アスカがアスカである理由

製作 越後屋雷蔵


浜辺に横たわる赤いプラグ・スーツを着た少女の横に、少年が膝を抱えて蹲っ ている。

少女は目をつむって、うっすらと微笑みを浮かべている。

傍らの少年の顔には表情は無く、頬には何度も何度も涙を流したのであろう、 跡がくっきりと残っていた。

リリスの残骸から出現した羽根を持つ物体は、徐々に人の形に変化していく。

それは、あたかも光の卵から生まれた天使のようだった。

大きく羽根を拡げて少年のいる浜辺に向かっていた。

目玉の部分は空洞を思わせるように、黒く窪んでいる。だが、少年に近づけば 近づくほど顔や体の輪郭ははっきりしてきていた。

はっと目を開く。そこには宝石を思わせる赤い瞳。

フワリと少年の側に降り立つ。

少年と少女以外は光の海に呑み込まれ、何も存在していないかのようだ。

「・・碇くん・・・」

感情の欠落した人形のようにゆっくりと顔を上げるシンジは呟く。

「・・綾波・・か・・どうしたの・・まだ、何かあるの・・」

「・・碇くん・・・」

「・・アスカは眠ってるんだ・・やっと、やっと幸せに眠れるようになったん だ。」

「・・そう・・死んだのではないの?・・」

「死んでなんかいないよ・・アスカは眠ってるんだ・・」

「・・そう、眠っているのね。死んではいないのね・・・」

「そうさ・・アスカが・・アスカが僕を置いて死ぬはずないよ。だって、僕は アスカがいないとどうしていいかわからないもの。そんな情けない僕を置いて死 ねないだろ。」

「そうなの?・・わたしには碇くんが恐がってるように見えるわ・・・この人 が死、いいえ、永久に眠り続けて起きあがらなかった時のを考えて・・・起こし てあげられないの?」

シンジは自嘲ぎみに、力無く笑うと、

「ははっ、綾波には何でもお見通しなんだね・・・僕にはできないや・・」

綾波は優しく微笑むと、腕をアスカの体に掲げると、

「・・・碇くん、わたしこの人に言いたかった事があるの・・ちょっと借りる わ・・」

アスカの体を宙に浮かせて、シンジの側を離れていった。

「・・碇くん・・さよなら・・元気で・・・」

白い光がシンジの回りから消え去ると、シンジは元いた浜辺で立っていたのだ った。

白い光球はLCLの水面を滑るように移動して、水中に消えた。

5分位の時が流れたのであろうか、シンジには1時間位にも感じられたのだっ た。

やがて、水面から光球が再び姿を現して、ゆっくり空に消えていった。

「・・綾波・・さよなら・・」

消えていく光球を見つめるシンジの視界に、ドーンという衝撃音が聞こえてき た。

LCLの水面に水柱が立っている。衝撃音はこのせいだった。

水柱の根本のあたりから、何か赤いものがこちらに向かって来るようだ。

シンジは赤いものを凝視している。

「・・アスカ・・」

物凄い勢いで水面を走ってくるアスカ。

あっという間にシンジの元へたどり着くと、いきなりシンジの胸ぐらを掴み

「あんた!ファーストとどこいくつもりよ!!もらわれちゃってどおすんのよ っ!!」

シンジは泣き笑いしながらアスカをきつく抱きしめる。

「・・アスカ・・アスカ・・起きられたんだね・・」

「ちょっ、ちょっと、シンジ。いたたたた、痛いわよ、もう・・」

今度はしっかりとアスカの目を見つめながら、最高の微笑みをもって言ったの だった。

「おはよう、アスカ。」

頬を紅色に染めながら、はにかんだ様子でアスカも返す。

「お、おはよう、シンジ・・」

しばらく二人お互いにもじもじしながら向かい合っていたが、シンジが質問す る。

「ねえ、アスカ。綾波、何言ってたの?」

「えっ、あ、あのね、あなたが起きないからシンジが一人でかわいそうだから わたしがシンジを連れていくって。それで、わたしがシンジをもらって一つにな るって・・・」

「それで、起きたの。」

「う、うん。」

「そうか、これは、綾波が起こしてくれた最後の奇跡なのかもしれない・・」

シンジはアスカを再び強く抱きしめると、

「もう、僕はアスカを絶対に離さない。アスカは僕の希望なんだから・・」

「シンジ、恥ずかしいよ。こんな所で・・でも、あたしだって絶対離れないか らね。あたしがシンジの希望なら、シンジはあたしのすべてなんだから・・・」

赤い夕陽が二人を、長い影を作りながら照らしていた。




後書きでっす

ホントはその後を書く予定じゃなかったんです。

もきゅうさまが、アスカが死んじゃってるから続きが、読みたいような読みた くないような・・なんてこと言い出すから、つい書いてしまいました。

前作のコンセプトは、シンジくんもっと不幸になってみる?というところでし たが、アスカさんが眠りについちゃったもんだから、もきゅうさまが絶叫しちゃ って・・・

掲示板ではお代官さまの方々より、嫌いシリーズをお褒めいただいて冷や汗だ らだらでございます。

調子に乗って、シリーズいけいけになったりして・・・

ではでは



inserted by FC2 system