レイ・リターン

製作 越後屋雷蔵
プロト・タイプ30


「・・・・・・うっ・・・・ううっ・・・・・くすん・・・・・くすん・・・・・・・・」

わたしは泣いていたの。

だって、あんまりにも可哀想で、健気で、かわいくて・・・・・・・・

「・・・・・・・わたしって、なんて健気なんでしょう・・・・・・・」

言い回しが変なのは仕方がないの。

だって、わたしのお話なんだから・・・・・・・

それにしても、碇くんに恐怖の表情で見られた時のわたしの心情を思うと、我ながら胸がキュッと締め付けられる思いがするわ。

わたしだったら、今頃気が狂ってしまっているかもしれない。

その後の碇くんの復活は・・・・・・素敵。

見事に立ち直ってわたしを迎えに来てくれた。

嗚呼、ワクワクしながら読んでいたのに、続きはまだ発表されていない。

・・・・・・・読みたいの・・・・・・・・

・・・・・・・すっごく、読みたいの・・・・・・・・・

・・・・・ふう、我慢して待ってます・・・・・・・「FLY TO THE MOON」・・・・・・・・・

そして、わたしは次の作品に取りかかるべく、ノート端末を操作するの・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 

「う〜む・・・・・・そうかあ・・・・・・ぼくはこんな事を思っていたのかあ・・・・・・・」

ぼくは、自分がどんな事を考えているのか客観的に見ていた。

客観的にもなるよね。

いくら自分だって言っても、マンガなんだし・・・・・・・

でも、なんだかぼくって苦悩する主人公って感じで、いいねえ・・・・・・・

アスカの感じが随分違うね。

かわいいはかわいいんだけど、綾波の方が・・・・・・・ぼくは好きだなあ・・・・・

三巻終わり付近の、あの笑顔・・・・・・・・

かわいすぎる・・・・・・

実物が側にいるから、いいんだけどね。

本物並にかわいいんだもん。まいっちゃうね。
 
 
 
 
 
 
 

彼ら二人は、おのおのが部屋でお互いが見つけてきたコミックやファン・フィクションを読み耽っていた。

月の光の下、一層仲良しになった二人はその夜おとなしく部屋に戻っていた。

家主はいまだに帰ってきてはいない。

ゆっくり、穏やかに夜は更けていったのだった。
 
 
 
 
 
 
 

その翌日。

四人のチルドレンたちが学校から帰ってくると、ミサトが玄関中央の廊下で力尽きて寝ている姿で発見されたのだった。

「ミサトさん。なんでこんなとこで寝てるんですか?起きてくださいよ、パンツ見えてますよ。」

彼女の通常はミニ・スカートである。

右足を膝蹴りをしているようなポーズで寝ているものだから、見事にスカートは捲り上がって肉付きの良いお尻に貼り付いたパンティがご開帳になっている。

だが、普通ならお色気満点のミサトのポーズも、今のシンジには通用していない様子である。

レイに首っ丈状態が続いているシンジに、ミサトの豪快な色気が通用するはずもないのは道理であるが・・・・・・・

「みんな手伝って。リビングにでも移さないと邪魔でしょうがないや。」

シンジに促されて、四人で手足を掴みえっちらおっちらリビングに移動させる。

「困った人だね・・・・・・僕には理解しきれないよ・・・・・」

呆れてカヲルは呟く。

「これでホントにちゃんと仕事してるならいいんだけど・・・・・・ミサトの場合は怪しいもんね。」

アスカが答えてそう言った。

やはり、ミサトのお仕事に対する認識はこんなもんであった。

酔っぱらった牛をリビングに放り出したまま、四人はお茶なぞを啜りながら談笑していた。

そうこうしているうちに、ようやくミサトが目を覚ましてきた。

「ん〜・・・・・あ〜・・・・・あんたたち来てたの?いやあ、仕事が忙しいときついわねえ・・・・・・」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

もはや、何も言わない四人組であった。

「ああ、そうそう。あんたたち知ってる?ネルフに内密でエヴァのアニメ映画製作していた会社があったのよ。GAINAXっていうんだけどさ・・・・・・」

「GAINAXって言えば、コミックの原作じゃなかったんでしたっけ?」

「そうそう、なんとビデオで裏流通させているにもかかわらず、劇場版と銘打って販売してたのよ。」

「う、裏流通?」

「アダルト・ビデオの裏モノと同じルートらしいけどね。」

「あ、あの〜、もしかして・・・・・・ぼくらがアダルトな事をするビデオなんですか?」

さすがにシンジは心配になった。

「いんにゃ、そうじゃないけど、結構ダークな気分になる内容みたいよ。・・・・・・見てみる?今あるわよ。」

ニヤリと笑ったミサトの手には、いつの間にか一本のビデオテープが・・・・・・・

「ビデオは三部構成になってるらしいわ。ほら、テレビで放映したでしょ、エヴァでパイロットの名前を変えて作ったやつ。あれの総集編が第一部みたいでね。その続きが劇場版っていうらしいわ。」

