ゲンドウ・アナザー2

製作 越後屋雷蔵


「ふむ・・・・・」

ゲンドウは執務室でファイルを読んでいた。

惣流・アスカ・ラングレーのプロフィールが詳しく記載されているファイルで あった。

「我が組織は人材が豊富だな・・・・・・・ふははははははは。」

不気味に笑うゲンドウ。








惣流・アスカ・ラングレーは、着任の挨拶をするため総司令執務室前にやって きていた。

ドイツにいた頃から漏れ聞こえる碇ゲンドウ総司令の噂。

「不気味が服を着て歩いている」だの

「今まで素手で何匹もの熊を撲殺した」だの

「朝食は毒蛇丸かじり」だの

「気に入った女は必ず手込めにしてハーレムに監禁する」だの

「実は子煩悩で、子供のためには世界の破滅も厭わない」だの

その他もろもろの、およそまともな人間とは思えない噂ばかりが飛び交ってい た。

いかな天才を自認する、強気で鳴ったアスカとはいえ所詮は14歳のかわいい 少女である。

得体の知れない噂が飛び交う怪人物と対面するのに、心に恐怖が宿らない訳が ない。

実際、アスカは非常にびびっていた。

(こ、恐いよ〜・・・・・・)

ゲンドウ直々に、一人で執務室に来るよう指示されたのもその一因。

恐る恐る、ドアの前に立つアスカにいきなり

「入れ・・・・」

と声が掛かった。

(ひい〜〜〜〜〜)

かわいい顔が驚愕に強張る。

ドアが開き、まるで吸い込まれるようにアスカは部屋の中に入っていくのであ った。







だだっ広い部屋の中央にデスクが一つ。

無駄な空間ばかりの部屋であったが、アスカにはゲンドウの無言の圧力が充満 し、満ち満ちているように感じられたのであった。

実際ゲンドウの背後には、ゴゴゴゴゴゴ ゴ・・・・・・と、擬音が渦を巻いていた。

(はひゃ〜・・・・あたしが何したって言うのよ〜・・・・)

冷や汗をダラダラ流しながら、デスクからかなり離れた所で固まるアスカ。

おおよそ、10メートル。

ゲンドウの本気の気迫を目の当たりにした人間なら、近寄る限界がそんな距離 であった。

「着任ご苦労・・・・・」

意外にもゲンドウから発せられたのは、曲がりなりにも労いの言葉であった。

「はっ?は、はい!!惣流・アスカ・ラングレー着任しました。」

「使徒を一匹殲滅してきたそうだな・・・・・・大した手みやげだ。」

「いえ。それが仕事で来ましたから・・・・・」

「うむ、良い心がけだ。それはそうと、うちのシンジとはもう会ったそうだな 。」

「はい。空母の上で・・・・お、お会いしました・・・・・・」

アスカの脳裏に、シンジとの出会いがフラッシュ・バックする。

意外にかわいい顔立ちと、それでいて芯の強そうな眼差し。

何となく暖かく包んでくれそうな笑顔。

実は、アスカの好みであったのであった。

「かなり強烈なビンタだったとか・・・・・」

思い出す、あのビンタの感触。

クリティカル・ヒットとは、まさにあの事。

シンジのほっぺたに綺麗な紅葉を咲かせた記憶が蘇ると共に、ゲンドウの噂の 一例も頭を過ぎるのであった。

(子煩悩で子供のために世界の破滅も厭わない・・・・・・)

いまだに薄れる事のないゲンドウの迫力。

褒め言葉を発しているにもかかわらず、怒りが見え隠れする迫力。

(お、怒ってるんだ〜〜〜〜・・・・・どうしよ〜〜〜〜な、なんか言わなく ちゃ・・・・・・・)

