「な、なんで・・・こんな事に・・・・・・」
リツコはもう絶句するしか方法が無く、思考は固まり、表情も固まり・・・つまり硬直状態に陥っていた。
水槽の中のレイたちには、元々魂は存在しない。
それ故、魂を持ったオリジナルレイのパーツたりえたのである。
魂を持たないレイたちも本能によって動く事は出来る。が、自ら行動を起こすような思考を伴った動きを見せる事など今まで一度としてなかった事なのだ。
つまり、自ら行動出来るという事は、何らかの理由で魂が入ったとしか考えられないのであった。
「シンちゃ〜ん、どうゆ〜事か説明出来るかなあ〜〜〜」
硬直リツコに代わり、ミサトがシンジに問いかける。その口調は既にからかいモードに入っている。
無理もない。シンジを失うという心の楔が消え、その上蘇ってシンジは水槽の中で裸のレイたちと楽しそうに戯れていたのだ。
お調子者の血が沸騰していた。
「それが・・・ぼくにも何が何だかよくわかんないんですよ。母さんの方が説明できそうだから、母さんに聞いてください。ミサトさん・・・・・・」
「母さん?」
シンジの母と言えば、エヴァ実験中に亡くなられた言わずと知れた碇ユイ博士。
あの碇ゲンドウ司令の妻にして、生体工学の世界的先駆者。
「だって、ユイ博士は昔に亡くなっているじゃ・・・・・・・」
その時、シンジの後ろからヒョッコリ顔を出す人影が。
「初めまして〜、葛城さんですね。いつも宅のシンジがお世話になって・・・・・・母のユイです。よろしくお願いします。」
「は、はい〜。葛城ミサトです。こちらこそお世話になりまして・・・・・・・って、どうしてえ〜〜〜〜〜」
思わず返事を返すミサトであったが、やはり驚愕の顔をする。
「ま、くわしく話すけど、とりあえずタオルと何か着る物が欲しいんだけど・・・・・・」
シンジ、ユイ以下レイたちは素っ裸で突っ立っていた。
「こんなのしかありませんでしたあ・・・・・・・」
ミサトはどこからか大きめのダンボール箱を持って現れた。
箱の中には白衣がギッシリ詰まっている。サイズはLサイズだった。
「すみませんねえ。ああ、これなら丁度いいわ。」
ユイは身体をタオルで拭きながら、シンジ以下レイたちに手渡している。
結局、LCLから出現したのは、ユイ、シンジ、そしてレイが5人の総勢7人。
「ユイ博士、説明していただけますか?」
ミサトが怖ず怖ずと声を掛けた。ちなみにリツコは石化したままだ。
「簡単に説明するわね。わたしは昔エヴァの実験でエヴァのコアに吸収されてしまったの、今回のシンジと同じようにね。それからずっと、ほとんどコアの中で眠っていたのよ。時々起こされたりしてけどね。」
ミサトはハッと顔を上げる。
「もしかして、エヴァの暴走が?・・・・・・」
「そうなのよ。もう、シンジが可哀想で可哀想で見ていられなくってねえ。ま、それはそれで、今回シンジが400%のシンクロ率で吸収されたのは、わ たしにも責任があるのよ。だってさ、あんなにはっきりと「エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです」なんて凛々しく言うんだもの、もうわたし感 激しちゃって・・・・・・つい、暴走にも力が入ってね。てへへ・・・・・・んでまあ、使徒から貰ったS2機関のお陰でコアからシンジを出すついでにわたし も出てこれたんだけどね。」
「しかしま、なんでシンジくんをここに出したんです?」
ミサトはレイのクローンニング・プラントを指さして言った。
「間違えたの。」
「間違えた?」
「そう。単純に間違えただけ。」
「あんまりタイムリーだったもんだから、意図的な事なのかと思った・・・・・・ユイ博士は、クローンニングには?」
「わたしはまったくタッチしていないわ。でも、レイちゃんも初号機に乗ってるし、シンジの記憶や水槽の彼女たちの構成なんかでおおよそ分かったけどね。」
ユイの話の区切り目を狙って、ミサトは言葉を挟み込む。
「クローンの目的やらなんやらは取りあえず後にして・・・・・・リツコはさっきシンジくん以外は上がって来ないって言いましたが、これこの通り何を命令されるでもなく上がって来ました。これは動き出す何らかの要因があったのでは?」
「そうね。おそらくクローンニングの目的はダミー・プラグ・・・・・これは想像でしかないけど、エヴァの起動にはエヴァがパイロットが搭乗している と認識すればいいはず。ならば心を持った魂は不要、むしろ無い方がいい結果が得られると思うわ。だから水槽のレイちゃんたちは魂を持ってはいなかった。故 にコアから戻ったシンジに強力な魂のエネルギーを感じ取ってベタベタくっついていたんじゃないかしら。」
「魂のエネルギー?」
「空っぽのガフの部屋を埋めてくれる位のエネルギー・・・・・それが欲しくて水槽でシンジに擦り寄っていたのかもしれないわ。」
「とすると・・・・・・」
「動き出したって事は・・・・魂が入ったって事なんでしょうね。シンジから魂を分け与えられて。」
「むう〜〜〜〜」
ひとしきり唸ったミサトは、クルッとシンジに向き直って言う。
「シンちゃん、魂入れたってどうやったのっ。まさかあたしに内緒でいやらしい事を・・・・・・・」
「な、なに考えてんですか。ふわふわ浮いてただけですよ。」
シンジは憮然と言う。
「まあ、いやらしげな事出来るとは思ってはいないけど・・・・・・・さて、このレイたちどうしましょうかね。」
と、ミサトが言ったとたん、
「「「「「・・・・・ミサトさんに決めてもらう必要はないわ・・・・・」」」」」
声を揃えてレイたちがしゃべった。
「しゃ、しゃべったあっっ。」
「・・・・・しゃべりますよ、そりゃ。オリジナルと一緒にしないでください・・・・・」
手前のレイが言った。その次のレイも続く。
「・・・・・わたしが一番オリジナルに近いかも・・・・・」
次、
「・・・・・性格以外みんな同じなのにね、おかしいわ。うふふ・・・・・・」
んで、
「・・・・・疲れた、碇くんと一緒に横になりたいの・・・・・・」
最後に、
「・・・・・ホントに困った事になったわねえ・・・・・・」
おのおの独特のセリフに特徴を見いだせるのではあるが、如何せん姿形はまるで同じ。
思わず頭を抱えて蹲ってしまうミサトだった。