レイ・リターン

製作 越後屋雷蔵


プロト・タイプ06


あたしは、見つめていた。

ベッドに眠っている蒼い髪で赤い瞳を持つこの娘を。

綺麗でかわいいと思う。客観的にみれば。

なんでこの娘はあたしを目の敵にするのだろう。

まるでシンジにあたしを近づけさせまいとしているようだ。

それはちょっとおかしい。

初めて会ったオーバー・ザ・レインボーで、既にあたしに突っかかってきた。

あの時あたしはシンジの存在を知らなかった。

なのに何故。

初めて会った時の印象は、華奢で儚げだと思った。

なにか思い詰めているようにも見えた。

その後は、感情のない人形みたいに思った。

だが、今日のあの感情の大爆発はどうだ。

まるで、子供が親に縋り付いて泣き叫んでいるようだった。

この娘もなにかあたしと同じように、不幸な生い立ちを背負っているのだろう か。

この娘はただひたすらにシンジを求めている。

気が付かないのはシンジくらいで、ネルフの全員が知っていると言っても過言 ではない。

あたしには解らない。

シンジの何がそんなに好きなのか。

聞いた話では、シンジが来る前は本当に感情を表に出さない、人を拒絶するよ うな娘だったそうだ。

それがシンジがやって来たとたんに、人が変わったように感情が出てくるよう になったと言う。

一目惚れ。

それこそ、あたしには理解出来ない事だった。

加持さんに憧れてはいるけれど、本当に恋をしているかどうかと言えば、違う と思っている。これにしても時間をかけてこういう感情になったのだ。

一目見て、好きになるなんて信じられない。

あたしはエヴァに乗る事だけが全てだから、それ以外の事はどうでもよかった 。

でも、なぜかこの娘は気になる。

なんだろう。

とにかく、目が覚めたら少し素直に話をしてみよう。



「・・う・・ん・・」

目を覚ました。

「どう?気分は。」

あたしは問いかけた。

驚いた顔をしている。

「弐号機パイロット・・なぜ、ここに・・碇くん・・」

ホントにこの娘はシンジしか目に入らない娘だ。

「シンジは先に帰したわよ。」

「・・なぜ・・」

「あんたが倒れた訳をあいつに直接言えないしね。」

「・・わたし、倒れたの?・・」

自分が倒れたのも分からなかったようだ。

「そうよ。あんたは生理不順で大量出血してね、貧血になって倒れた訳。精神 的なものが原因じゃないかって医者が言ってたわ。」

不思議そうな顔で、あたしを見つめている。

「あなたはなぜここに?」

「ふん、ちょっとあんたと話がしたくてね。」

「・・なに・・」

「なんであたしに突っかかってくるの。初めて会った時から敵意剥き出しでさ 。あたしも短気だし挑まれれば受けて立つけど、今、落ち着いて考えると変なの よね。あんたはエヴァに乗ることにそんなに執着してないみたいだから、操縦技 術に嫉妬したって事は考えられないし、あんたが大好きなシンジにしてもあの時 まだあたしはシンジに会ってもいなかったんだから、あたしとシンジに嫉妬なん てまた考えらんないでしょ。」

「・・・」

なにか一生懸命考えている。

「大体、なんでシンジがそんなに好きなの。分かんないわよ、あたしには。」

(どうして、そこまで人を愛せるの?)

「・・ごめんなさい・・」

「・・まあ、いいけどね・・人にはちょっとやそっとじゃ他人に言えない事だ ってあるからね。無理強いはしないわよ。」

「・・ありがとう・・」

結局話にならなかった。

どうも今ひとつ噛み合わない。

「・・人の人生には、これだけはどうしても譲れないっていうものがあると思 うの・・わたしにとって碇くんがそうなの・・あなたにとってエヴァに乗ること がそうであるように・・・わたしにとって碇くんはわたしの全てなの・・・今は それしか言えない・・・」

あたしは蒼い頭を撫でながら言った。

「いいわよ。人の価値観なんて人それぞれだからね。まあ、いずれ話してくれ るだろうから気長に待ってるわよ。」

赤い瞳があたしをじっと見つめていた。

「・・あなた、意外と・・いい人かも・・」

「意外とって言うのと、かもは余計だけどね・・」

あたしたちは微笑み合った。

なんだか初めての感覚。

なにかが解ってくるような感覚。

分かり合えるような感覚。

案外悪い気はしない。

「じゃあ、あたし帰るからね。あんたは一晩寝ていなさい。元気になったら相 手になってあげるから、また突っかかってきなさいよ。」

あたしはドアに向かって歩き出した。

背中に微かな声が掛かった。

「・・ありがとう・・」

あたしは振り向かないで、右手を上げて返す。

病院を出て、ひとりっきりのマンションに足を向けた。

「・・仲間、か・・ま、案外悪くないかな・・あたしにも、あんなに人を愛せ る時が来るのかな・・・」

今、考えても始まらない。あたしの未来はこれからだ。




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