「あ、あれは・・・・・」

声を裏返しながら言葉を紡ごうとするアスカを遮るように、ゲンドウの声が覆 い被さる。

「あれは?あれは・・・・なんだと言うのだ・・・・・」

いやがおうにも増すゲンドウの迫力。

アスカの身体は知らず知らずにガタガタブルブル震えていた。

(あう、あう、あう、あう、あう、あう、あう、あう・・・・・)

「惣流・・・・・」

ゲンドウがそう言ったとたんに、アスカの限界まで堪えていた我慢の糸がプッ ツリと切れた。

アスカはフラッと、床に崩れ落ちるしか為す術はなかったのであった。





しばらく後。

アスカはようやく眼を覚ました。

「う・・・ん。あれは・・・・・・夢?」

「夢なんかではないぞ・・・・・・」

倒れたアスカを長身のゲンドウが見下ろしていた。

カッと眼を見開いて、アスカの口から出た言葉は・・・・・

「い・・・命ばかりはあ・・・・お助けを〜〜〜〜」

と、なぜか顔を覆ってブルブル震えるのであった。

「失敬な・・・・・・なんでわたしが君の命を狙わなければいけないのかね? 」

「は、はひ、はひ・・・・・怒っていたんじゃないんですか?」

「ん?」

「あ、あたしが、サードを張り飛ばしたから・・・・・・」

「おお、そうそう。怒っているぞ。」

ホントに忘れていたらしく、ゲンドウに再び怒りのオーラが纏い付きはじめる 。

(しまったあっっっ・・・やぶ蛇だった・・・・)

「惣流くん・・・・・わたしがいかにシンジを愛しているか知っているかな? 」

ゲンドウの額に血管がボッコリと浮き上がる。

「た、助けて・・・・」

アスカは逃げようとして立ち上がるつもりなのだが、腰が抜けて立ち上がれな いでいる。

ゲンドウは言葉を続ける。

「わたしはシンジとかなり長い期間一緒にいることが出来なかった。それ故に シンジには幸福になって欲しいと思っているのだ。判るな。」

「は、はひ・・・・」

「そこで、わたしはまずシンジに妻を娶せた。ファースト・チルドレン綾波レ イがそうだ。」

アスカの顔に、よ〜く見ていないと判らないくらいの翳りが生まれるのをゲン ドウは見逃すはずもなかった。

「とは言え、シンジもまだ14歳。女の何たるかも分かるはずもない年齢だ。 そこで、惣流くんにシンジの二号さんになってもらいたいのだ。」

「に、二号?二号って・・・お妾さんの事じゃあ・・・・」

「うむ、そうだ。いや、我々の言葉で言うから下世話になるが、14歳では結 婚も出来ない事ではあるし、シンジとて今から一人の女に縛られるのは早かろう 。要するに仲良くしてやって欲しいという事だ。無論、本当に妾だなんだとは言 わない。言葉のあやと言うモノだがな。」

流石にアスカも、お妾さんと言われた日には恐怖も一瞬忘れて激昂する。

「なんであたしが妾になんなっくっちゃいけないのよっっっ・・・・・・」

「もっともだ。これはあくまでわたしの希望だ。碇ゲンドウとしてのな。妾と いう言葉に拘らず、恋人はいるがそれでも気に入った男がいてその男と仲良くな るといったニュアンスで理解してもらいたいものだ。」

一瞬の間を置いて、

「強制でも命令でもない。惣流くんの自由意志にまかせる事だ。結果について はわたしは何も言わない・・・・・返答もいらん。よく考えて行動して欲しい。 」

ゲンドウはそう言いながらデスクに戻りだす。

と、何かを思い出したかのように振り向くと、

「惣流くん・・・・・・向こうでなにかわたしの良くない噂なんかを聞いた事 はあるかね?どうにも根も葉もない事が一人歩きしておるようでな。実際噂なぞ とはわたしは違うぞ。」

そう言いながら迫力は増すばかり。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ゴ・・・・・・・・・・

アスカは、噂はすべて本当なんだと思った。

この迫力を目の当たりにすれば、噂の内容すら生易しい内容のように思えるの だった。

しげしげとアスカの顔を見るゲンドウ。

「惣流くんは・・・・なかなかかわいい顔をしているな・・・・・・」

(まさか・・・・・気に入られた?)