いつの間にやらデッキの前に移動していたミサトは、テープをデッキに挿入したのだった。

映倫のマークが回転して、上に消えていく・・・・・・・

上映会の開始であった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

上映会の終了は、唐突に訪れた。

丁度、場面は巨大化するレイが顔を上げて黒い目玉でシンジを見るシーン。

画面の中のレイが顔を上げたその時、
 

「いやあああああああああっっっっっっっっっっ・・・・・・・・」

絶叫と共に、レイが暴れ出したのであった。

頭を抱えて、身体を丸めブルブル震えるレイ。

「レ、レイ・・・・」

驚いたミサトがレイの肩に手を掛けたが、叫びと共に振り払われますます暴れ出すのであった。

「いや・・・・いや・・・・助けて・・・・・・もう、いやなの・・・・・・わたしは・・・・・わたしは・・・・・・人間なの・・・・助けて・・・・碇くん・・・・・・」

ほとんど聞き取れないくらいの呟きを洩らし続けるレイ。

一時の驚きから回復したのか、シンジがレイの肩をつかんで叫ぶ。

「綾波っ。どうしたんだよ、綾波・・・・・・」

シンジは認識するらしく、レイは涙を零しながら怯えた眼をシンジに向ける。

「・・・・・・い、碇くん・・・・・・」

ガバッとシンジに抱きつき、激しく泣きじゃくるレイ。

「綾波、大丈夫だよ。ぼくはここにいるよ。綾波の側を離れたりはしないから、落ち着いて・・・・ね。」

レイの頭を優しく抱えながら、語りかけるシンジ。

ミサトは携帯でリツコに連絡を取り、入院の準備を進めさせる。

「・・・・・あの、映画・・・・・恐いの・・・・・・」

レイはそう言って、気を失った。

シンジはそんなレイの言葉を聞いて、柄にもなく額に血管を浮き出させている。

「シンジくん。急いでネルフに運ぼう。」

「シンジ、ボヤボヤしてないでレイを抱えて。ほら、早く・・・・・・」

カヲルとアスカに促されたシンジは、レイの身体を抱いて外に出る。

ミサトは連絡を入れると同時に部屋を飛び出して、愛車のウオームアップに取りかかっている。

エレベータで下に降り、ルノーに乗り込んだ五人は凄まじい勢いでネルフに向かったのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 

「・・・・・許さない・・・・・・・」

シンジはケージに向かって走っていた。

レイをいつもの病室に収容するのを見届けると、彼はダッシュでケージに向かったのだった。

「シ、シンジくん、どこ行くのっっっ?」

ミサトは振り向きながら叫ぶが、シンジに耳にはその叫びは届かなかった。

「カヲルくん、アスカここお願い・・・・・」

そう言って、ミサトはシンジを追う。

「シンジの奴、何するつもりなんだろ・・・・・」

「さあね。でも、らしくないほど怒っていたのは間違いないね。」

アスカはレイに毛布を掛けながら、言った。

「あのビデオ・・・・・レイも悲惨だけど、あたしも悲惨よね。」

「僕だって負けていないと思うけど・・・・・首ちょんぱだよ、初号機で。」

「まあね・・・・・・・」

カヲルは想う。

(こんな形で、あの時の記憶が出てくるなんて・・・・・・大元からの干渉は避けられないのか?)
 
 
 
 
 
 
 
 
 

初号機が拘束されているケージ。

突然、初号機のシステムが起動。エントリー・プラグが挿入される。

拘束具を引きちぎって、入り口の方向に眼をやる初号機。

まるで、パイロットの到着を待っているが如くの動作だった。

読者はもうご存じのはずである。

初号機のコアには、シンジの母である碇ユイの魂が込められているのを。

以心伝心と言おうか、シンジの怒りがそのまま初号機に伝わったかのようなタイミングであった。

ケージ入り口に血相変えたシンジが到着する。

初号機はシンジが搭乗しやすいようにブリッジに頭を寄せてシンジを待った。

そんな初号機を見たシンジが呟いた。

「初号機・・・・・・分かってくれるんだね・・・・」

額に青筋を浮き出させたまま、シンジはエントリー・プラグに乗り込んだのだった。
 
 
 
 
 
 
 

