レイ・リターン


製作 越後屋雷蔵

プロト・タイプ02


レイは今、策を練っていた。

これから起こる全てを知っているレイにとっては、二つに分裂する変な使徒が やってくるのは一向に構わなかった。が、それによって発生する愛しいシンジと サルのアスカによるユニゾン特訓は我慢出来なかった。出来る事なら自分がやり たかった。

とはいえ、ヤシマ作戦による零号機の損傷は簡単に直るものではなく、不本意 ながらユニゾンによる作戦もやむなしと思わざるを得なかった。

「・・もう、そろそろ変なのが、来ても良い頃・・・」

必死に何とかする企みを考えているのだが、シンジとアスカが一つの部屋で暮 らすという、今のレイにとって悪夢以外の何物でもない過去の事実が、レイの思 考を妨害しているのだった。

「・・ああ、碇くん・・もし、碇くんがサルの毒牙に掛かったら・・わたし生 きていられない・・まだ、碇くんの心を振り向かせていないのに・・・」

実際は完璧にこっちを向いているのだが、まだ気が付かないのは天然なのか・ ・・

部屋の襖の外から声が掛かる。

「綾波、買い物行って来るけど、何かいるものあるかい。」

苦悶の表情を浮かべていたレイの顔は、一気に明るくなった。

シンジの声を聞くだけで、顔は熱く火照り、心臓はバカバカとダッシュを繰り 返し、息づかいは荒くなってしまう。

一緒に住むようになって慣れてもよさそうなのだが、一向に収まらない。

むしろ、体に悪いんじゃないかと作者も心配する、レイの調子であった。

「・・はい、わたしも行く・・」

過去から復活を遂げてから、レイの体に変調が起こっていた。

初潮がきたのだ。

人間になりたいという願望が、奇跡を起こしたのか。それともリリスとの融合 による影響か。どちらにせよ、また一歩精神的にも肉体的にも完全な人間になり つつあるレイだった。

レイが買い物に一緒に行くのは、生理用品を買いに行く目的もあった。

感情を手中に収めたレイが、いくらなんでもシンジに生理用品を買いに行かせ られる筈はなかった。

過去の世界では、その時期になった女子が恥ずかしそうに生理用品を、隠し持 っていた気持ちが理解出来なかったが、今ではよく解る。

特にシンジに知られた時を想像した時は、顔から火が出るほど恥ずかしい気持 ちがしたものだった。

人間としての必然だということは、理解していたがそれでも恥ずかしいものは 恥ずかしかった。

その気持ちを知った時、レイは頬を染めながら呟いたものだった。

「・・これが乙女心というものなのね・・・」

ほうっとため息をつくレイは妙にかわいかった。




そして、二人は割合近くにあるショッピング・センターに来ていた。

葛城家の主夫として、確固たる地位を築いてしまったシンジは、テキパキと品 物をかごの中に放り込んでいく。

頭の中で、本日の夕食の献立が組み立てられていく。

冷蔵庫の在庫も加味しながら、必要な物を物色する。

下手な主婦真っ青、シンジの特殊な才能はこんな所にも発揮されていた。

「・・碇くん・・わたし、薬局にちょっと・・」

レイは、少しモジモジしながらシンジに言った。

「えっ、薬局?僕も買う物があるから行くよ。」

(・・まずい・・)