魂も凍りそうな瞬間、アスカの脳裏に粗筋が流れた。

1、ゲンドウに気に入られる。

2、むりやり有無を言わさず犯される。

3、秘密の地下室かなんかに監禁されて、一生おもちゃにされる。

(ひいっっっっっっっっっっ・・・・・・・恐いよ、恐いよ、おもちゃになん かなりたくないよ〜・・・・サードのお妾さんの方がまだ良いよ〜・・・・・・ そ、そうだ。お妾さんになれば、少なくとも司令のおもちゃにはならない・・・ ・・・あいつは好みのタイプだし、優しそうだからきっと大事にしてくれるに違 いない・・・・・)

「さっ、先ほどの件、けっ、検討させていただきますのでっ・・・・これにて ・・・しっ、失礼しますう〜〜〜〜」

アスカは抜けた腰はそのままに、動く手足で転げるように司令室から脱出した のであった。

(はひ、はひ、はひ・・・・・・)












一時入居しているネルフ内アスカのお部屋。

総司令執務室に呼ばれて二日後。

二日間アスカは悪夢にうなされていた。

逃げるアスカを追いかけてくる巨大ゲンドウ。

やがて捕まり、服を剥かれて全裸にされる。

ゲンドウの口から異常に長い舌が伸びてきて、ベロ〜リベロ〜リとアスカの身 体を舐め回す。

そして、鋭利な牙のような歯を見せながらアスカを喰らおうかというときに、 アスカは絶叫する。

「シンジ〜〜〜助けて〜〜〜〜〜」

という所で眼が覚める。

冷や汗かきながら、荒い息を付くアスカ。

「きっ、きついわ〜・・・・・・」

いつの間にか手に入れて、ベッド脇に飾ってあるシンジの写真に眼をやりなが らアスカは呟く。

「やっぱり・・・・・シンジに縋るしかないのかな・・・・・・」

自分の汗にまみれた姿をしげしげと見て・・・・・

「このままじゃ居られないもんね。よっしっ。無理矢理既成事実を作ってでも この状況から抜け出してやるっ。」

アスカは決意を固めたのであった。










本日のスペシャル・メニューと題された訓練予定表を手渡されたチルドレンた ちは、それぞれが別メニューの訓練なのに気が付いた。

「今日のぼくの予定・・・・・妙に間が空いてますね。」

シンジは訝しげに呟く。

アスカはシンジの横顔をチラチラ盗み見ながら、自分の予定表に目を落とす。

(あれ?あたしのも・・・・)

レイは慣れたものなのか、何にも言わない。

しかし、表を付き合わせてみれば、レイの予定だけビッシリなのに作為を感じ るはずである。

レイはシンジとひとつになれた幸せに、思考回路はあの夜の記憶のリフレイン だけに費やされ、シンジはシンジでレイの華奢だと思っていた身体が、実は部分 的に発育の良い体で着痩せするという事実に頭の中は占められていた。

アスカは言うまでもない、シンジにモノにしてもらなければ(モノにしなけれ ば)、ゲンドウの生け贄になるという強迫観念に取りつかれている。

「職員のスケジュールの都合でね、こうなったのよ。」

赤木博士も、どこか不自然なものを感じてはいたが、実際スケジュールがこの 通りだったので進行させる事にしたのであった。

「じゃ、始めましょう。」

赤木博士の号令で、訓練&テストは開始された。





「くっくっくっくっく・・・・シンジは幸せ者だ。二号さんの世話までしても らうとはな。これで父の愛情の深さを思い知るだろう・・・・・・さて、惣流。 きっちり動いてもらおうか。ここまでふたりっきりのシチュエーションを作った のだ・・・・・・」

