レイ・リターン

製作 越後屋雷蔵

プロト・タイプ16


碇シンジが口を開いた。

「いったい、あの使徒はなんだったんだろうね。」

「さあね、妙に愛嬌のあるとこなんか、人間っぽくって変だったわ。使徒の形 をした人間って感じかな。」

アスカは困惑の表情を浮かべながら、シンジの言葉に答える。

「・・・案外、正解だったりして・・・」

レイはその乏しい表情の中に、やはり困惑の色を落としながら言った。

「まあ、結果的に僕らを助けてくれた訳だし、素直に感謝してもいいんじゃな いかな。余計な出撃もしなくてすんだしね。」

カヲルは相変わらず脳天気であった。

「カヲルはそう言うけどね、作戦部と技術部は大変よ。やっつけた使徒がまた 出てきただけじゃなくって、人間の味方までやらかした訳だからねえ。使徒自体 よくわかってないのに、更にこんなになってさ、しばらくはミサトやリツコには 近づけないわね。」

「あははははは、ホントにそうだね。」

シンジは大笑いしていたが、彼はそのミサトと住んでいるのを忘れたのであろ うか。

「・・・碇くん、わたしたち葛城さんと一緒に住んでるのよ・・・」

レイは少し不安そうにシンジに言う。

ちなみに、この不安そうなという感じはシンジにしか感じない位の変化であっ た。

「まあ、しばらく落ち着くまで帰っては来れないと思うよ。ミサトさんもリツ コさんも多分缶詰状態だろうしね。」

彼らは結局出撃することなく、エヴァを降りてロビーで休憩していたのだ。

司令部の主立ったメンツは、会議室に閉じこもってなにかやってるが、どうこ うなるものではないのは会議をしている連中自身よく解っていることだろう。

「・・・缶詰で思い出したけど、碇くん、おなか空かない?・・・」

「ああ、そういえばもう夕御飯の時間なんだね。」

シンジはお腹に手を当てて、腕時計を見た。

「あんたって、前から思ってたんだけど結構大食らいよねえ。その細い体のど こに入るの。一向に太らないみたいだし、いいわねえ・・・」

アスカは羨ましそうに、レイの体をジロジロ見まわす。

「・・・あなただって太ってなんかいないわ。どうしてそんなこと言うの?・ ・・」

不思議そうな顔でレイは聞き返した。

「ふふん、女の子にとって体重の増減は大事な事よ。なのにあんたはそんなこ とお構いなしにガブガブ食べるでしょ。この間あんたん家にいってシンジの料理 食べた時なんか、一体どこに入るのって位大量に食べてたじゃない。あたしは後 が恐くてあんなに食べれないわよ。」

(あれだけ食べて、恐くて食べれないとはなんたる言いぐさだろう。)

