Rei-s

製作 越後屋光右衛門雷蔵
3rd-rei

「シンジくんがサルベージされたそうだ。すぐこちらに向かうと言っているぞ、碇・・・・・・」

副司令冬月がゲンドウに向かって言った。

「そうか・・・・・」

ゲンドウの視線は将棋盤の上から離れようとはしなかった。そう、ピンチだったのだ。

「本当に感情を露わに出来ない男だな、おまえは。もうちょっと嬉しそうにしたら可愛げもあるのだが・・・・・・」

「可愛いわたしが見たいとでもおっしゃりたいのですか?先生・・・・・・・」

ゲンドウの一手が将棋盤に指される。

「まいった、わたしの負け。絶対見たくない・・・・・・・」

無論将棋の勝負の事ではない。冬月が指した次の一手はゲンドウを震撼させ、冬月にゲンドウ張りの笑みを浮かべさせた。

「・・・・・・・・・・・・・」















「何をどうやって話せばいいのか・・・・・・・」

シンジ以下ゾロゾロと総司令執務室へ向かう8人は、各々頭を悩ませていた。

もっともレイたち5人は違う事を考えて頭を悩ませているのだが。

「取りあえず、わたしが最初に出てあの人の度肝を抜いてからしゃべりましょうか?」

ユイが言った。

「それじゃ、父さん喜ぶだけかもよ。」

シンジの的確な読みが炸裂した。

「レイたちがいきなり乱入していって混乱の最中、どさくさ紛れに話すってのは?」

ミサトが力技を提案する。

「父さんは綾波たちがたくさんいるのは知ってるはずだし、簡単に混乱するような神経の持ち主じゃなさそうでしょ。」

もっともな話だ。

「・・・・・それよりも、いつもツンと澄ましてるオリジナルの奴をビックリさせてやりましょうよ・・・・・・」

シンジの後をテクテク付いてきていたレイたちの一人がそう言う。

「・・・・・それおもしろそう・・・・・」

次のレイも呼応する。

「・・・・・おもしろそうだけど、悪趣味〜〜〜〜〜・・・・・・」

「・・・・・わたしたちと同じなのかな、身体の感じ方・・・・・・」

「・・・・・あんな女どうでもいいのに・・・・・・・」

それぞれ喋り出すのでシンジたちは収拾がつかなくなりそうな気分になる。

「わ、わかった、わかったから一遍に喋らないで・・・・・・・この娘たちどうやって区別するかも問題ですよ、ミサトさん。」

ミサトは額に怒りの血管を浮きださせつつ言った。

「も、いい。この際、発令所のみんなにど〜んと暴露してこいつらの存在を公にする。そんでもって適当に色分けしてそれで呼ぶ事にしましょう。考えてみりゃ司令のとこ先に行ったらみんな殺されちゃうかもしれないからねえ。」