「電源カットしてっ・・・・」

「駄目ですっ。こちらの操作はまったく受け付けません。電源はS2機関が稼働している模様です。」

司令所に来たミサトは頭を抱えた。

「ぐわ〜・・ど〜する・・・・・そうだ、アスカを呼んで。弐号機の準備はどうなってるの?」

「弐号機スタンバイ完了しています。」

「アスカが乗ったら、速攻で出してっ・・・」

ミサトはマヤに指示すると、マイクで初号機に通信を入れた。

「シンジくん。何するつもりなの?」

初号機からシンジの怒りを押し殺したような声が返ってくる。

「潰す・・・・・」

「へ?」

「潰す・・・・GAINAXを潰す・・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・そりゃ、まずくないかなあ・・・・・」

「潰す・・・・・んでもって、庵野殺す・・・・・」

「おい、おい・・・・」

「綾波をあんなに苦しめたGAINAXと庵野を、ぼくは許さない・・・・・・」

「シンちゃん、落ち着けってば・・・・・原作だぞ、あいつら・・・・・」

「いい・・・・・綾波を苦しめるのは許さない・・・・・・」

初号機がカタパルトから地上に射出された。

「うわ・・・・・アスカはまだ?」

その時、弐号機から通信が入った。

「聞いてたわよ・・・・・まったく、おとなしい奴が頭に血が上ると手に負えない典型的な例だわね。」

「聞いてたんなら話は早いわ。アスカ頼むよ〜初号機止めて〜」

「はいはい・・・・」

泣きの入ったミサトに気のない返事を返したアスカと弐号機は、シンジと初号機を追って地上に出ていった。

「民間企業はまずいよ〜・・・」

その時

「かまわん・・・・・社屋ビルくらいなら潰させてやれ。」

ゲンドウの声が司令所に響く。

「司令・・・・・」

「庵野はあそこにはいない・・・・・ビルくらいでシンジの気が済むならかまわん。」

ゲンドウはメガネを押し上げながら続けた。

「本来ならわたしがやりたいくらいだ・・・・・わたしはあそこまで極悪非道ではない・・・・・・」

(司令も見たのね・・・・・・)

ミサトは心中で呟き、アスカに指示を出す。

正面モニターでは、ビルに襲いかかろうとする初号機を後ろから羽交い締めにする弐号機の姿が映し出されていた。

まるで、忠臣蔵松の廊下の場面のようだった。

「あ〜・・・・アスカ。あのねえ、ビルくらいなら壊していいってさ。シンちゃんも聞こえる?やっちゃっていいって司令の許可が出たわよ。」

「許可が出たあ?・・・・・ふ〜ん、じゃああたしも参加していい訳ね。」

「なによ。あんたまで根に持ってるの?」

「当たり前じゃないの。あんな扱いされて怒らない奴いないわよ。シンジ、聞いてる?やっちゃうからね、遅れないできなさいよ。」

「父さんも分かってくれたんだね。そうだよね、誰だって怒るよね。」

そうして、GAINAX本社前に到着した二体のエヴァは、声を揃えて攻撃を開始したのだった。
 

「「おりゃああああああっっっっっっっ」」

 

 
 
 
 
 
 

その頃、レイの病室では・・・・・・

「ん・・・・・あ、わたし・・・・・」

「気が付いたかい?」

「・・・・・・わたし、どうして?・・・・・」

カヲルは録音を警戒してか、テレパシーで会話を始めた。

(前の世界の記憶があんな形で出てくるなんて、ちょっと意外だったね)

(・・・・・恐かった・・・・・)

(あれを怖がるのは、人間としての感情を完全に手に入れた証拠なんだろうね。むしろ喜ぶべき事かもしれないよ)

(・・・・・そう・・・ね・・・・碇くんは?・・・・)

(シンジくんは怒っちゃって庵野殺すって、初号機で出ていったよ。)

(・・・・・だ、大胆な事を・・・・・)

(まあ、出演者全員の意見を代弁しているようなものだけどね。)

(・・・・そうなの?・・・・)

(そうさ。あんな身も蓋もない結末じゃあ、誰だって怒るってもんさ。)

「心配はいらないよ。シンジくんたちが戻るまでゆっくり休むといい。」

「・・・・ありがと・・・・・」

そうして、レイは再び眠りについたのであった。
 
 
 
 
 
 

その後、初号機と弐号機によるGAINAX破壊は徹底を極め、ビルのあった場所は完全な更地と変わって売りに出された。

GAINAXはネルフの厳重な監視下に置かれ、彼らは今後うっかりしたモノは作れなくなったのであった。

ちなみに、庵野秀明氏の消息は依然として不明のままである。
 
 
 



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