レイ・リターン

製作 越後屋雷蔵

プロト・タイプ27


ネルフ本部の宿泊施設。

アスカにあてがわれた部屋。

アスカはここに来る途中に考えていた。

(何かおかしい・・・)

まず、シンジのレイに対する態度が違う。

いつものシンジとはまるで別物。

映画やドラマのシーンの様に、誰かに見せつける感じだった。

(見せつける?誰に?・・・・あたし?・・・)

アスカには、彼らのイチャイチャを見せられる理由が思い浮かばない。

(大体、なんで今更そんなもんあたしに見せる?・・・・・わからん・・・・ )

脳裏に浮かぶレイのトロトロにとろけた、それでいて幸福の絶頂のような顔。

(あ〜ゆ〜風にはなりたかないけど、幸福にドップリ浸かるってのも悪くない わねえ・・・・あたしは・・・カヲルと?・・・・むひひひ・・・)

ゆっくりと、蟻地獄のように、自分の足が砂の中に埋まり始めているアスカだ った。

部屋のベッドに座って、カヲルの事に思いを馳せる。

初めてしてくれた、優しいキス。

その後、思いっきりぶちのめしてあげたっけ・・・・・

街に買い物に出て、すれすれに通り過ぎた車から手を引いてかばってくれた時 もあった。

その後、蹴り入れて川に叩き込んであげたっけ・・・・・

シンジとレイの件で、クラスに大々的に発表しようなんて言い出した時もあっ た。

その後、学校の屋上のポールから逆さ吊りに吊してあげたっけ・・・・・

アスカは腕を組んで考え始めた。

(う〜む・・・・・もしかして、あたしあいつに良いことなんにもしてないの ?)

思い出せば出すほど、ぶちのめすだの叩き込むだのそんなのばっかりだった。

「・・・・少しは・・・優しくしてやっても、いいかな・・・・」

アスカは頬をポッと赤らめながら呟く。

部屋の中には、「イブキ・ビューティー・スペシャル・レディー・キラー」と 銘打たれた媚薬系コロンパート2の香りが漂っていた。




「何か考えこんでいますよ、アスカ。」

マヤがモニターを見ながら、リツコとミサトに言った。

「シンジくんとレイの動きが、あんまり怪しいからでしょ。」

「すぐに効果は出ないだろうからね。マヤ、コロンは?」

ミサトがマヤに聞いた。媚薬系コロンはマヤの発案だ。

「はい。効果が少し強い「レディー・キラー」を使いました。」

リツコは愛弟子の顔を見ながら、しみじみ呟く。

「マヤも成長したのねえ。調香による薬物効果なんてあたしは思い付かなかっ たもの。」

マヤは照れながら笑っている。

「で、ビューティー・スペシャルはあとどれくらいバージョンがあるの?」

「はい、司令所で使ったスタンダードから始まって、今使ってる「レディー・ キラー」、「マダム・キラー」、「メンス・アゲイン」と続いて、「デスウーマ ン・カムバック」が女性用最強ですね。」

マヤが答えて振り向くと、そこには大真面目な顔をしたミサトとリツコの顔が 並んでいた。

「「女性用って言ったわね」」

「は、はい・・・・」

マヤびびる。

「男性用もあるのね。」

リツコが問いつめ、ミサトが迫る。

「早く出せ。」

もはや、強盗であった。

「ミサト、ちょっと落ち着きなさい。男性用ってのは、どうなの?マヤ。」

「ど、どうって言われても・・・・男性用はデータが少なかったから、三種類 しか無いんです。スタンダードは無くて、「ジェントルマン・キラー」、「オー ルドマン・キラー」、「デッドマン・バスター」なんですけど・・・・」

顔を引きつらせながらマヤが答える。

「あ、で、でも、効果は全然分かりませんよ。だって、テストのしようがない んですから・・・・・」

リツコは体を起こして、腰に手を当ててマヤを見下ろし言う。

「でも、データを元に製作したんでしょう・・・・・少ないデータでも。なら 、いいわ。わたしがチェックしてあげるから、持って来て。三種類みんなね。」

リツコの眼光が異様な光を帯びていた。

その背後でミサトが、今にも獲物に飛び掛からんばかりに身構える猛獣のよう な気迫を漲らせている。

「わ、わかりました・・・・明日、持ってきます・・・・」

マヤは今更ながらに、とんでもない上司を持った事を悔やむが、後のカーニバ ル。

彼女は呪文を心の中で呟くのだった。

(逆らっちゃいけない、逆らっちゃいけない、逆らっちゃいけない、逆らっち ゃいけない・・・・・・・・)





