ゲンドウ・アナザー

製作 越後屋雷蔵


「おまえが乗るのだ。」

ゲンドウは久しぶりに対面した、最愛の息子シンジに言った。

「ぼ、ぼくが?・・・・・この娘に?」

シンジは困惑していた。

それもそうだ。

いきなりエヴァの格納庫に連れてこられた挙げ句に、傷ついてベッドに横たわ る美少女に乗れと言われても、困惑以外にしようがない。

「と、父さん。このロボットに乗れって言うんだろ。この娘は関係ないんだろ 。」

ゲンドウは思う。

慌てふためくシンジもまたかわいいものだと。

「エヴァにも乗ってもらいたいが、それよりレイに乗るのが最優先だ。」

ニヤリと笑ってシンジに言う。

「かわいいだろう、レイは・・・・・おまえの好みを調べたからな。」

「そう言う問題じゃないだろ。怪我してるじゃないか。」

「無論、今すぐ乗れとはいわんが・・・・・乗る気になったか?」

「んじゃなくって・・・・・・」

「乗るなら乗れ・・・・・乗らないなら・・・乗れ。」

「ぐ・・・」

身体をプルプル震わせるシンジを見かねて、ミサトが口を挟んだ。

「え〜、司令。まずエヴァに乗ってもらう方が先でないかと・・・・・・・」

その時、地上で暴れる使徒の攻撃でケージが揺れる。

崩れ落ちる資材。

ベッドから転げ落ちるレイ。

心底優しいシンジは、少女の危機を黙って見ていられるほどお間抜けではない 。

走り寄ってガバッとレイを抱き起こす。

「だ、大丈夫?」

苦しそうな表情で、ゆっくり眼を開けシンジを見るレイ。

「・・・・・・は、初めまして・・・・・あ、綾波・・・・うぐっ・・・・レ イです。今後とも・・・・かわいがってくだ・・・さい・・・・・」

二人の上に、鉄骨が崩れ倒れてくるのをエヴァの腕が遮る。

「エヴァがっ・・・・起動もしていないのにっ・・・」

赤木博士が叫ぶ。

「問題ない・・・・・シンジ、その初号機にはおまえの母親、ユイの魂が入っ ているのだ。いわばその初号機はおまえスペシャル。どうだ、この父のセッティ ングは?かっこいい人造人間のパイロットになれた上、超絶世の美少女の許嫁。 これ以上の幸運はもはやないぞ。ユイも祝福してくれるからこそ、勝手に動き出 したというものだ。」

「し、司令。それって機密じゃないですか。」

赤木博士は青くなって窘めるが、ゲンドウは全く意に介さない。

「構わん・・・・・どのみち判る事だ。さあ、シンジ。覚悟を決めて乗れ、レ イに。」

「頼むわ、シンジくん。先にエヴァに乗って、お願い・・・・・」

満面不気味な笑みを浮かべるゲンドウと、必死の形相の赤木博士。

「くっ・・・・乗ります。エヴァに・・・・・」

絞り出すように言葉を吐き出すシンジ。

「なにっ!!レイじゃないのかっ。」

「司令はちょっと黙っててください。シンジくん簡単に操縦方法をレクチャー するから着いてきて。ミサトはレイを連れていって、冬月副司令は司令をどっか にっ・・・・」

そうして使徒は、もう乗る前から暴走気味のシンジによって殲滅された。









「知らない天井だ・・・・・・」

本気で暴走して錯乱した挙げ句に使徒を殲滅し、むりやり気絶させられて放り 込まれた病室でシンジは呟く。

ふと横を見れば、包帯を巻いて赤い顔して綾波レイがこっちを見つめていた。

「あ、あの〜・・・・」

シンジが言葉を掛けようとした時、部屋のドアが開いた。

ゲンドウであった。

「シンジ。怪我なぞ大した事なかろう。部屋は用意して於いた。とっとと退院 しろ。」

「それが実の息子に対するセリフなのかよっ・・・・」

「何を言うか。これ程おまえを愛する父の心が判らないとは・・・・・・情け ない。」

「情けないのはぼくの方だよ・・・・・・」

「まさか不満なのか?レイが気に入らないとでも言うのか?」

ヒョイッとシンジがレイに眼を向けると、レイは眼を大きく見開いて涙をたっ ぷり溜めて悲しそうな表情をしている。

「・・・・・わ、わたしが・・・・こんな醜いから・・・・イヤなの?わたし の心は・・・・・見てもくれないの?・・・・・好きで蒼い髪や紅い瞳してるん じゃないのに・・・・・ううっ・・・・・」

