レイ・リターン

製作 越後屋雷蔵

プロト・タイプ12


僕は渚カヲル。

綾波レイに引かれて、戻ってきた使徒。

でも、今は使徒ではないようだ。

戻ってきた時、ゼーレの研究機関に僕はいた。

もちろん、綾波レイがネルフの研究室で生まれ育ったのと同様に、僕もゼーレ の研究機関の一室で生まれ育ったんだ。

見慣れた光景。

だが、一旦終わりを経験して、人の気持ちを理解した今の僕には、そこに見え る光景は嫌悪しか生み出さなかった。

培養液に漂うたくさんの僕たち。

ダミー・プラグの元。

レイちゃんたちと違って、動き回ったりはしない。

漂うだけの本当の人形。

僕は身体維持装置のスイッチを切る。

崩れていく僕たち。

僕は何の感慨も持たずに見ていた。

それは、僕の形をしただけの偽物だから。

アダムから生まれたのは僕だけ。

あとは人工的に生成された偽りの体。

レイちゃんは、意志を持ってる体が消えた時点で、別の体に意志が移動するそ うだけど、僕はそうじゃないんだ。

僕の意志を持った体が消えた時、僕の意志は宙を彷徨う。

いわゆる幽霊ってやつさ。

だから、偽物の体を壊す時には自分でも意外なほど冷酷でいられたんだ。

それから、ウナゲリオンたちを動かないようにしたんだ。

S2機関を凍結しただけなんだけどね。

これはアダムである僕しか出来ない裏技なんだ。

秘密だよ。

そして、反ゼーレの地下組織に働きかけて主要メンバーの暗殺を画策したんだ けど、さすがにゼーレだけあって全員は無理だったんだね。

僕は日本に向かっている時に、そんな結果が耳に入ったよ。

まあ、それでも残った二、三人のメンバーだけでは何も出来はしないから安心 して来れたんだ。

僕が日本に向かった訳は、以前の世界では会う事が出来なかった惣流・アスカ ・ラングレーという、レイちゃんの嫌いな女の子に興味を惹かれたから。

前の世界で聞いていたより、シンジくんやレイちゃんには優しいね。

でも、なぜか僕にはきつくあたるんだよ。

かわいいけどね、とっても。

レイちゃんに聞いたら、前はあんなじゃなかったらしい。

いつも張りつめたような雰囲気があったそうだ。

彼女は常に孤独だったそうだ。

僕と同じ。

エヴァに乗ることだけが彼女のすべてだった、前の世界。

ゼーレに操られ、使徒として友達に我が身を消させた前の世界の僕。

でも今はそんなしがらみは存在しない、僕も彼女も。

ここはやり直しの世界だから。

レイちゃんのおかげで戻れたから、いくら感謝してもしきれないね。でも、レ イちゃんを戻らせたのはシンジくんだから、すべての感謝はシンジくんに捧げら れるべきなんだね。

シンジくんも、前とはひと味違ってる。

ずいぶんしっかりしてきたね。

もう、レイちゃんに首っ丈なのは明白なのにレイちゃんは気が付いていないし 、シンジくんもレイちゃんがシンジくんに一直線なのに、これも気が付いていな い。

側で見てると、こんな面白い見物は他にないね。

アスカちゃんも笑って見てるし。

でも、アスカちゃんって葛城さんにタイプが似てるみたいだね。

この間、レイちゃんとシンジくんが顔を赤くして登校してきたんで、僕はてっ きり思いを遂げて身も心もひとつになったのかと思ったんだよ。

それでアスカちゃんに相談してお祝いしようとしたら・・・

吊されちゃった。

僕はもうボコボコさ。

そういう事はそっとしておくもんだってアスカちゃんは言いながら殴るんだよ 、かわいいよね。ふふふ・・・

それにしても人間ってのは、面白いものだね。

自分が人間になって初めて分かったよ。

無限の可能性。

前の僕やレイちゃんは一つの目的のために生きていた。

ただ、それだけのため。

今は違う。

自分のために、自分の無限の可能性に賭けて生きることができる。

こんなに素晴らしい事だったなんてね。

ふふふ、この世は光に満ちてるね。

え?なに言ってるかわからない?

それは仕方がないよ。

だって僕は渚カヲルなんだから・・・

でも、僕も戻ってこれたのなら他にも戻って来れるのがいるかもしれないね。

可能性だけは無限だからねえ・・・

これからどうなるのかな。

楽しみだね。

じゃあ、また。




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