再びアスカの部屋。

アスカはベッドに寝転がって、考える。

(どうやって優しくすればいいのか・・・・・)

思い起こせば、自分で記憶している限りでは、人に優しくしようと思って優し くなんかした事がないアスカであった。

もちろん、その気が無くても結果的に優しくしたという事はあるが、アスカに は優しくしたなんて認識はこれっぽっちも無い。

(とりあえず、殴ったり蹴ったりするのを自粛してみようか・・・・・んでも って、レイみたいに音も立てずに背後に忍び寄ったり甘えた顔でペッタリ身体を 擦り寄せたりしてみようか・・・・)

自分がカヲルにそんな事をしている情景を、思い浮かべてみる。

・・・・・・・・・・

一瞬だった。

健康的な顔色に戻ったアスカの顔が、まさに一瞬の内に燃え上がる炎のような 赤に変わった。

コロリ・・・・

アスカは身体を丸めて、左に転がる。

しばし後。

コロリ・・・・

今度は右に転がる。

「・・・・なんか、レイってば凄く恥ずかしい事臆面もなくやってる気がする ・・・・」

アスカは真っ赤な顔で呟いた。





「なんか、まどろっこしいわね。」

リツコはモニターを見ながら言う。

「そうねえ、いっそのこと「ゾンビ・カムバック」っての投入しちゃったらい いんじゃないの。」

ミサトはあくまでも無責任である。

「いえ、「デスウーマン・カムバック」なんですけど・・・・」

マヤは恐る恐る言った。

「なんでもいいけど、最強バージョンもセットしてあるんでしょう。」

「はあ、まあ、一応・・・・」

「だったら、すぐ噴射して。構わないわ。」

もはや、薄ら笑いを浮かべてマッド・サイエンティストの顔になっているリツ コ。

もう、こうなると反論は許されない。

下手すると、自分が被験者にされる恐れがかなり大きい。

(逆らっちゃいけないX5・・・・・ごめんね、アスカ・・・・)