「あ、いや、そうじゃないんだ。綾波さんは綺麗だよ。髪や眼だって素敵だと 思うよ。ぼくが言いたいのは、このオヤジが・・・・・・」

「素晴らしい父というのが今更判ったのか?」

「ちげ〜よ!!」

「まあいい。さあ、シンジ。レイももう入院していなくともいいから、レイと 一緒に部屋に帰れ。」

「一緒ってどういう事?ぼくら三人で住むの?」

「ホントに情けない奴だ。おまえを愛するわたしの心根がま〜だ判らんとは・ ・・・・いくらなんでも甘い新婚家庭に居候するほど野暮ではないぞ、このわた しは。おまえたちは許嫁同士だ。夫婦も同然、二人っきりで暮らすのは当たり前 ではないか。」

顔が強張るシンジ。

「な、何言ってるんだよっ。ぼくはまだ中学生だよっ。綾波さんだって困るだ ろうにっ。ねえっ、綾波さん、そうだよね。」

レイは赤かった顔をますます赤くして、

「・・・・・よ、よろしくお願いします・・・・・・かわいがってね・・・・ ・」

「う、あ、よ、よろしく・・・・・」

つい、レイのかわいさに返事をしてしまったシンジであった。

「ふははははは・・・・・おまえたちの部屋は葛城くんの家の隣だ。ついでに 葛城くんの食事の面倒も見てやれ。じゃあ、わたしは行くからな。仲良くするん だぞ。あ〜、よかったよかった・・・・・・」

ゲンドウは晴れ晴れとした顔で去っていく。

「何がよかったよかっただよ・・・・・まったくもう・・・・・」

ゲンドウと入れ替わりに、葛城ミサトが入ってくる。

「え〜・・・・シンジくん、何と言ったらいいものやら・・・・・・とりあえ ず、おめでとう。レイもよかったわね。」

「・・・・・はい・・・・・ありがとうございます・・・・・」

「でも、綾波さんホントにこれでよかったの?」

「シンジくんは知らないだろうけど、レイったらねえ〜シンジくんの写真見た だけで一目惚れだったのよ〜。遭う日を心待ちにしてたのに、使徒の到着とかち 合っちゃって。レイ、どう?実物のシンジくんは?」

「・・・・・さ、最高に・・・・素敵・・・・です・・・・・・」

そう言って毛布に顔を隠して恥ずかしがるレイ。

「あははははは・・・・よかったよかった。」

こんな調子で、まさになしくずし的にレイと同居させられる事になったシンジ であった。










そして、レイの包帯も取れた頃。

満月がとても綺麗な、とある日の夜。

一日の疲れのためか、ぐっすり眠っているシンジの部屋の襖が、音もなく開い た。

カーテンの隙間から差し込む月明かりの先には、全裸の綾波レイが立っていた 。

レイはスッとシンジのベッドに近づき、シンジの横に横たわる。

気配を感じたのか、シンジが眼を覚ましレイに気づく。

「綾波?どうしたの?」

「・・・・・碇くん。わたしを・・・・・・食べて・・・・・」

「食べてって・・・・・あ、綾波・・・・・ぼくら・・・・まだ、中学生だか ら・・・早いんじゃないかな・・・・・・・」

「・・・・・早くない・・・・・わたしは、ずっと待ってたの。この日を・・ ・・・」

シンジは懸命に欲望と理性を戦わせていた。

だが、所詮ヘルシーな中学生。

溢れ出る欲情を押さえきれるものではない。

ましてや、自分好みの美少女の迫られてはね除けられるはずもない。

クラクラする頭の中の戦いは、欲情の勝利に終わる。

「・・・・い、いただきます・・・・・・」

「・・・・・・どうぞ、召し上がれ・・・・・・」

月の光の下、ふたりは今、一つになった。










初号機ケージ。

初号機の前にゲンドウが立っていた。

「そろそろ、レイも我慢の限界が来そうだな。」

ポケットに手を突っ込んだまま、不気味に笑う。

「シンジが好みの女の子に迫られて何もしないはずがない・・・・・・シナリ オ通りだ。」

呟きながら初号機を見上げるゲンドウ。

「ユイ。待っていろ。必ずシンジの結婚式までにはサルベージしてやるからな 。もうしばらくの辛抱だ・・・・・・」

ゲンドウは柄にもなく、優しい眼差しで初号機を見つめ続けるのであった。





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