ・・・零号機、弐号機リフト・オフ!!」

あまり突っ込まれるとまずいのか、ミサトはやや強引にリフト・オフさせ、エ ヴァ二機を放り出した。

「ちゃっちゃか、やっちゃってくださ〜い・・・」

怪人ミサトは、今日も脳天気だった。




だが、出撃した二人を待っていたのはリツコの変な命令だった。

「二人でちょっと使徒くんを押さえつけておいてね。」

「攻撃じゃないの?」

アスカは通信で聞き返した。

「まだね。あたしの号令でタイミング合わせて押さえて欲しいの。ちょっと試 してみたい新兵器があるから・・・・・・」

「・・・あたしたちに被害は及ばないんでしょうねえ・・・・」

アスカの心配はもっともであった。

「や、や〜ねえ〜・・・・そんなのあたしが作るはずないでしょう・・・・・ ・」

「・・・・・・大丈夫なんですか?・・・・・・」

レイの余程心配になったのだろう、口を挟んできた。

「レイまでそんな事を・・・・・・心配いらないって、仕上げはマヤがやった んだから・・・・・赤木スペシャル、チューンド・バイ・伊吹だから大丈夫。」

リツコは自分の信用の下落を肌で感じながら、必死に言いくるめようとする。

「ふ〜ん・・・・まあ、マヤの仕上げならいいか・・・・」

「・・・・・・今回だけ・・・・・」

しぶしぶ納得した二人の気が変わらないうちにとばかりに、リツコは攻撃のカ ウント・ダウンを開始する。

「じゃあ、行くわよ。5、4、3、2、1、ゴー!!!!」

二機のエヴァンゲリオンはピッタリのダッシュを見せて使徒の両脇に移動する 。

意表を付かれた使徒が戸惑っているうちに、使徒の腕を抱えて固定する二機の エヴァ。

その時既に、新兵器のターゲットは使徒のコアにロック・オンが完了していた 。

使徒の両腕を抱えた時には、危険な新兵器は発射されコアを直撃する。

大爆発。

空には十字架状の光が立ちのぼり、使徒殲滅を知らせている。




「やったあっっっ・・・・」

ミサトがガッツ・ポーズを作っている。

「やったはいいけど、綾波とアスカはど〜なったんですかね・・・・・」

シンジは心配する。

オペレータの日向マコトが、確認する。

「エヴァ二機確認しました。パイロットの生命反応は正常。機体の破損も軽い ものです。」

青葉シゲルがキーボードを操作して映像を出す。

「映像回復します。右零号機、左弐号機です。」

零号機は山の中腹に、ちょうどジャーマン・スープレックスをくらったように 、丸まっていた。

弐号機は、湖の真ん中で頭から湖面に突き刺さり、足だけが湖面からその姿を 見せている。

イメージは、犬神家の一族。

「変な所は歴史通りですよねえ・・・・・」

シンジは腕を組んで、映像を見ている。

「怪しい新兵器なんて聞いてませんよ。」

「そういや、そうねえ。リツコったらば、またやらかした訳ね・・・・・」

殲滅の喜びもつかの間、ミサトは愛すべき同級生の性癖に困り果てる。



「いやあ〜、使徒の爆発考えてなかったわ・・・・ははは・・・・」

マヤと顔を見合わせながら、リツコは笑う。汗を一筋たらしながら・・・・・





綾波レイは思う。

(・・・・・新兵器、おっけーなら・・・・・わたしだって・・・・・)

(・・・・そしたら・・・碇くんは驚いてわたしによろりら・・・・)

(・・・・なにより、アスカの悔しがる顔が目に浮かぶ・・・・・うふ・・・ ・)

ジャーマンくらったまま、再起動も出来ず救助を待つレイはそんな事を考えて いた。




惣流・アスカ・ラングレーは思う。

(いったい、あのユニゾン特訓はなんだったの?ファーストと一緒に暮らした 挙げ句に、結果はリツコの新兵器?いい加減にして欲しいわよ。)