我が身かわいさにアスカを犠牲にするマヤ。

だが、誰も彼女を責められまい。

「ほれ、ほれ、マヤ。早く、早く・・・・」

無責任一代女、ミサトがけしかける。

マヤの指が、一連のキー操作の後、一瞬止まる。

トン・・・・・・

enterキーが押され、アスカが転がる部屋に噴射された。





シュッ・・・・・・

アスカの耳に、何かを噴射するような音が入った。

いつもならば、勘が働き危険を察知するのであるが、今は妄想の真っ直中。

甘く危険な香りが、部屋の中に充満するのに時間はさほど掛からなかった。

ベッドの上でコロコロ転がるアスカを包む、香り。

「・・・んっ・・・いい匂い・・・・」

うっとりした表情を浮かべるアスカ。

と、その時・・・・・

アスカの身体がビクッと跳ね上がる。

「うあっっ・・・・・」

ガバッと起きあがって、自分の胸を不思議そうな顔つきで見つめている。

そのままの顔つきで、そっと胸に手を当てる。

「ひゃあっ・・・あうん・・・・」

奇妙な呻き声を上げながら、ベッドに俯せになるアスカ。

それもつかの間、

「や、やだあ・・・・ああん・・・・」

ベッドの上で転がる。

そして、いきなり着ている服をむしり取るように脱ぎだしていく。

ブラジャーを外した拍子に、ピンク色の綺麗な乳首をピーンと張った紐が弾い た。

「ぐっ・・・・・・」

アスカは白目を剥いて仰向けに倒れ込んでしまった。

華奢なようで肉付きのいい腰が、別の生き物の様にかくかく振られている。

アスカの乳首は硬く尖って、下の下着はじっとりと濡れてきていた。

「うっ・・・・うっ・・・・・」

苦しそうだが、妙に色っぽい声で呻きながらアスカの手はゆっくり下着の濡れ た部分へと蠢いていく。

そこに触れたとたん・・・・

「ああっっっ〜〜〜〜・・・・・」

激しく腰が振られる。

手はそこには既に触れていないが、顔を左右にイヤイヤするように振って、手 を虚空を彷徨わせる。

一瞬の後、カッと眼を見開いて両手をベッドに付いて歯を食いしばるアスカ。

ギリギリと歯がイヤな音を立てる。

「何、これ?」

身体をブルブル震わせながら、アスカは呟いた。

「なんで、こんなに・・・・急にこんなに感じるようになるなんて・・・・・ 」

彼女の表情は怒りと切なさが入り交じった複雑な表情をしていた。

ふと気づいて自分の下着に視線をやる。

「うあっ・・・こんなに濡れてる・・・・嘘・・・・ひとりでした時だってこ んなに濡れないのに・・・・・」

(おかしい・・・・おかしいけど、気持ちいい・・・・凄く・・気持ち良すぎ る・・・・気が遠くなりそう・・・・こ、これは・・リツコの仕業だわね・・・ )

快感に脳味噌掻き回されていても、一部では冷静な判断力を残すアスカだった 。

「・・・ちっくしょう・・・・」

部屋の扉を睨み付けながら、身体に力を入れて立ち上がろうとするアスカだっ たが、身体は既に快感の虜となっていた。

腰が抜けた状態で、己の意志とは別に痙攣するようにピクピク動いている。

腕にも力は入らなかった。

中途半端に力の入った状態で立ち上がろうとしたアスカは、バランスを崩して 床に倒れ込んだ。

冷たい床に乳首が触れる。

「いやあん・・・」

身体を貫く快感に、思わず身悶えるアスカ。

悶える度に敏感な部分がどこかに触れて、その都度またゴロゴロ転がりまた触 れて、またゴロゴロ・・・・・

(し、死ぬ・・・・死んじゃう・・・・・マジで死ぬ・・・・パンティ濡らし たまんま死にたくないよお・・・まだ、カヲルとしてないのに・・・・・)

アスカの意識が混濁し始める。

「か・・・カヲル・・・た、助け・・て・・・」

切実な呟きを残して、アスカの意識は深い闇へと沈んでいった。





モニターを食い入るように見つめる三人。

「こっ、こりゃあ・・・・」

「マヤ、凄いモノ作ったわねえ・・・・」

「あれで、これ程とは・・・・」

三人三様の反応を見せているが、最後のマヤの呟きをリツコは聞き逃さなかっ た。

「あれであれ程って、何?」

慌ててマヤは言い繕おうとする。

が、リツコの眼にある文字が宿っているのを、マヤははっきり見てしまってい た。

(次はおまえか〜)

「いえ、なんでもありません・・・・・」

「言いなさい。」

有無を言わさぬリツコの一言に、マヤはあっさり陥落する。

「実は、今噴射したのは最強バージョンじゃないんです。」

「最強じゃない?なのに、アスカはあのざまなの?」

「はい・・・・、最強のはまだテストしてなくて、ちょっとアスカに使うのは 危険かなって思ったんですけど・・・・・」

「一つ前のバージョンですら、こうなるの?」

「おそらく、人の体質なんかで効果に差が出るんだと思いますけど、アスカは きっと敏感で感じやすい体質なんでしょう。」

「効果はいつ頃まで有効なのかしら。」

「計算では3時間から6時間です。」

リツコはこめかみを押さえながら、

「3時間から6時間、快感が継続する訳?」

「はあ・・・・」

「地獄だわね・・・・」

リツコとマヤの会話をよそに、ミサトは自分がこれを使った時を想像して、自 然と口元が綻んでくるのを止めようがなかった。

涎が垂れそうになっている。

「へへへへへ、マヤ。最強バージョンあたしがテストしてもいいわよん。」

「あなたには、どんなドラッグでも効き目がないわ。」

リツコは身も蓋もない言い方をする。

「なによ〜、それ〜。失礼ね〜。なんであたしには効かないってのよ。」

「神経のある人間にしか効かないって事・・・・・」

「こいつう〜、神経がないっての?この繊細なあたしが・・・」

「神経はあるわよ。ただ、人間じゃないだけよ。」

「・・・・・・・」

怒りに身体を震わせるミサトをよそに、リツコは事後処理に着手し始めた。

「マヤ、こんなのは放っておいてアスカを病室に収容しましょう。」

「は、はい・・・・」

スタスタ出ていくリツコ。

その後ろ姿を、横目で睨みながらミサトは誓うのであった。

(機会があったら、必ず後ろから撃ってやる・・・・・・)