シンジは思ったが、鉄拳制裁を受けそうなので黙っていた。

「アスカちゃん、あれでセーブして食べてたの。僕はあれでも異常なほど食べ るなあって思ったけどねえ。」

言わなくてもいいことを言うと、こうなる見本をカヲルは示した。

アスカの裏拳によって吹っ飛ばされたカヲルは、そのまま後頭部も痛打。しば らく黙ってしまった。

「・・・静かになったわ・・・」

「仕方ないね。自業自得とはこのことだから・・・」

なかなか冷たいシンジとレイだった。

「まあ、このままあたしたちがここにいてもどうこうなる訳じゃないから、食 堂に行って何か食べてこよう。」

アスカがそう提案する。

「でも、急にみんな居なくなったら、また騒ぎになるんじゃ・・・」

シンジは心配するが、アスカの一言で納得するのだった。

「あんたバカあ〜。ネルフ本部にいたら、どこに居たってモニターされてるわ よ。」

「・・渚くんは、どうするの・・・」

レイはちょっと心配そうに、アスカに訊ねる。

「ん、ああ。こいつは大丈夫。食堂に着いた頃には平気な顔してテーブルに座 ってるんじゃないの。」

シンジとレイは、白目を剥いて不気味な微笑みを浮かべながら失神しているカ ヲルを見ながら、一緒に呟いた。

「「なるほど」」

「じゃあ、いくわよ。」

妙なくらい素直に納得したシンジとレイのコンビは、スタスタ先を歩いていく アスカを追いかけて歩き出した。



ここは会議室。

碇ゲンドウを初めとする、ネルフ上層部のメンバーが集まっていた。

お題は、もちろん復活した第三使徒について。

はっきり言って、会議のしようがなかった。

データ不足。

一回殲滅した相手がまた出てくる事は、死海文書にも記載は無くさすがのゲン ドウも対応に苦慮していた。

ましてや、使徒が人類の味方までしでかしたのだ。

意外の連続で、どうにもこうにもならなかった。

新たなゼーレの仕掛けかとも考えたが、今ゼーレは壊滅寸前の危機にある。

主要メンバーの謎の死。

キール議長以下、残ったメンバーだけでは現状の計画維持すらままならない筈 だった。

綾波レイのゲンドウへの造反、ダミーのレイの消失、レイのリリスから人間へ の変化、予想外の出来事の連続にさしものゲンドウも疲労困憊していた。

会議室に集まったメンバーも御同様であるらしく、みんな目の下にクマを作っ てどよ〜んとしていた。

「こうなっては会議もなにもありはしない。何もわからないのではな。」

ゲンドウは面倒になったのか、強引に閉会を宣言した。

「現状維持。引き続き使徒の現状データをMAGIによる解析を続けろ。後はでた とこ勝負だ。幸いエヴァ四体は無傷のままだ。使徒に対するマイナス要因は無い 。以上だ。」

言いたい事を言うと、ゲンドウはスタスタ会議室を出ていった。

「碇・・逃げ足は相変わらず早いな・・・」

冬月副司令は呟いた。

「そう言う事だ。急ぐ事はないだろうが、警戒だけは怠らないように。」

こめかみを押さえながら、冬月副司令も去っていく。

「・・急ぐ事はない・・か。これだけ問題が山積みだと、みんな大至急にしな いと追いつかないわね。」

「まったくねえ〜。でもまあ、急がなくてもいいって司令が言ったんだから、 とりあえずご飯食べてこよ。」

スキップしながらミサトは部屋を出ようとする。

そこにリツコの警告が一発。

「ご飯はいいけど、ビールは無しよ。解ってるわよね、ミサト。」

「へい、へい。仕事は続くよ、どこまでも。か。」

手を振りながらミサトは会議室を出ていった。




そして、食堂。

ネルフの食堂は、なかなか評判がよろしい。

プライスの割にクオリティが高く、まあ要するに安くて美味いという事なのだ 。

アスカを先頭にシンジとレイが、食堂に入っていくとそこには・・・

いた。

渚カヲルはやはり、そこにいた。

「やあ、遅かったね。」

「すごいや、カヲルくん。いつの間に?」

「あんまり追求しないで欲しいね。ふふ、それは、秘密ってやつさ。」

「なに言ってんだか。シンジもあんまりこいつの言う事まともに受け取るんじ ゃないわよ。ホントにバカなんだから・・」

そんなこんなで食事が終わった頃に、ミサトがA定食をもって現れた。

「あらあ、あんたたちここにいたのお。」

「あれえ、ミサトさん会議じゃなかったんですか。」

シンジが疑問を素直に聞いた。

「ん〜、司令がね、面倒くさくなったみたいでね。現状維持って事になったわ 。」

レイとカヲルは思った。

((・・無理もない・・))

「でも、今持ってるデータの解析はしなくっちゃいけないから、しばらくは缶 詰になりそうなのよお。」

ミサトはいつもの邪悪そうな笑みを浮かべて、シンジとレイを見ると

「ラブラブのあんたたちをふたりっきりにさせてあげたいのは、やまやまなん だけどさあ、まあ一応間違いがあったりすると困るから・・・・くっくっく。」

レイの赤い瞳がキラリと光る。

(・・・悪巧み?・・・)

「あんたたちもネルフ泊まり込み決定なのよ〜ん。もちろん部屋は別々でえ〜 。」

非常に嬉しそうなミサトであった。

アスカがあきれたように呟く。

「ミサト〜、あんたくっつけようとしてるのか、邪魔しようとしてるのかわか んないわよ。ホントに変な女よね、あんたって・・・」

「ふふっ、葛城さんは僕と一緒だね。おもしろければ何でもいいんだよ。」

カヲルは見事に核心を突いた。

「えっ、いや、その、面白がってるんじゃなくって、心配してのことなんよ。 大体、人事みたいに聞いてるみたいだけど、アスカとカヲルくんも同じよ、泊ま り込むのは。」

「げ、なんて奴なの。缶詰の道連れにするつもり?」

「そりゃそうよ、あんたたちの給料、あたしより多い時があるんだもん。こう いう非常事態の時くらいこき使わなくっちゃ。」

平気な顔でそんな事を言い放つミサトを、レイは極めて冷たい視線を送ってい た。

(・・・この牛は・・・邪魔ばっかりして・・碇くんとふたりっきりの夜・・ ・)