(大体、いつまでこんな格好させとくつもりなの?シンジだって笑っちゃうわ 。)

(そんなに新兵器が好きなら、あたしだって・・・・・リツコ製は危ないから 、マヤにでも作らせるか・・・・・それで、鮮やかに使徒を殲滅する・・・・シ ンジのハートはあたしによろりら・・・・・・いいじゃないの〜・・・それでい こ・・・)

リツコに作らせる事を回避するあたりは、成長の跡が窺える。

アスカは、犬神状態で救助を待っていた。






そして・・・・・・

リツコとマヤは、ミサトによってこんこんとお説教をされて、うなだれている 。

リツコがミサトにお説教されるなんぞは、以前の世界では考えられなかった事 である。

マヤは俯いて、シュンとした顔でいたが、リツコは同じ様に俯いていたけれど 、腹の中では次の新兵器を考えるのに懸命であった。

そもそも、リツコがミサトの言う事なんぞは聞いちゃいない。

「・・・・って言うことよ。わかったわね、リツコ、マヤ。」

前世界でも例のない、ミサトによるリツコへのお説教というイベントが終了し た。



で、チルドレンたちはというと・・・・・

ジャーマン&犬神状態から救出されてから、珍しく三人バラバラに行動してい た。

綾波レイは、トレーニング・ルームで体を動かしている。

青磁器のような白い体を包むは、ブルーのレオタード。

戻ってきてから、異常なほど発育の良くなった体を申し訳程度に包んでいる。

ゆっくり、槍投げのようなフォームを繰り返している。

次は、手を広げて前に出し、刀で斬りつけるような動作を繰り返し始める。

眼は瞑ったままだ。

なにやら、イメージ・トレーニングのようである。

「・・・・・こんな感じかな・・・・・」

何を考えているのやら、ニヤリとゲンドウ並の薄ら笑いを浮かべたかと思った ら、今度は頬を紅くして恍惚とした微笑みにそれを変える。

「・・・・・うふ・・・うふ・・・・うふ・・・・・」

戻ってきても、謎の多い美少女であることには変わりないらしい。



さて、こちらは碇シンジ。

彼は何をしているか?

買い物だった。

ユニゾン特訓終了とともに、チルドレン三人+一人は自宅に帰宅することにな った。

帰宅するだけなら誰でも出来る。

彼の仕事は、他の三人とは違い帰宅するだけで済まないのは、もはや「定説」 。

「最高ですかあ〜」と問われれば「最低で〜す」と答えたくなるような家庭の 状況でも、イソイソ家事をこなすあたりは碇シンジたる所以なのでありましょう か。

おそらく、帰宅してすぐにしなければならないのは、食事の支度であろう。

彼の最も得意とする分野であり、現在半同居をする連中とは一線を画す実力を 持っている。

結局、好きなのだろう、料理が。

手早く必要は品物を、駕籠に放り込んでいくシンジ。

その表情は、イヤがってはいなかった。




惣流・アスカ・ラングレーは、MAGIに繋がる端末のある部屋にいた。

ここは、どこか?

いわゆる、図書室。

彼女は、古今東西の武器についてのデータを閲覧していた。

「ほう・・・これは、なかなか・・・・・ふむ・・・」

なにやら、メガネの軍事マニアの友人を彷彿とさせる唸り具合である。

ちなみに、彼らチルドレンも学校へはたまに顔を出している。

逆行物の御都合主義ではあるが、なにせ全員戻って来ている設定の逆行物。

転校初日から、名乗りを挙げる前から「あら、アスカおはよう。」てなもんで 、一般市民はこの作者を苦悩の底に追いやる設定に於いても、全く動じる様子も 見せない。

それはさておき、アスカはマヤに弐号機専用新兵器を製作させるべく、ネタを 漁っているのであった。

果たして、アスカの新兵器は間に合うのか?

間に合ったとしても、それが使えるのか?