ゲンドウは執務室のモニターを見ながら、不気味に呟いていた。

やはり、ゲンドウの仕業であった。





テストの合間の長い休み時間。

シンジはなにやら腑に落ちないモノを感じていた。

(初めて会った時、ぼくを張り飛ばしたアスカが妙にしおらしい・・・・・強 気な態度に変わりはないんだけど、なんかフッとした拍子に見せる表情がぼくに 縋るような雰囲気を感じるんだよね。・・・・・・かわいい。綾波とは違ったか わいさ。ぼくの好みのタイプが二系統に分かれるんだけど、あの二人は両方とも 系統に入ってるんだよね。)

先ほどの長い休憩時間では、なんだかんだ言いながら視線は合わせず、ほっぺ たを桃色に染めてなにかしたいがどうしたらいいか分からないといった雰囲気を 漂わせるアスカだった。

そして今、休憩室のソファに座っているシンジの横に、アスカがおとなしく座 っていた。

(ちょっと、居心地悪いなあ・・・・・)

手持ちぶさたなシンジが何か言おうと横を向くと、アスカもないか言いたげな 表情でシンジを見ていたのであった。

「あ・・・・・」

シンジが言い淀んでいると、アスカは意を決したように話し出した。

「シンジ・・・・お願いがあるの。」

「な、何?」

「あ・・・あ、あたしを・・・・抱いて。」

「はえ?」

「・・・・抱いて・・・・」

「そ、そんな事出来る訳ないだろ。何言ってるんだよ。」

シンジどぎまぎ。

「そう・・・・・やっぱり、シンジからは無理なのね・・・・・」

アスカは悲しそうに顔を俯かせるが、一瞬の後豹変する。

「ならば、あたしがむりやり抱いてしまうまでよっっっっ。」

顔を真っ赤に染め上げながら、シンジに襲いかかっていくアスカであった。










「ほほう、なかなかやるな惣流くん。ふっふっふ、おおっ、下着を付けていな いとは・・・・・・惣流くんはやる気満々だが、シンジは受け身一方だな。どっ ちが男か女か判らないぞ。なんかシンジがゴチャゴチャ言っているが・・・・む う、キスで口を塞いでしまうか・・・・・シンジがジタバタしておる・・・・・ ふふふふふ、かわいいのう・・・・・むっ、遂にズボンのベルトに手が掛かった な。あん?パンツまで一気に引き下ろしたのはいいが、手で目隠ししてどうする のだ惣流・・・・・・・指がVの字になっていては目隠しの役に立ってないがな ・・・・・・・さて、どうするのか・・・・・・だっ、大胆不敵な事を・・・・ ・・・まだ中学生だろうが・・・・・・ふっ、まだ稚拙ではあるが、懸命な所が なかなかそそるな・・・・・・・しかし、シンジの顔はどうだ。困惑と快感が入 り交じったとでも言うのか?・・・・・・いよいよか?・・・・・やはり、初め てか。手を添えて・・・・・ふむ・・・・・・ゆっくりだな・・・・・・」

ゲンドウはモニターに向かって、拍手をしながら呟いた。

「おめでとう・・・・・」









初号機ケージ。

初号機の前にゲンドウが立っていた。

「そろそろ、二回戦も終わる頃だな・・・・・・・・」

ポケットに手を突っ込んだまま、不気味に笑う。

「シンジが好みの女の子として、一回二回で終わるはずがない・・・・・・シ ナリオ通りだ。」

呟きながら初号機を見上げるゲンドウ。

「ユイ。待っていろ。サルベージのあかつきには、シンジの両脇に本妻と二号 さんを連れているという男の甲斐性をおまえに見せてやるからな。もうしばらく の辛抱だ・・・・・・」

ゲンドウは柄にもなく、優しい眼差しで初号機を見つめ続けるのであった。





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