人形なんて大っ嫌い


プロト・タイプ01

製作 越後屋雷蔵

 
 
 



 

その日、アスカさんはご機嫌が悪かった。

ヒカリの家にお泊まりで遊びに行った時、ヒカリと買い物に出た帰り道にそれを見てしまったのだ。

シンジの背中におぶさって、この世の幸福を一身に受けているような恍惚とした表情のファースト・チルドレン綾波レイを。

そして、その行く先はファーストのマンションとは逆方向。

言わずと知れた葛城邸。

(まあ、どうせシンジの事だからごはん作って食べさせるくらいが関の山。その先まで進める筈がない。)

と、そう考えてあせる心を押さえながら、お泊まりを終えて帰ってきたアスカさん。

(シンジから進展する可能性は無いけど、相手はあのファースト。何をやらかすか解ったもんじゃない。恐らくファーストに接近戦を挑まれたら、シンジが拒絶できる訳はない。もし、そうなっていたら。シンジとファーストが・・・あんな事や、こんな事を・・・ああん、いやだあ・・それはあたしがするのお・・・)

ソファに座ったまま妄想の世界に突入していたアスカさんに、シンジが声を掛けた。

「アスカ、お茶が入ったよ。」

ハッとして、シンジを見る。顔が火照るのを自覚してしまったアスカさん。

「きょ、今日のお茶請けはなに?」

「人形焼きって言うお菓子だよ。饅頭なのかな?おいしいよ。」

「に、人形焼きい。そんなのあんのお。」

「え、気に入らないの。あとは、えーと、夜のお菓子うなぎパイってのがあるけど。」

アスカの脳裏に、ウナゲリオンたちがファーストと一緒にダンスしてる図が浮かぶ。

「なんなの、その夜のお菓子って・・・これリーフ・パイじゃないの・・・なんでうなぎで、夜なのよっ・・」

まったくアスカの疑問は当然である。

夜のお菓子うなぎパイは、お菓子界の七不思議であろうか。

アスカはうなぎをかじりながら、人形焼きをまじまじと見ている。

「人形って言うだけで、もう嫌な感じ・・・」

ぼそりと呟くアスカのセリフに、シンジはびくりと反応する。

彼はこういう勘は素早く働く。

「に、人形が嫌って、アスカ猿のぬいぐるみ大事にしていたじゃないか・・・」

「人形って言葉からファーストを思い出すじゃない。シンジさんの大事な大事な綾波さんをね。」

じろりと上目遣いにシンジを睨む。

劇場版でウナゲリオンと対決してる時の目に近いものがあった。

「シンジさん、綾波さんを背中に乗せてどうでした。気持ちよろしかったですか。良い思いをなさったようですわね。ほほほほほ・・・・」

これは恐い。はっきり言って物凄く恐い。

優しい笑みを浮かべながら、丁寧な口調。それでいて目は完全にいっちゃってる。

シンジは、まさに蛇に睨まれたカエル状態。既に身動きひとつできなかった。

「あう、あう・・・」

「家に連れてこられたのでしょう。お食事でも差し上げたのかしら。シンジさんのお料理とってもおいしいですからね。綾波さんもさぞお喜びになったでしょう。」

アスカはシンジの横に座り直して、スッと肩に手を廻し呟いた。

「・・・で、シンジさんは綾波さんに何をなさったのかしら・・・」

「ひいー、た、た、助けて、してない、何にもしてないよおっ。」

恐怖のあまりアスカから逃げようとするシンジの首に、アスカのスリーパー・ホールドが決まる。

ちなみにチョーク・スリーパーではない。

頸動脈を締めてじわじわ落とす正統派レスリングのスリーパーだ。

「あたしの留守にファースト連れ込むなんて、味な真似するじゃないの。シンジい。」

「なんで、アスカが怒るんだよ、関係無いじゃないか。」

「むー、関係無いとぬかしたなあ。その開き直る根性が気に入らないのよおっ、人の気も知らないでえっ、のほほんとした顔してえっ、吐けいっ、何をやったかキリキリ吐けっ。」

「きゅう、なんにも・・・してない・・・よお・・・きゅう・・・」

「ホントに・・・」

「きゅう・・・」

「キスも・・・してないの?・・・・」

「きゅう・・・」

「・・・・・・」

アスカさんは14歳にしては豊満な胸を、シンジの背中にグリグリ押しつけながら、

「ファーストよりあたしの方が、胸大きいでしょ・・・・」

「きゅう・・・」

耳元で優しく囁いた。してる事は全然優しくなかったが。

「・・・触ってみたい?・・・・」

「きゅう?・・」

「・・いいのよ、シンジなら・・・」

「・・・・・」ピクピク

「・・・シンジが・・・シンジの事が・・・好きだから・・・好きにして・・・いいよ・・・」

シンジはジタバタし始める。

アスカさんはシンジの耳に軽くキスした。

アスカさんは、今の自分の行為に羞恥心を回復させた。

スリーパーに決めたまま、シンジの頭をブンブン振り回す。

「やだあっ、あたしったら、もう恥ずかしいっ・・・・」

「・・・・・・」パタッ

「・・・シンジ?・・・シンジ!・・・」

彼は白目を剥いて、鼻血を出して・・・落ちていた。

彼はなぜ落ちたか?

スリーパーが決まったからか?

アスカの告白がヒットしたせいか?

彼は、なぜか沈黙を守り続けたとさ・・・
 
 
 
 
  inserted by FC2 system