ミサトはそう言ってレイたちをビシッと指さして、

「あんたたちは、とりあえずクローン戦隊レイレンジャーとでも名乗っておきなさい。」

と言い放つ。

「ついに戦隊物に手を出したのねえ、越後屋さん・・・・・・」

「五人揃ったあたりからやりそうな気はしてたんだけどさ・・・・・・」

そこの親子。勝手な内輪話はしないように。

そんな訳で8人はコースを変えて発令所に向かったのであった。

発令所の皆さんが呆然とするのは至極当然。シンジのサルベージが失敗したと気落ちしていた所にシンジはおろかレイの軍団、そして見慣れぬ美人の登場。

混乱するのも無理ない話。

が、リツコがダウンして居ない発令所はミサトの独壇場。

混乱する間も与えず、適当な作り話で皆さんを納得させたのだった。むりやりね。

ユイ以下5人のレイたちは、リツコと同じ服装でブラウスを色違いにされたのだった。

明るい性格のをレッド。

オリジナルに近い性格のをブルー。

かわいい性格のをイエロー。

お色気たっぷりなのは、当然ピンク。

リツコみたいにクール&ハードなのがブラック。

かくして、着替えて区別がつくようになったレイレンジャーはゾロゾロとオリジナルの寝ている病室へと向かうのであった。










「遅いな・・・・・」

「そうだな・・・・・・・」

待ちぼうけを喰わされている司令副司令は、そのままの姿勢で待ち続けていた。

将棋盤の譜面もそのまま、違うのはゲンドウの額に浮かぶ汗のみであった。



















レッド「・・・・・きっとあの女、まだ生きてるなんて呟いてるわよ・・・・・・・」

イエロー「・・・・・・でも、可哀想って言えば可哀想よ・・・・・・怪我ばっかりしてるみたいだし・・・・・・・」

ブラック「・・・・・・あんなの死んでしまっていいんじゃないの・・・・・・・・」

ブルー「・・・・・・・あなたは言い過ぎ・・・・・・」

ピンク「・・・・・・裸で碇くんを誑かしたって言ってたわ・・・・・わたしだって負けないから・・・・・・・」

ゾロゾロとレイの病室に入っていくレイレンジャー。その後を困った顔でミサト、ユイ、シンジが付いていく。

結局、レイレンジャーがレイを取り囲んでビックリさせようというレイレッドの意見が採用され、移動の真っ最中であったのだ。

部屋に入ってズラリとレイを取り囲むレイレンジャー。

レイがようやく目覚める。天井を見つめそっと呟くオリジナルレイ。

「・・・・・まだ、生きてる・・・・・」

レイの予想通りのセリフに、ミサトはシンジの耳元に口を寄せて囁いた。

(あいつら凄いわね。セリフまわしまでピタリ正解よ。)

(性格以外は全く同じってのも信憑性がありますねえ。)

周りの異様な気配に気が付いたらしく、レイは顔を横に廻し気配を確認する。

ぐるりと見たレイはボソッと一言。

「・・・・・わたしがたくさん。これが夢?・・・・・・」

レッド「・・・・・意外と現実を直視しない娘なのね、オリジナルって・・・・・」

ブルー「・・・・・寝起きだからじゃないかしら・・・・・」

ピンク「・・・・・色気の無い寝方よね。わたしの方が色っぽいわ・・・・・」

ブラック「・・・・・所詮、この女は現実逃避しようとしているのよ。碇くんの優しさに縋ってしまう心をむりやり奥底に押し込んで、碇くんに辛く当たっているんだわ・・・・・」

イエロー「・・・・・そんな言い方しないの。オリジナルはオリジナルの心で生きているんだから。ブラックはオリジナルにきつく当たりすぎよ・・・・・・」

そっと起きあがったレイは、眼をパチクリさせながら硬直している。

部屋のはじで見ていたシンジがミサトに囁く。

(綾波が動揺してますよ。初めて見た。)

(あれで動揺してるの?)

素朴な疑問を提起したミサトであるが、レイの額をつたう汗を見て衝撃を隠さなかった。

(汗、汗かいてる・・・・・レイが汗かいてる・・・・・・このまま放っておいて「レイの油」とかで売り出せないかしら?・・・・・)

(何考えてるんです、まったく・・・・・綾波はカエルじゃないんですからね。)

(ははは、分かってるってばさ〜〜〜、あ、ほら、レイの様子がちょっと変わったみたいよ。)

ミサトはレイの変化をシンジに教えるが、彼女にその変化が分かっていた訳ではない。

(あ、ホントだ。)

(え?マジ?)

