碇くんと赤木さん

製作 越後屋雷蔵



ゲッソリ頬が痩けた状態の、我らがヒーロー碇シンジくんはネルフの長い廊下 で、赤木リツコ博士とばったり会った。

「あら、シンジくんずいぶん痩せたみたいね。一昨日会ったばっかりなのに。 」

「ええ、リツコさんの親友のおかげで、ずいぶんいい目を見させてもらってま すよ。」

シンジにしては、なかなか気の利いたセリフであった。

「は〜ん、ミサトねえ。あんなのに何か相談でも持ちかけたんじゃないの。そ うなら、あんなのに相談する方が悪いのよ。そう、それを無様って言うわ。」

「はい、はい、僕は無様ですよ。ミサトさんなんかに相談なんかしたお間抜け 野郎ですよ。」

ふてくされていた。

「あら、あら、ずいぶん堪えてるみたいね。いいわ、今度は私が相談に乗って あげる。なんとかしてあげるわよ。」

「ほ、ホントですかあ〜」

「まかせておきなさい。なんたって博士よ、博士。血液の代わりにビールが流 れてるようなのと一緒にしないでね。相談してみる?」

もはや藁にもすがる思いのシンジはブンブン頷く。

「じゃあ、私の部屋でゆっくり話して。」

「はい。」

シンジはまだ錯乱気味だったのだろう。

彼は気が付くべきだった。

赤木リツコが、何故葛城ミサトの親友たり得たか。

彼は知らなかったのであろうか。朱に交われば赤くなる、類は類を呼ぶなどの 言葉を。

同類・・・なのだ。

部屋にて。

「じつは、かくかく、しかじかで、こういう訳なんですよ。」

「ふ〜ん。なるほどねえ。いいわ。なんとかなりそう。2、3日ちょうだい。 準備するわ。要するにアスカを優しくすればいいのね。」

「でも改造とかは、無しですよ。」

「人をショッカーみたいに言わないで欲しいわね。」

「すいません、じゃあお願いします・・」

シンジは部屋を出ていった。

その後、リツコの部屋にて怪しげな実験が繰り返されていたのだった。



その頃、惣流・アスカ・ラングレーは、伊吹マヤとなにやら話をしていた。

「んでもってね、吸い込んで吸い込んで、もうシンジの唇なんかたらこよ、た らこ。おかしいったらありゃしない・・」

「・・不潔・・」

「まあ、不潔でもなんでもいいんだけどね。マヤに相談なのは、シンジのバカ が自分から二股かけるなんて器用な事できる訳ないって事なのよ。大方ミサトあ たりの悪知恵が原因なんじゃないかって思うんだけど、そうならシンジには少し 悪い事したかな・・なんてね・・」

「ふふ〜ん、なんだかんだ言ってもシンジくんが好きなんじゃないの。アスカ ってかわいいわあ〜。いいわ、私がなんとか取り持ってあげる。少し時間をちょ うだい。」

「へへへ、ごめんねえ〜。もう、マヤくらいなのよね。こんな事話せるのって さ。」

「う〜ん、葛城さんはシンジくんの例があるし、先輩はこんな事見向きもしな いだろうしね。あら、ホントに誰もいないわ。」

「でしょう〜、頼んだわよ、マヤ。期待してるから、お願い・・」

「はい、はい。わかりましたよ。」

二人は手を振りながら、別れていったのだった。



その数時間後。

赤木博士の研究室。

「ふはははは、あたしは博士なんだから、ショッカーなんかに負けていられな いんだから・・・出来た・・・」

怪しい微笑みを浮かべて、出来上がった薬品を見つめるリツコ。

それをドアの隙間から覗くマヤの姿が・・・

「・・なに作ったのかしら。怪しい。怪しすぎる・・そう言えば青葉さんが先 輩とシンジくんが一緒に部屋に入るのを見たって言ってたわ。まさかシンジくん 性懲りもなく何か相談でもしたんじゃ・・」

「・・誰っ・・なんだ、マヤじゃないの。そんな所で何やってんの?」

「・・いえ、先輩が部屋に籠もって何をやってるのかなあって・・・」

「くっくっくっく・・・何て事ない実験よ。くっくっくっく・・・」

不気味な笑いを漏らしつつ、呟くリツコ。

冷や汗流しながら、愛想笑いを浮かべるマヤ。

「それじゃあ、私、先に失礼します。先輩、おつかれさまでした・・・」

そそくさと立ち去ろうとするマヤに、リツコは一言浴びせるのだった。

「おつかれさま。言っておくけど・・・あたしの部屋での出来事は他言無用。 分かってるわよね、マヤ。言わなくても・・・」

「も、もちろんですよ。先輩。」

背中に冷や汗ダラダラ流しながら、マヤは答えてドアを閉める。

足早に歩きながら、マヤはアスカに早く連絡しなければ危険だと考えていた。

前後の流れから見て、シンジかアスカにさっき作った薬を、飲ませようとして いるのは明白。問題は誰に飲ませようとしているかだった。

アスカならば、これから警告するからまだましだが、シンジの場合は彼本人が リツコに相談しているという事もあって、正面から助言することは難しい。

(仕方ない。アスカに任せるしか手は無いか・・・)

