レイ・リターン

製作 越後屋雷蔵

プロト・タイプ13


ぼくは知ってしまった。

ぼくが大好きな綾波のことだ。

テストが終わって、リツコさんに呼ばれて部屋に行った時のことだった。

いつものように、テスト結果や注意なんかを聞いていたら、インターホンが鳴 って父さんがリツコさんを呼び出したんだ。

「ちょっと待っててね。」

そう言ってリツコさんは部屋を飛び出して行った。

ぼくはフッと視線をスイッチの入ったままなんだろうと思われるモニターに移 したんだ。

見慣れない画面。

ぼくたちがアクセス出来ない領域を映しているみたいだった。

端の方に気になるアイコンがあった。

((極秘 綾波))

そっとマウスを移動させてクリックする。

データが画面に映し出される。

そこには、ぼくの知らない綾波のデータがいっぱいだった。

綾波が作られた人形だったこと。

綾波がかあさんの遺伝子とリリスの体組織を元に作られたこと。

綾波が人類補完計画と呼ばれる計画の鍵になっていること。

綾波の体のスペアがセントラル・ドグマに何体もあること。

綾波が二人目の体だということ。

などなど

ぼくにはにわかに信じられないことばかりだった。

でも、最後の方に信じられるようなデータが、ちゃんとあったんだ。

分裂くんとの闘いの頃から、綾波の体組織がリリスのものから人間のものに変 わったこと。

綾波が自分の意志で、人間として生きることを望んだこと。

なぜか、人類補完計画が挫折の危機にあること。

綾波の体のスペアが消滅して、綾波はこの世でただ一人の綾波レイになったこ と。

そして・・・

綾波がぼくを愛してくれていること。

ぼくは思う。

綾波はきっと辛かったろう。

辛いっていう感覚が無かったろうから、なお不憫だと思う。

こんな秘密を抱えて今まで生きてきたなんて。

綾波が持っている儚さは、こんな所から出てるんだろうな。

でも、ぼくが綾波を思う気持ちは変わらない。

いや、ますます愛しいと思う。

もう綾波に辛い思いはさせたくない。

ぼくに綾波を支えてあげられるか分からないけど、ぼくは支えてあげたい。

そうじゃない。ぼくが支えてあげるんだ。

ぼくがしないで誰が支えてあげるんだ。

ぼくが綾波を守るって決めたんだ。

でも、ぼくはちょっと驚いている。自分のこの気持ちに。

ネルフに来て綾波と会う前のぼくなら、こんな衝撃の事実を知って冷静ではい られなかっただろう。

きっと、ヘナヘナになって湖のほとりなんかトボトボ歩いているに違いないと 思う。

今のぼくは違うんだ。

綾波と出会って、綾波を好きになって自分の存在理由を見つけた。

すべて、綾波レイのために・・・

綾波のおかげで、ぼくは強くなったんだろう。

ぼくが綾波の秘密を知ったことは言わないでおこうと思う。

きっと知られたくないだろうから。

いつか自分から話してくれるかもしれない。

その時、ぼくは言うんだ。

知ってたよ、でもぼくの気持ちは変わらないって。

ぼくが決意を新たにしていると、リツコさんが戻ってきたみたいだから画面を 元に戻してモニターを離れた。

「ごめんなさいね、シンジくん。今日はもういいわ。お疲れさま。」

リツコさんはそういいながら、椅子に座る。

「はい、お疲れさまでした。」

ぼくは決意を新たにして、心に余裕ができたのかリツコさんにねぎらいの言葉 をかけたんだ。

「リツコさん、あんまり無理しないでくださいね。顔色あんまりよくないです よ。」

リツコさんは、意外そうな顔してぼくを見つめている。

「あ、ありがとう。」

リツコさんはフッと肩の力を抜いたように、椅子の背もたれにもたれかかり

「そうね、無理はいけないわね。よっし、今日はもう終わりにしましょう。シ ンジくん、たまには一緒に帰ろうか。あ、レイに睨まれちゃうかしらね。」

それはもう、魅力的な笑顔でぼくに言ったんだ。

いつもこうなら素敵な人なのにね。

「一緒に帰るなら、ついでに一緒に晩御飯も食べていきませんか?これから帰 って作りますし。食事はたくさんで食べた方がおいしいですよ。」

今度は悪戯っぽく笑うと

「ミサトが作らないならご馳走になりたいわね。」

「じゃあ、決まりですね。ぼく、ロビーで待ってますから・・・」

「ええ、すぐ行くわ。」

ぼくは部屋を出て、ロビーに向かったんだ。

きっと今日の夕御飯は楽しくなりそうだと思いながら・・・




NEXT

ご意見・ご感想はこちらまで・・・ prost0@mizar.freemail.ne.jp inserted by FC2 system