シンジの言葉にミサトはレイの顔を凝視する。なるほど、視線はフラフラ何かを探し求めるように彷徨っているようだ。

ブルー「・・・・・碇くんを探してるんでしょう?もっと素直になればいいのに・・・・・・」

レッド「・・・・・碇くん、好き好きって言いながら抱きついてみれば?おもしろい事になりそうよ・・・・・」

ピンク「・・・・・生ぬるいわ。全裸で襲いかかるのみね・・・・・・」

イエロー「・・・・・かわいらしく、ネコみたいに擦り寄る方が効果的なんじゃないかしら・・・・・・」

ブラック「・・・・・胸ぐら掴んで「わたしについてきなさい」って言えばそれでオッケーじゃないのよ・・・・・」

再び自分に詰め寄られるレイ。

その視線はようやく部屋の隅にいるシンジを捉える。

シンジは見た。恐怖に打ち震え、縋るように救いを求めるレイの眼を。

その視線はシンジの惰弱な心臓を鷲掴みにし、魂を揺さぶるのであった。

「まあまあまあまあ・・・・・」

レイとレイレンジャーの間に割って入ったシンジに、レイは震えながらしがみついた。

「・・・・・こ、恐い・・・・・・」

「大丈夫、大丈夫だよ綾波・・・・・・」

安心させようとレイの頭を撫でるシンジ。

ブラック「・・・・・ほ、そうきたの?なかなかやるじゃない・・・・・・」

ニヤリと笑うレイレンジャーであった。






















「あの女が無事だってのはわかったわよっ、いちいちそんな事であたしに電話入れないでよっ。」

アスカの怒号が電話回線を通じてミサトの鼓膜を直撃する。

「いや、だからね、かなり込み入った事情が・・・・・・」

ドカンと切られる電話にミサトは眉をひそめる。

「ダメだわこりゃ。も、聞く耳持たずってやつね。」

「アスカまだ機嫌悪いんですか?」

シンジは困った風な顔で尋ねる。

「うん、シンクロ率シンちゃんに抜かれてからメタメタでしょ。それに輪を掛けてね。」

ブラック「・・・・・あんな女とっとと弐号機から引きずり降ろせばいいのに・・・・・」

イエロー「・・・・・ブラックは碇くん以外はみんなこうなのね・・・・・・」

ブラック「・・・・・実際そうじゃないの。わたしたちならコアの入れ替えもなしにすぐシンクロする事が出来るわ・・・・・・」

「どゆ事?」

ミサトが尋ねた。シンジは曖昧な顔つきでそれを見ている。

ブルー「・・・・・わたしたちは普通の人間ではないと言う事です。地下にあるリリスの体組織をベースにユイさんの遺伝子情報を利用して作られた人造人間・・・・・・・」

レイがいささか慌てた顔で口を挟んだ。

「・・・・・そ、そんな事、今言わなくても・・・・・・」

ピンク「・・・・・うふ。碇くんが自分を愛してくれなくなるって思ったんでしょ。だんだん正直になってきたみたいねえ・・・・・」

レッド「・・・・・綾波レイという存在を恐れ嫌うかもしれないって考えた。その方が正解ね・・・・・」

ブラック「・・・・・そんな心配いらないようよ。碇くんの顔は驚いてもいないでしょ・・・・・」

レイはフッとシンジの顔を見た。確かに驚いてもいないし怖がっているようでもない。

シンジは病室の窓を見ながら呟く。

「水槽に泳いでいる時、なんとなく分かったんだ。この娘たちと泳いでいる時なにか足りない気がしてさ。漠然となんだけど・・・・心を欲しがってる、 そんな気がしたんだ。ぼくは心が欲しいならぼくの心を分けてあげるって思ったんだ。姿形がどうであれ、心があるならそれでいいじゃないかってさ。犬や猫に も心はあるし、形が人間で心を持ってりゃ完全に人だよねって・・・・・さ。」

ブルーがズイッとレイに顔を寄せて言い切る。

ブルー「・・・・・分かった?あなたはおろかわたしたちまで認めてくれたのよ。人間として、ヒトとして・・・・・後はあなたの決断次第・・・・・ゆっくり考える事ね・・・・・」

レッド「・・・・・わたしたちの統一見解は、碇くんのために死ぬまで生きる、これよ・・・・・・」

レイレンジャーは一斉に頷いていた。

(とんでもないのに見込まれちゃったわね、シンちゃん。)

ミサトは心中面白がっていたが、顔には出さずにシンジの頭を撫でるのだった。


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