マヤは半ばあきらめつつ、歩きながら携帯電話で葛城邸を呼び出すのだった。



その晩。

ここは、葛城邸。

シンジは一心不乱に食事の製作にいそしんでいる。

そんなシンジをアスカは横目でチラチラ眺めていた。

その横でビールを呷る葛城ミサト。

「はい、おまたせ。できましたよ〜。」

シンジは出来上がった料理をテーブルにテキパキ並べる。

何もしないで、料理を眺めているだけの葛城家の女たち。

「さあ、食べよ。」

ご飯をよそいながら、にっこり笑う鉄人シンジ。

(・・いったい、どれにリツコの作った薬を入れたのかな・・)

アスカはそんな事を考えながら、みそ汁に口を付ける。

(むう、やはり非凡の才能。これがシンジの真骨頂ね・・・)

毎日食べてるにもかかわらず、食べる度に驚嘆するアスカだった。

日に日にシンジの料理の腕は上がっていく。

マヤから連絡を受けたアスカは、食事を作るシンジの手元をよく観察していた が、薬を投入した様子はどうにも見受けられなかった。

その内、いいかげん嫌になってシンジが薬を盛るなら盛るで、それならそれで いいやと思い始めていたのだった。

そうこうしている内に、食事も滞りなく終わり、ミサトはリビングに酒盛りの 会場を移し、シンジとアスカはテーブルでお茶を啜っている。

やがて、アスカが意を決したように、シンジに語りかけてきた。

「ねえ、シンジ。あたし知ってるの。リツコに作ってもらった薬・・」

シンジは、ばつが悪そうに頭をかきながら笑う。

「え、知ってたの。まいったなあ。」

「何に入れたの?」

「あ、入れてないよ。さすがに恐くなってね。冷静になって考えてみたら、あ のリツコさんが作ったのだよ。人相手にいきなり使うなんてできないよ。そう思 わない?」

「そ、そうよねえ。普通はそうだわよねえ。」

意外に冷静でいてくれたシンジに、アスカは感謝した。

もちろん、リツコの薬を盛らなかったシンジの理性にだった。

「実はマヤがリツコの部屋で怪しげな実験してるし、シンジがその前にリツコ んとこ行ったって教えてくれたのよ。それで、その危なそうな薬はどこにあるの ?」

「うん、なんでもアルコールと一緒だと強烈な催眠効果が出るらしくって、ミ サトさんがいるとこでは出しておけないから、リビングの花瓶の横に・・・」

シンジが振り向きながら、指をさす先には茶色の日本酒の瓶をラッパ飲みする ミサトの姿があった。

花瓶の横にはなにも無い。

「ん、どちたの?」

しあわせそうな顔のミサトがこちらを向いて、そう言ったと同時にひっくり返 った。

完全にそのままの形で硬直している。

呆然と見てるだけの二人。

「・・・こ、こうなるのかあ・・・」

「・・・・」

シンジとアスカは顔を見合わせて

「・・これは見なかったことにしておこう・・・」

「・・そ、そうね。それがいいわ・・・」

ミサトを無視することに決定したのだった。

リビングのテーブルに座って見つめ合う二人。

アスカが先に口を開いた。

「ね、ねえ。シンジ。あの薬・・・飲むとどうなったの?なんで飲ませなかっ たの?」」

シンジは少し言い澱みながら

「え、ああ。いや、今より優しくなるようになる薬らしいんだ。でも、今のア スカの方がアスカらしいからね。らしくないアスカなんか見たくないなって思っ たんだよ。それにやっぱり危なかったし・・・」

「・・へ、へえ・・あんた、優しくして欲しいの?・・・い、いいわよ・・も っと、優しくしてあげるわよ・・・」

なぜか顔を赤くしたアスカは、言った。

スッと立ち上がり、シンジの横に立つ。

シンジの頭を両手で抱え込んで、抱きしめた。

「・・こ、こんな感じで・・どう?・・・・」

シンジは、リビングで硬直したままのミサトに負けず劣らずに硬直しながらも 、アスカの腰に腕を廻して抱き返すのだった。

「・・アスカ・・ありがと・・・」

二人はしばらく抱きしめあったまま、動かなかった。

シンジが唐突に言う。

「こんな事なら初めっからミサトさんに飲ませる薬って、言っておけばよかっ たなあ。」

「うふふふ、でも、ある意味リツコのおかげかもね。」

笑いながらも抱きしめた腕を離さないアスカ。

「た、たまにはこうして優しくしてあげるわ。ふたりっきりの時にね・・」

「・・うん・・・」

再び口を閉じて、二人は抱きしめあう。

固まり転がったミサトと一つの影になったふたりを、静寂が包み込む。

いつまでも・・・

静かに・・・




後書き?

え〜

その〜

だから〜

いいじゃないですか〜

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