レイは自分からは、とても言い出せない。かと言って、グレートな鈍感、シン ジにははっきり言わなければ解るまい。

「うー、うー・・・」

「綾波、なに唸ってるの。行こうよ。」

スペシャルな鈍感シンジは、言い出せなくてモジモジ唸るレイを促してスタス タ歩き出す。

薬局に入ってきたレイは、シンジに発覚した時を妄想して一人で真っ赤になっ ていた。

鈍感のチャンピオンシンジは、アッという間に買い物を済ませレイを見た。

「綾波、ホントにどうしたの。具合が悪いなら薬より病院に行った方が良いと 思うよ。」

シンジの顔も見れない、声も出せない状態のレイは俯いたまま、どうにもこう にもなすすべがなかった。

そこへ、薬局の若いお姉さんが見るに見かねて声を掛けてきてくれた。

「あら、あら、どんな具合なの。相談に乗りますよ、さあ、こちらにどうぞ・ ・」

「・・ご、ごめんなさい、碇くん。外で待ってて。す、すぐ・・い、行くから ・・」

「うん。」

鈍感の三冠王者シンジでも、薄々感づいたようで素直に出ていった。

こうしてレイは買い物を済ませる事が出来たのだった。

家に戻って、シンジが夕食の下ごしらえをしている間、レイは再び謀略の案を 考え始める。

(・・もう一度始めから、よく考えてみよう。ユニゾン特訓を阻止するには・ ・・使徒が来なければいい。来るのは必然、却下。使徒が来たらサルに倒させる 。サルに倒せたらこんな苦労はしてない、却下。使徒が分裂する前に倒してもら う。どうやって、あの使徒が分裂するのを知ってるのはわたしだけ・・どうやっ て伝える?どうやって倒す?却下。うーん、困った。・・・あっ、そうだ・・い っそのことサルに死んでもらって、N2爆弾で足止め。そしてわたしと碇くんで 倒す。いいかもしれない・・・うふ、うふ、うふ・・・あ、駄目。碇くんが仲間 の危機を黙って見てるはずない。絶対助けにいっちゃう。それがきっかけで碇く んの気があのサルに行ってしまったら、やぶ蛇・・・じゃあ、わたしが一人で倒 す。もっと駄目。わたしが人間じゃない事がばれちゃう。碇くんに嫌われる。そ れは死ぬより嫌。)

レイは疲れた。

仕方がないので、司令所でミサトの側で細かくアドバイスして、あわよくば使 徒を倒す事で手を打った。

謀略もなかなか疲れるものらしい。

そして、分裂くんの出番がやってきた。




「ほら、シンジ。ぼけなす顔晒してないで、しっかりバックアップしてよ。」

「アスカこそノタノタしないでよね。」

「なんですってえっ!!」

「なんだよっ!!」

こんな喧嘩腰の会話でも、恋する乙女レイには仲良く会話を交わしている様に 聞こえるから、恋というものは、いや嫉妬というものは恐ろしい。

そして戦闘が開始され、ミサトの側でアドバイスをしようとしたレイに、激痛 が襲った。

「うっ・・・」

(・・な、何?・・い、痛い・・あ、まさか・・いけない・・きちゃった・・ )

痛みを堪えて、ミサトに近づこうとするレイだったが、足を踏み出す度に下腹 部に痛みが襲ってくる。

(・・おかしい、始まったばかりにはそんなに痛みはなかったのに・・)

それはストレスだった。言ってみれば謀略の考えすぎで罰が当たったのかもし れない。

(・・駄目・・つけてこなくっちゃ・・・)

戦闘は気になる、下腹部も気になる、イライラするどうにもこうにも、レイは 成す術がなかった。

司令所のモニターから目を離して、トイレに向かおうとするレイを目敏く見つ けたのはゲンドウだった。

「どこに行く、レイ。ここにいろ。」

イライラしている所へ、ゲンドウの偉そうな物言い。レイはもしかすると自分 の父親になるかもしれない男に、激烈な怒りの視線を発射した。

ちなみに、背中に青白い炎が燃え上がっていたのは言うまでもなかった。

これによって、ゲンドウはケンスケに続き、レイを怒らすと命の危険がある事 を認識した二人目になった。

(こんな性格にした覚えはないのだがな・・)

意外に機を見るに敏なゲンドウは、冷や汗を流しつつ言った。

「気を付けて行け、レイ。」

それだけでは収まらないレイではあったが、下腹部の気持ち悪さに耐えかねて トイレに急いだのだった。

とりあえず、事を済ませたレイは司令所に戻ってきた。

司令所のスクリーンには、使徒が二体、表面が焼け焦げたままじっとしている 映像だった。

レイは呆然としながら、呟くしかなかった。

「・・・終わっちゃった・・」

(・・・ユニゾン確定・・・)





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