アスカが快楽地獄で、のたうっている頃。

発案者のレイは幸福の中で眠っていた。

毎度おなじみになった病室に、レイは眠りシンジは見ている。

(綾波って、ホントに感じやすいんだなあ・・・・・かわいい・・・・)

シンジは、幸福そうに微笑みながら眠るレイの顔を見つめながら思う。

(こんなに感じやすいんだと、あの時はどうなるんだろう・・・・・)

シンジの頭の中で、何をしようとしても身体を痙攣させて気絶するレイの姿が 思い浮かんでくる。

(そっ、それはそれでまた困るなあ・・・・)

そんな事を考えながら、シンジとレイの病室には穏やかな時間がゆっくりと流 れていくのであった。





その頃、渚カヲルはヘリコプターの機上の人であった。

(ふふふ・・・・何か嫌な予感がするよ・・・・)

嫌な予感なら、ふふふでもないだろうが、彼の予感は確かに当たっていた。

ヘリを降りて、発令所に赴いたカヲルはそこにいたオペレータたちに向かって 聞いたのだった。

「ただいま帰りました。何か変わった事はなかったですか?」

日向マコトが振り向きながら言う。

「お帰り、カヲルくん。そんな事いきなり聞くくらいなら、察しが付くんじゃ ないか?」

カヲルは発令所を見回す。

確かに、ちょっと違和感。

男しかいない。

「そうですか・・・・・また何かやったんですね。」

「うん。まあ、お決まりの病室へ行けばおおよその事は分かると思うよ。何を やったか俺たちは知らされていないからね。」

「仕方のない人たちですね・・・・・とにかく行ってみます。」

カヲルは駆け出していつもの病室を目指した。




いつもの病室、その1

そっと扉を少し開けて、中を伺う。

レイとシンジが穏やかな空気を醸し出している。

(ここはいつもと変わらないな・・・・じゃあ、あっちの病室?アスカちゃん なのか。今回の犠牲者は・・・・・)

カヲルは扉をそっと閉めて、いつもの病室その2に向かった。



いつもの病室、その2

中から声が聞こえる。

魔女軍団とアスカの声だった。

カヲルはおやっ思う。

アスカの声がなにやら弱々しいのだ。

(何をされたのか?・・・・・・・)

声がするから生きてはいるのだろう、とりあえず安心して扉を開けた。

「ただいま帰りました。」

ベッドに向かって歩いていくカヲルを、魔女軍団が引きつった顔で見ている。

ベッドには、全裸のアスカが横たわっていた。

アスカがカヲルに気が付いた。

眼を見開いて、急に身体を痙攣させ始める。

「ああっっ・・・カヲルっっ・・・・」

様子がおかしい。

切なそうな表情で、なにかを堪えているみたいだったが、やがて・・・・

「駄目えっ・・・駄目・・・・イヤっ・・・イヤ、あああっっっっっ・・・・ ・」

激しく痙攣したかと思ったら、グッタリ気絶してしまうアスカ。

呆然として、ただ見つめるしか術のないカヲルだったが、魔女軍団がコッソリ 病室から出ていこうとしているのに気が付いて、廊下で3人を捕らえた。

「どういう事です?」

いつも顔に張り付いている笑顔は今は無く、鋭い眼光が魔女3人を貫いていた 。



「まあ、かくかくしかじかで・・・・・」

粗方白状させられた魔女たちは、カヲルの前で正座していた。

「信じられない事考えますね・・・・」

呆れ果てるカヲル。

「「「ごめんなさい」」」

素直に頭を下げる3人にカヲルは言った。

「まあ、してしまったものは仕方ないですが・・・・少しは自粛してください ね。」

完全に匙を投げた格好だった。

「で、でもさあ、いくら感じやすくなってるって言ったって、カヲルくんの姿 を見ただけでイっちゃうなんて相当愛しているのよね。よかったわね〜カヲルく 〜ん。けけけ、そろそろさ、してあげたら?えっ、このこの・・・・」

ミサトの突っ込みにカヲルは、

「・・・な、何を・・言うんだ・・・・・」

本邦初公開、渚カヲルが赤面して俯く姿がそこにあった。





魔女3人のその後。

マヤは怪しいコロンの調合やら原材料やら、すべて取り上げられて一週間のト イレ掃除。

リツコは研究予算の一ヶ月凍結。

ミサトは一週間のビール禁止。

3人はレイの発案でシンジの関与を訴えたが、本心ではレイとシンジがかわい いゲンドウによって無視されたのは無理からぬ話であった。






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