次の使徒戦は、溶岩ダイブのD型装備である事を、アスカはすっかり忘れてい た。






夜の葛城邸。

テーブルの上には、おそらくかなり豪華であろうと思われる料理の残滓が残る 食器類が散乱していた。

それは、久しぶりにゆっくり時間を取って製作された、夕食の跡。

製作者シンジは、一人でちょっと大変ではあったが、ある意味邪魔されずに作 れたので満足していた。

「やっぱり、シンちゃんの料理はいいわねえ〜」

家のご主人は、御機嫌な様子でビールを鷲掴みにして飲んでいる。

「もう、好みなんか知り尽くしてますからね、ぼくは。」

シンジは、なにを今更といった風情で言葉を返す。

「・・・・・なにを食べてもおいしい・・・・・」

レイも、ミサトに同意している。

「間違いなく上達してるわよ、あんたわ・・・」

アスカもモゴモゴしながら、シンジの腕前を褒めている。

「そ、そう?えへへ・・・嬉しいね、やっぱり。」

根は単純なのだろう。

その時、ミサトが思い出したように呟いた。

「ああ、そう言えば・・・・もうすぐ、あんたたちの学校修学旅行だったわ・ ・・・・」

三人のチルドレンの視線がミサトに集中する。

「「「修学旅行」」」

そして、顔を見合わせる三人。

「・・・・今回は、ど〜するんです?ミサトさん。」

シンジが代表して聞いた。

「行ってきたらいいじゃないの。沖縄でしょ、あそこにゃ国連軍の(旧米軍) 駐屯地もあるし、旧型のF-15イーグルでも飛ばしてもらえばすぐ帰ってこれるか らね。」

ミサトは事も無げに言った。

「・・・・いいんですか?行っちゃって・・・・・」

レイがテーブルに両手を付いて、ミサトに迫る。

一番本気で行きたいのはレイのようであった。

「いっ、いいわよ・・・・なによ、レイ。そんなに行きたかったの?」

「・・・はい・・・」

恥ずかしそうに、俯きながら答えるレイ。

「それにほら、次のオペレーションはさ、溶岩潜りのオペレーションじゃない 。ヘリでも間に合うし、最悪アスカだけでも戻せばいいわけだからね。」

手をヒラヒラさせながらミサトが言うと、アスカが当然の如く食ってかかって きた。

「なんであたしだけなのよっ。D型装備ぐらいこいつらの分も用意できたでし ょうが。」

「いやね、リツコの奴ってば新兵器に没頭しててさ、正式装備の開発なんにも してなかったらしいのよね。んで、覚えていたのが弐号機用のD型装備だった訳 よ。零号機と初号機用も作って作れない事はなかったらしいんだけど、予算がオ ーバーしたらしくて司令からストップがかかったみたいなんだわ、これが。」

「信じらんない・・・・・マッドここに極まる・・・・・」

愕然と呟くアスカに、ミサトは慰めの言葉を一発。

「まあ、まあ。基本的に今回のオペレーションはあたしたちだけでやるからさ 。アスカも一緒に行ってきてもいいのよ。」

「・・・ホント?・・・・」

「ホント、ホント。予算削ってまで作った新兵器も投入するんだからね、今回 の結果が駄目なら、今までのリツコの新兵器の実績が消える上に降格もあり得る から、あいつも必死になってるわ。」

「よかったあ〜〜〜〜」

アスカは深く、息を付いた。

「・・・・・そうなれば、明日は買い物・・・・・・」

レイがいつの間にやら立ち上がって燃えていた。

「・・・碇くんに、わたしの成長した体を見せつけて・・・・悩殺するの・・ ・・・」

本人目の前にして言うセリフではないが・・・・・

「何をたわけた事を・・・・シンジを悩殺するのはこのあたしなのよっっ。あ んたの出る幕は無いわ。」

立ち直ったアスカも、事シンジについては譲らず参戦する。

「んじゃ、あたしも・・・・・・」

その声にふと振り向いた三人の前には、タンクトップをグイッとたくし上げて 巨大なメロンみたいなおっぱいを揺らすミサトの姿があった。

呆れ果てる美少女二人。

肝心のシンジは鼻を押さえて、よろりらと洗面所に避難する所であった。






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