そして、シンジは久しぶりの家事からの解放に、少し嬉しく思うのであった。

(はあ〜、ちょっとはゆっくりできるのかあ〜)

「まあ、そんな事なのよん。頼むわねえ。」

ミサトはチルドレンたちの思惑お構いなしに言うと、A定食を掻き込みだして いた。




ネルフにあてがわれた部屋に向かっているレイ。

ゆっくりした足どりで歩いている。

何やら考えごとをしている様子に見受けられる。

(・・・部屋を別にしたくらいで、わたしと碇くんを引き離せると思っている の?・・・ふっ、やはり牛は牛なのね。わたしにかかればロックなんてないも同 じ。監視カメラだって同様、問題ないわ。・・・)

レイはなにやら考えをまとめたらしく、ゲンドウばりのにやりをその唇の端に 浮かべて、部屋の中に入っていった。




その夜。

綾波レイに与えられた部屋から、部屋の主が出てきた。

元から赤い瞳をランランと輝かせ、顔はほんのり桜色。

何故か、息づかいが荒くなっている。

(・・・この国の伝統行事・・夜、好きな人の所に行って一緒に寝てもいい・ ・何て言う行事だったか忘れたけど、こんな素晴らしい伝統行事があるなんて知 らなかった・・)

レイは食事の後、ミサトに

「ああ、レイ。あんたの部屋に日本の伝統行事って本があるから、読んでおき なさい。ちょっとあんたは常識が足りないみたいみたいだからねえ、一般常識は 日常身に付くけど日本固有のしきたりみたいなものも知っておくのも悪くないと 思うのよね。」

そんな事を言われて読んだ本のタイトルは

「東北の夜の伝統行事」

という小冊子だった。(どこにあるんだ、そんなもん・・)

その中に、レイが企てていた事とあまり変わりがない行事が、非常に曖昧な表 現で記載されているのだった。

それによってレイは、これから行おうとしている事が伝統行事という言葉のも とに、正当化されると認識したのであった。

はっきり言って、ミサトの罠だった。

彼女は、本部に缶詰になるならチルドレンも道連れにするだけでは飽きたらず 、レイとシンジのコンビを使って遊ぼうと画策していたのであった。

レイが夜中あたりにシンジの部屋に行きそうな気配だったので、伝統行事であ るということを理由づけにレイの夜這いを後押ししようといったプランだった。

ミサトのモニターに、ギクシャクした動きのレイが部屋を出てくるのが映る。

「よっし、そうこなくっちゃあ。」

ミサトは作戦本部長としての、己の才能を自画自賛する。

が、ミサトはレイのリリスの力を知らなかった。

モニターに砂の嵐が吹き荒れる。音声も既にノイズだけ。シンジの部屋からレ イの部屋までのセキュリティはすべてレイの支配下に置かれた。

「こ、これからってところなのにい〜」

覗きという行為ゆえに、リツコやマヤに直させる訳にもいかず、ただ砂の嵐を 見るしかなくなっていた。


シンジの部屋のロックを解除し、スタスタ中に入っていくレイ。

シンジはのほほんとした顔で眠っている。

レイは少し考える。

(・・・他のお話ではどうか知らないけど、碇くんと一緒に寝るのは初めて・ ・・このまま寝ていいのかしら・・・本の挿し絵では女の人は裸だったから、わ たしも裸の方がいいのね・・・)

頭からスッポリかぶる貫頭衣風のパジャマを脱ぎ捨て、下着もポイポイ放り出 していく。

(・・・な、な、なんだか・・き、緊張する・・)

硬い動きでシンジのベッドにもぐり込むレイ。

ピッタリ体を密着させるが、なにか違和感を感じるレイだった。

(・・・ん〜、なにか邪魔・・・あ、これか・・・)

邪魔になっているものを取り去るレイ。

それは何かと言ったらば、言わずとしれたシンジのパジャマ。

再び密着される肌と肌。

(・・・暖かい・・幸せって、こういうものなのね・・心まで暖かくなる・・ 頭の中まで熱いわ・・気持ちいい・・・)

そんな時、シンジが寝返りを打った。

横の裸のレイに覆い被さるように。

レイとシンジの体が正面から密着された。

江戸時代の火事を知らせる鐘の早打ちの様に、レイの心臓は凄まじい勢いで活 動を活性化していった。

願っていながら、思いもよらない展開にレイは深い眠りに落ちていった。

もとい、深い気絶の闇の中に落ちていった。

(・・・・きゅう・・・・・)





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